阿美族の<お・も・て・な・し>  傳田 晴久

【台湾通信(第101回):2015年8月1日】

◆はじめに

 ここ4回は堅い話が続き、No.100を堅く締めました。101回目はソフトな話で再出発です。

 今から8年前、頼三郎さん(本名・頼群家)に初めて阿美族の豊年祭を案内していただきまし
た。このたび再びその豊年祭に参加させていただくことになりましたが、またまた阿美族の皆様の
心に感激してまいりました。

◆話の発端は・・・・・

 経緯はいろいろ複雑ですが、数年前、都歴(台東県の阿美族の部落がある所)の小学校が創立
100周年を祝うという話を聞きましたが、同じ時期に信義国民小学校が100周年を迎えるという話を
聞き、「へぇ、台湾には歴史ある学校が沢山あるなぁ」と感心したものでした。

 信義国小の100周年記念の話をしてくれたのが、台湾歌壇の陳淑媛さん、どうやら都歴の小学校
が戦後信義国小に名前が変わったらしい。そんなことから淑媛さんともいろいろお話しするように
なっていた。そして、今年の4月下旬、淑媛さんのお宅を訪ねることになったが、そこでなんと8年
前にお目にかかった阿美族の長老廖錦章先生にばったりお会いすることになった。

 廖先生は学校の教員を長く勤められていたので、私は自然に「先生」とお呼びさせていただいて
おります。最初廖先生は半信半疑のご様子でしたが、やがて思い出されて、お互いに懐かしく7、8
年前を語り合いました。話は当然、今年の豊年祭に及び、「いらっしゃいョ」「ええ、喜んで」と
いう話になり、都歴国小の卒業生の蒋鳳華さんが、いろいろ段取りをしてくださり、いよいよ7月
10日に都歴の豊年祭に参ることになりました。この日、都歴の小学校の同窓会が開かれるので、高
雄や台南に住んでおられる方々が行かれるので、私も便乗させていただくことになりました。

◆一路、台東の都歴へ

 10日の朝、同窓会のメンバー、台南在住の林黎惠さんがわざわざ迎えに来て下さり、ご一緒に台
東目指して出発、途中、左営というところで、同窓会メンバーの葉愛美さん、蒋鳳華さんが合流、
女3人に護衛されて台東へ。

 日本語の慣用句「女3人寄れば姦しい」、正にそれを「地で行く」そのもの、いゃあ、実に賑や
かでした。途中でどなたかが、「賑やかでしょ」と尋ねるものですから、「女3人寄れば……」の
話をしたら、「姦」の文字は非常に悪い意味だと叱られてしまいました。

 途中、林邊付近で、昼食を取りましたが、私は久しぶりにこの地の名産「萬巒豬脚」(ワンルワ
ンジュージアオ:豚の足)を頂きました。

 台湾の東海岸・太平洋岸は最近観光地として発展しており、民宿が次々と建てられているようで
す。観光客が増えるのは良いことですが、宿泊費の高騰がひどいらしい。途中、きれいな、瀟洒な
民宿「河南邊」がありましたが、そこは総統夫人周美青さんお気に入りの民宿とか。付近に有名な
パン屋さん「馬利諾厨房」があり、流行っているようでした。試食しましたら、中々の味でした。
賑やかなおしゃべり道中も16:00頃、無事に都歴につきました。

◆同窓会特別参加

 その日(10日)の晩は皆さんの同窓会に特別参加、ゲストと呼んでくださいましたが、早い話
「押しかけ参加」です。

 8年前に感激して見た日本式の神社「都歴神社」の横には何と「餐廳(レストラン)」ができて
いました。当時とは様子が全然変わっていて、驚かされました。

 同窓会は総勢10名ほどで、早速食事会が始まりましたので、この場を借りて食事のメニューを紹
介したいのですが、残念ながら料理の名前は分かりません。思い出せる順に紹介しましょう。

 鰻が出ました。最近、日本、台湾共に鰻は高くて手が出ませんし、養殖ではないとのことでした
ので、蒲焼を頭に描きながら「しめた」と思いましたが、ちょっと様子が違いました。鰻を丸く、
輪切りにし、香草と共に油で揚げたものでした。味はまぁまぁでしたが、硬いのには参りました。

