訪日中の与党・民主進歩党(民進党)総統候補である謝長廷・元行政院長は12月18日、
東京有楽町の日本外国特派員協会で記者会見を開き、台湾の安全保障戦略などについて
語った。
謝氏は「台湾という国の安全保障および主権の独立が確保されなければ、台湾住民の
自由を守ることもままならない」との認識を示し、「台湾と香港を同列に置いて、経済
問題こそが重要で、安全保障とアイデンティティーはどうでもよいというのは間違った
解釈だ。台湾は独自の総統(大統領)、国会、通貨、司法制度を有する事実上の独立国
家である」と強調した。
謝氏は「台湾が直面している安全保障問題は中国に起因している。中国は1,000発以上
のミサイルを台湾に向け、台湾を国際的に孤立させ、台湾の国際社会への参加資格を奪
おうとしている。その中には人々の健康と深い関係のある世界保健機関(WHO)も含
まれ、台湾国民には国際機関への加盟を要求する権利がある」と強調し、「台湾がさま
ざまな国際機関への加盟を求めていることに対して、国際社会に緊張をもたらすトラブ
ルメーカーであると批判する人もいるが、1,000発以上のミサイルが台湾に向けられてい
るという現実は、あまりにも常軌を逸したものだ」と訴えた。
台湾の安全保障に関して謝氏は「最低限の防衛装備が必要である」と述べ、防衛予算
をGDPの3%以上の規模にする必要があるとの考えを示した。また、謝氏は「日米安
保体制」がアジアの平和と安定に大きな役割を果たしているとして支持を表明し、「日
本とアメリカは台湾にとって最も重要な友邦であり、歴史的にも、戦略的にも、共通の
防衛目標と利害関係をともに打ち立てる必要がある」との認識を示した。
台日関係については「国防、文化、経済、NGO、環境保護など幅広い領域にわたっ
て友好関係を強化していきたい」と述べ、特に二酸化炭素排出量削減に関して日本との
協力を強化したいとの意欲を示した。
台湾の国連加盟運動について謝氏は「台湾アイデンティティーと台湾人のコンセンサ
スを固めていくための最も有効な方法である」と述べ、来年春の台湾総統選挙は「台湾
アイデンティティー」と「中国アイデンティティー」という国家アイデンティティーの
選択となるとの認識を示した。
さらに謝氏は「国連加盟運動は決してアジア情勢を緊張させる要因とはならない。む
しろ、台湾が国際社会の一員になれず、支持を得られない現在の状況こそが、アジアの
緊張を招いている。台湾が国として認められなければ、中華人民共和国が台湾をその一
部と主張することになり、それがアジア情勢の緊迫につながるからだ」と強調した。
謝氏は自身が掲げる哲学「共生」について、「単に共存を目指すものでなく、共に
繁栄し、互いに依存するという意味を含んでおり、私は原則的に平和主義を主張する。
しかし、その前提は『自存』である」と述べ、自らが生存することによってはじめて他
者から尊重され、保障を受けるとの考えを示した。
中国問題に関しては「多くの台湾人は最近の中国の発展を喜ばしいことだと考えてい
る。それは中国の平和的台頭、経済の急速な発展には台湾の企業や人々も関与し、寄与
しているからだ」と述べる一方で、「もし台湾がまったく尊重されなければ、それは台
湾2,300万人の基本的人権問題へと直結し、台湾海峡を挟んだ両岸の緊張が惹き起こされ
る。中国が武力をもって台湾を脅し続けるなら、それは台湾問題が平和的に解決されな
いことを意味し、中国がアジアにおける脅威であることを示すことになる。その被害は
台湾だけにとどまらず、日本を含めた多くの国々がその被害を受けることになる」と強
調し、国際社会がもっと台湾に関心を寄せるよう訴えた。
謝氏は、台湾と中国との関係は孔子の「小をもって大に事(つか)うるには智をもっ
てし、大をもって小に事うるには仁をもってす」に学ぶことが必要だとし、「小国の台
湾は大国の中国に対して知恵をもって対応し、大国である中国は仁と寛容の心をもって
小国の台湾に対応しなければならない。平和共存とは、中国に対して語るべきものだ」
と訴え、将来の台湾はハードパワーとソフトパワーを結合させた「スマートパワー」
(知恵の力)が必要であるとの考えを示した。
最後に謝氏は、「台湾が独立国家として国際的な地位を求め、世界から評価されるこ
とは、台湾が自らの尊厳を求めることである。台湾はトラブルメーカーなどではない。
平和国家である台湾は世界平和に対して大きな貢献を果たすことが可能であり、かつて
経済発展や政治的民主化という経済的奇跡、政治的奇跡を果たしたように、将来は世界
平和という奇跡を作り出すミラクルメーカーになる」と強調した。
このほか、謝氏は記者からの質問に答え、チャーター便の拡大による両岸直航を推進
すること、中国が主張する「一つの中国」原則の条件は受け入れないこと、台湾国内の
投資環境を改善して製造業の品質を向上させること、ハイテク産業の中国移転の制限を
米国企業並みに緩和すること、憲法改正や国名の変更には憲法に基づいた手続きが必要
であること、日本に対して米国の「台湾関係法」のように台日関係を法制化して一定の
条件あるいはトランジットの形で総統が日本を訪問できるよう求めること等について語
った。