日 時 平成16年5月21日(金)16:25〜16:45
会 場 台湾総合研究院
台湾総統府からの招待を受け、3度目の公式訪問団となる「総統就任式参列訪
台団」(団長・黄文雄常務理事、副団長・伊藤哲夫常務理事)が5月20日の総統
就任式へ参列した。
翌21日、予定にはなかった李登輝前総統との面会が急遽実現し、短時間なが
ら、オフィスである台湾総合研究院においてお話を拝聴する機会に恵まれた。李
登輝前総統は台湾のアイデンティフィケーションの問題などをテーマに、とても
満81歳とは思えないほどエネルギッシュな感じでお話しになり、私どもは深く感
銘し、新たな「台湾力」をいただいた感じだった。これはその講話録で、日本で
初めて公開するものである。
その折、オフィスに李登輝前総統を訪ねられた総統府国策顧問で李登輝之友会
全国総会の黄崑虎理事長と偶然にお会いし、ご同席いただいた。本文中の「伊藤
さん」とは、本会の新潟李登輝友の会支部長で、李登輝前総統の台北高等学校同
級生の伊藤栄三郎氏のことである。
李登輝前総統にはご多忙のところわざわざお時間を割いていただき、また、快
く記念撮影にも応じていただき心より御礼を申し上げます。
尚、括弧内は本会事務局で加えた注である。(文責・日本李登輝友の会事務局)
黄崑虎:李総統に簡単に報告します。今日いらっしゃったのは日本李登輝友の会
のメンバーです。今、柚原さんが総幹事(事務局長)をやっています。わざわ
ざ陳水扁総統の就任式にはるばる日本からいらっしゃったわけです。今日は李
総統に会えて非常にみんな嬉しくて、光栄に思っています。
李登輝前総統:あの田舎の家まで行ってきたそうですね(笑)。もうボロボロに
なっているから、あれを皆さんに見せるのは良くないけどね。実際、あれは非
常にたくさんの人が所有しているんでね、私だけではどうにもならない。抗議
しましたよ、継承権の件では。ま、そういう関係でね、きちっと整理できませ
ん(笑)。
伊藤栄三郎:李登輝さん、昨日まで先生はお忙しくてお会いできないと聞いてい
た。ところが、今日バスの中で電話が入ったわけ。
李:そうそう、鍾(振宏)さんね(笑)。そしたら、15分でもいいから写真を撮
ろうと。実はね、今日16時から別のグループが待っているんだよ。でも、日本
から来たからやっぱり会いましょう。でないとね……。
伊藤:そしたら皆、万歳しましたよ。(会場 笑)
(以下、李登輝先生講話)
台湾はこれから、前よりももっと努力しなくてはならない。そして、台湾の民
主化を固めていく。私の希望としてはアイデンティフィケーション
(Identification 帰属意識・一体化)をこの4年の間に75%へもっていく。その
間に憲法を作り直しするとかね。できたらね、国の名前も変えちゃうんだ。
あのね、リパブリック オブ チャイナ(Republic of China 略称:ROC)と
いうのは日本でも使ってないでしょう。台湾だけで使っているのがおかしくて、
これを直すんだけど、やっぱり苦労しますね。とういのはね、蒋介石と一緒に来
た国民党の政権、やっぱり台湾には200万人くらい人がおりますからね、この連中
は反対を加えますよ。ま、だから徐々に徐々に一歩ずつ。でもね、昨年、正名運
動をやって正しい名前に変えましょうとやった。たくさん集まっちゃってね。ま
あ、あの調子でね。
さっき韓国の方と話したんですが、台湾でいま非常にうるさいのがアイデンテ
ィフィケーションの問題をスムーズにどうやっていくかということ。台湾にはね
、エスニック問題はありません。いちばん大事なのはね、台湾を国と思う、これ
は私の国だと思う人がね、そんなにいないこと。しかも、50年間の昔の教育。私
が台湾人に言ったように、司馬遼太郎さんに言ったように「台湾人に生まれた
悲哀」。
というのは、台湾の400年の歴史は戦後になって急になくなっちゃって、中国大
陸の歴史と結びついた。そうしたら今の若い人、私たちのおやじさんやおじい
さん、おばあさんの歴史は何か、分からないんだよ。ちょうど今の日本の若い人
が日本の歴史をあんまり分からないのと同じくね。台湾はもっとひどいんですよ。
ぜんぜん蔑ろにしてきたもんだから、空白なんだ。おじいさん、おばあさん、何
だ、何の生活をやってきたのか(分らなくなっている)。
最近、「舞踏の時代」といって、台湾でダンスが始められた(ことを描いた)
「舞踏の時代」という記録編の映画が出たんだよ。若い女性が作った映画ですよ。
