中国についてだれもがもっとも関心を抱く問題、なぜ中国は民主化しないのか、明日の
中国はどうなるのかを解明したのがこの本である。
著者の呉国光氏は現在、カナダに在住している。呉氏は年若くして人民日報の論説委員
となり、趙紫陽首相の政治改革計画に参画した。呉氏が中国を離れたのは1989年の天安門
事件が起きる直前、趙氏が首相の椅子を逐(お)われる直前だった。
呉氏はこの著書のなかで、「2001年で中国の改革は終結した」と説いている。
どういうことなのか。中国政府は中国の企業が国際的な競争力を持つようになるために
はWTO(世界貿易機関)に加盟することが是非とも必要と承知していた。そこで1995年
に中国は国際人権A規約に署名し、さらに民主化のポーズをとり、翌96年には「すべての
市民は自決の権利を有する」と定めた国際人権B規約に署名し、アメリカとWTO加盟を
交渉する用意を整えた。こうして2001年に調印にこぎつけ、加盟3年あとには中国の輸出入
総額は1兆ドルを超え、日本を抜いて世界3位となったのである。
そして呉氏は中国が2001年からは改革をおこなうことなく、独裁体制を「安定維持」す
るための対策だけを講じてきたのだと説く。本書の巻頭に載せた櫻井よしこ氏の解説が
「共産党の生き残りこそが中国の大目的」と題した通りなのだ。その7ページにわたる解説
は、本文に叙述されている中国政府が「安定維持」のためにやってきた4つの対策を簡潔に
まとめている。
本文からその対策のひとつを引用しよう。WTO加盟が可能にしたのは、国民の「経済
的買収」なのだと呉氏は説く。「買収」はいつまでつづけられるか。「経済成長率が5、
6%に下降したら、社会、制度全体はおそらく大きな問題に直面する」と述べ、「民衆の集
団パワーが政府に大幅な改革政策を突き付け」ることになると呉氏は予測する。
付け加えよう。中国政府が発表したこの4月から6月までの経済成長率は7・6%である。
(産経新聞:平成24年7月29日付より)
・呉国光著『次の中国はなりふり構わない─趙紫陽の政治改革案」起草者の証言』
・廖建龍訳/産経新聞出版・1680円
http://www.sankei-books.co.jp/m2_books/2012/9784819111652.html