 「うに」、生うにが出ましたよ。「海胆」と書くそうですが、栗の毬(いが)のような棘は全く
なく、円盤状の硬い殻に覆われていました。日本のイガイガの高級品を思い出していましたが、全
然様子が違う。海胆同士でかち割り、中身を食べますが、潮の味はしますが、日本で食べるモノと
は大いに違いました。

 マグロの刺身が出ました。カジキマグロだそうで、これは日本で食べるのと全く同じ味でした。
しかも、ワサビは阿里山の本物との紹介でした。

 海藻が出ました。名前は分かりませんが、あっさりとして、大変食べやすいものでした。裏山で
採れた筍も出ました。もちろんパンノキ(麵包樹)の実のスープも出ました。そうそう、今回は
ビールを飲みながらの食事でした。前回は食事の後のビールで面食らったものでした。

 その晩は民宿が混んで泊まることができないので、長老廖先生の長男(廖偉志さん)のお宅に泊
めて頂くことになりました。当初、廖先生のお宅に泊めて頂くと聞いていたのですが、そこはエア
コンがないからと気を遣われ、息子さんのお宅に泊めて頂くことになった次第です。

◆豊年祭(VIP席で長老と踊りを見物)

 豊年祭の踊りの会場は前回の場所と同じでしたが、立派な集会所が建設されていました。私は長
老廖錦章先生のVIPということで、会場の最前列に座らせていただきました。

 豊年祭の踊りは、阿波踊りの「連」に相当する「拉(ラ)」と言う踊りの単位があり、小は10人
くらい、大は50人を超える組もあります。手を組み、歌を歌いながら踊ります。写真の先頭は現在
の頭目です。

 「拉」は設立した時を記念して名前が付けられますが、台湾の新幹線(台湾高速鉄路)ができた
年を記念して「拉高鐵」、2008年馬英九(マ・インチュウ)の総統就任を記念して「拉英九」
(ラ・インチュウ)などと名付けられます。

◆長老との夕食会(カラオケ初体験)

 豊年祭は長老の廖先生に言わせると、日本のお正月のようなもので、この日に家族や親戚がみん
な集まるんだよ、と言うことで、その晩は普段は離れ離れになっている一族が集まって夕食を取る
ことになっていました。私はこの夕食会に、これまた「押しかけ参加」させていただきました。

 レストラン「新澎湖」餐庁の一室に2卓、20名ほど集まり、食事が始まりました。私は廖先生の
お隣に座らせていただきました。料理を一通り頂きますと、いよいよカラオケです。私はカラオケ
が苦手で、今まで、一度もマイクを握ったことがありません。いつも逃げ回っておりました。

 皆さん実の上手に日本語の歌を歌われる。長老は私にそっと「みんな日本語の歌を歌っている
が、意味は全然分かっていないんだよ」とのこと。画面に表示される仮名は全て読めるのですか
ら、大したものです。

 カラオケの分厚い本が回ってくると、廖先生はどうやら歌う気らしい。「傳田さん、『星は何で
も知っている』は何番かな」と仰る。「えっ、歌うんですか?」と失礼な質問をすると、「僕は学
校で音楽も教えていたんだよ」。

 先生も実はカラオケは初めてらしい。過去に歌いたかったがチャンスがなかったとのこと。歌い
出しのタイミングが合わず、もたもたしていると、先生は「傳田さ〜ん、一緒に歌おう」遂に引っ
張り出され、生まれて初めてのカラオケに挑戦する羽目になりました。2人で音痴な声を張り上げ
て、歌いました。廖先生のリクェストは続き、なんと、「青い山脈」「骨まで愛して」を歌いまし
た。

 旅の恥はかき捨て・・・・、いえいえ阿美族の皆様のホスピタリティ(歓待の精神)にすっかり乗せ
られてしまいました。

◆おわりに

 いろいろ気を遣ってくれた蒋鳳華さんはもちろん阿美族の出身、大学で日本語を勉強されたとの
ことで、日本語が達者。曰く「原住民はみんな陽気なのよ、クヨクヨしたってしょうがないじゃな
い」まことにそのとおり。廖偉志の奥様李依蓉さんも実によく歌い、踊る。そして働き者で、実に
よく気が付く。

 久しく浸ったことのない大家族の、ほんわかとした楽しいひと時をご一緒させていただきまし
た。


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