1930年頃のコロンビアの流行歌。それが基礎になって……。今の若い人たちは
「台湾でもこんなに早くから流行歌がある。それとダンスもやる。そして自由恋
愛もする。おお、面白い。台湾の歴史っていいな」と思い出しているんだよ、そ
れをどんどん分からせないといけない。それで私が「李登輝友の会」全部に見な
さいと言ってね。
我々100回言ってもね、映画一つ見て初めて「ああ、こうだったのか」と。そう
いうことはね、つくづく感じられるんですよ。黄(崑虎)さん、これから台湾全
土に渡ってこの映画まず見せましょう。
10時間の歴史の講義をやっても、映画2時間見ただけで「おー、そうか」そうい
うふうに変わるんですよ。それを今、台湾でもっとやらなくちゃいけない。それ
がここの「群策会Taiwan Advocates」(李登輝前総統は財団法人群策会の理事長)
は、この仕事ばっかりだ。教育、それから教え込む。いい映画あったら「こうい
う映画はね」と、作るのを楽しみにしている。
最近は、八田與一さんの烏山頭、嘉南大圳の映画を作るそうだ(会場大歓声)。
私も行ってサポートする。それで台湾がどうなってきたか、それを見せないとい
けないんだよ。我々の祖先はやっぱり昔からとても進んだ社会に住んどったとい
うことを分からせるんだよ。
台湾の今の若い人には、昔からの台湾の歴史はなくなっちゃっている。蒋介石
政権が台湾に来た戦後のこの歴史を、中国大陸とつないでしまったんだ。今の若
い人、分からないのは空白の状態にあるからで、その空白を埋めなくちゃならな
い。誰がやるのか。(自らを指さして)おじいさんがやる、おじいさん。(会場
大爆笑)
日本も同じ、おじいさんが孫に話をするのがね。おじいさんと孫が戦争につい
て話をする。おじいさん、言わないんだよ。今のおやじ、だらしがないから。日
本でも同じだ。台湾でも同じ。じゃあ、台湾のアイデンティティーが一番悪いの
は何歳頃の人と思う? 50歳。それで案外いいのはね、10歳代。10歳代の人、い
いよ。20歳の人……だんだん下がって、いちばん悪いのは50歳。それからだんだ
ん上がっていく(宙に指でUの字を描きながら)。60、70、80歳。100%のアイデ
ンティティーがこういう状態(自らの胸をたたいて)。
大陸から来た外省の連中たちね。1代目、2代目、3代目、4代目と、こうね。今
ね、フランスの学者が研究しているんだ。報告が出たよ。その報告を見てると、
3代、4代は1代よりずっといいですよ。だから私は非常に希望をもっている。ま
あまあ、生きている間に台湾のアイデンティティーを、もう75%ではなくて100%
にもっていけたら、台湾しめたもんだよ。台湾を本当に民主化した社会、民主化
の政治、そういうところにもっていく。台湾はそうなると、本当に日本の生命線
だよ(笑)。日本は絶対に安全だよ。そういうところにやらなくちゃならない。
今日、皆さん来ましてね、実際あまりお話する時間がなくて、皆さん、わざわ
ざいらっしゃいましてありがとうございました。
陳総統が当選した。私もね、実を言うと3月の20日はハラハラしとってね(笑)。
大丈夫かなあと心配しました。まあまあ一応。今、いろいろな問題が起こってい
ますが、あまり気にしないでください。台湾の人民はだんだんとアイデンティフ
ィケーションが強くなって、そしてやっぱり陳総統サポートですよ、最後は。陳
総統はやはり台湾の人々を代表しているということになります。
そういうようなことで、皆さんがわざわざ慶祝会に参加してくれましてありが
とうございました。
・李登輝前総統より日本李登輝友の会へ記念品贈呈
李:皆さんに差し上げます。100万人の人間の鎖のビデオも入っている。使ってく
ださい。
・日本李登輝友の会より李登輝前総統へ記念品贈呈
柚原:ありがとうございます。李登輝先生、これはですね、Z旗でございます。
李:ああ、そうか。Z旗か。「皇国の興廃、この一戦にあり」。この前来た時も
言うたなあ。勝たなきゃ。そうだな(3月12日〜14日の台湾総統選挙視察団で訪
台した折、李登輝前総統と高雄でお会いした)。
柚原:12月には立法院選挙もございますので。それで、先生も御覧になったかも
しれませんが「明治天皇と日露大戦争」、このビデオもお持ちしました。
李:はい、ありがとう。承知しました、ありがとう。皆さんに大事にされて恐縮
、恐縮。本当に奮闘しなきゃならない。ありがとう。
(その後、記念撮影)