近平政権はどのような外交路線をとるのか──台湾関係者にとっても気になるテーマだ。
産経新聞が趙紫陽元総書記のブレーンで、最近『次の中国はなりふり構わない』を出版
したカナダ・ビクトリア大学教授の呉国光氏へのインタビューを掲載した。
◆『次の中国はなりふり構わない』(産経新聞出版、2012年5月24日発売、1,680円)
http://www.sankei-books.co.jp/m2_books/2012/9784819111652.html
習次期政権 強硬外交で摩擦増─趙紫陽元総書記のブレーン呉国光氏インタビュー
【産経新聞:平成24(2012)年7月17日】
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120717/chn12071721100004-n1.htm
【北京=矢板明夫】1989年の天安門事件で失脚した中国共産党の趙紫陽元総書記のブレ
ーンで、カナダ在住の中国問題研究者、呉国光氏が17日までに産経新聞の電話と書面によ
るインタビューに応じた。今秋に発足する習近平政権について「経済成長のゆがみがもた
らした社会矛盾が深刻化し、厳しい政権運営を迫られそうだ」との見方を示した上で、
「国内の不満を外にそらす形で、強硬な外交路線を取り周辺国とのトラブルはさらに増え
る」と指摘した。
◆国内の不満そらす
「趙紫陽の政治改革案」の起草者の一人としても知られる呉氏は、今の中国が抱える最
大の問題を「経済的既得権益者に権力が集中し、弱者の声が政策決定過程に反映されない
こと」と指摘。2002年から約10年間続いた胡錦濤政権について「政治改革を全く実施しよ
うとせず、社会矛盾を拡大させた過ちは大きい」と厳しい評価を下した。
今年3月に保守派とされる大物政治家、薄煕来・前重慶市党委書記が胡錦濤派との闘争に
敗れ、失脚したことを一部の欧米メディアは「改革派の勝利」と指摘したが、呉氏は「改
革派も保守派も関係なく、党内の主導権争いにすぎない。薄氏の失脚で中国が良くなるこ
とはない」と一蹴した。
◆改革する勇気なし
呉氏は社会矛盾の具体例として、焼身自殺やテロが多発するチベットや新疆ウイグル自
治区を挙げ「中国の経済発展は弱者の犠牲のうえに成り立っている。少数民族は最大の弱
者で、その反抗は今後過激化していくだろう」と指摘した。
呉氏は、秋の党大会で最高権力者の党総書記に就任する予定の習近平氏についても「既
得権益者のしがらみの中にあり、なかなか身動きが取れないだろう。政治改革を断行する
勇気も能力も今のところは全く見えてこない」と手厳しい。
呉氏は、習次期政権の外交政策は強硬路線を取る可能性が高いとし、「対外拡張路線が
さらに明確化すれば周辺国との摩擦も増えるだろう」と危惧する。
「なりふり構わず海外に出ていく今の姿は、19世紀の欧米列強と重なる。中国は100年も
遅れてきた帝国主義国家になろうとしている」とも断じた。
呉氏は今後の日中関係にも触れ「中国の目的は、日本と東南アジア諸国を自国の子分に
して、地域の覇権を実現することだ。今の日本は日米安保を放棄し、中国を基軸とする外
交に転じると思えないから、両国間の緊張はさらに高まっていくだろう」と分析した。
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呉国光(ご・こくこう)カナダ・ビクトリア大学教授。中国山東省生まれ。1981年北京大
学卒業後、中国社会科学院の院長秘書などを経て、趙紫陽元共産党総書記主導の「政治体
制改革研究チーム」に選ばれ、87年の党大会に提出した政治改革に関する報告書を起草。
天安門事件直前に渡米し、ハーバード大学などを経て現職。6月に産経新聞出版から中国独
裁政治の矛盾を分析した「次の中国はなりふり構わない」を上梓した。