静かな抵抗 [産経新聞台北支局長 長谷川 周人]

【11月18日 産経新聞「台湾有情」】

 「台湾人は自分一人では何もできない。国際社会はそう思うだろう。阿扁(ア・ピエ
ン=陳水扁前総統の愛称)は『台湾の恥』を世界にさらした」。陳前総統が身柄拘束さ
れたその日、仮眠をとろうと支局から帰宅する途中、タクシーの運転手がこぼした。

 返す言葉もなかったが、政局が混沌(こんとん)とする中、心強く思うこともある。
総統府近くで続く学生たちによる座り込み運動だ。

 中国・海峡両岸関係協会の陳雲林会長の訪台で、独立派による激しい抵抗運動が起き
た。この際に警察の一部取り締まりに「暴力行為」があり、これに抗議するとして名門
・台湾大学の学生を中心に始まった。人数こそ少ないが、様子はネット中継される。社
会的なうねりとなるかは未知数だが、地方の学生が加勢する広がりもみせ始めた。

 台湾でも若者のノンポリ化は著しい。政治対立に巻き込まれるより、将来の豊かな生
活を手にする方が大切だ。そう考える人が増える中、彼らの抗議行動は意外かつ新鮮に
映った。しかも真剣な横顔からは、この地に根付き、まだ見えぬ将来をつかみ取りたい
という思いが伝わってくる。

 彼ら若者は自嘲(じちょう)を込め自らを「苺(いちご)族」と呼ぶ。見た目は美し
いが、人が触れるとすぐ傷む軟弱世代という意味だそうだ。だが、汚名を返上するため
にも彼らは可憐(かれん)で力強く実る野イチゴから、抗議活動を「『野苺』運動」と
名付けた。

                                 (長谷川周人)



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