私の世界を広げた来日初の列車の旅 [出町 淑貴]

台湾・新竹出身の出町淑貴(でまち すうくえい)さんのエッセイ「私の世界を広げた
来日初の列車の旅」が、産経新聞主催のエッセイコンテスト「第13回『JR東日本で行く
列車の旅 感動募集2006」に佳作入選しました。昨年12月28日の発表でした。

 来日7年目にして初めて列車に乗って東京へ行ったときの感懐をつづったもので、読んで
いて胸が詰まってくる切々とした内容です。すでに「台湾の声」に掲載されましたが、改
めてご紹介します。

 なお、出町さんは本会の青森県支部事務局次長と青森日台交流会事務局長を兼務し、ご
案内のように、1月20日には(財)青森県国際交流協会が開く「グローバルトーク」に登壇し
ます。また、1月27日には青森李登輝友の会と青森日台交流会が合同でDVD鑑賞会と新年
会を開きますので、お正月から大忙しです。

 ご主人の理解もあって、育ち盛りのお子さん3人を育てつつ、日台交流を進める頑張り
屋さんの「阿貴(アクエイ)」こと出町淑貴さんを応援してください。
                     (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)


私の世界を広げた来日初の列車の旅

 98年、20歳で台湾から青森へ嫁いだ私は、昨年12月3日に列車に乗り、来日7年目にし
て初めて東京へ行きました。それまで子育てやパートの仕事で忙しく、外泊したこともあ
りませんでしたが、そろそろ自分のために頑張ってみようと思い、日本語能力一級試験を
受けるため、冒険に行く気持ちで、たった一人の3泊4日(車中2泊)の旅に出かけたの
です。

 私は台湾の片田舎にいたときから列車が大好きでした。当時はバイク通勤もできたので
すが、あえて時間のかかるローカル列車に乗り続けました。待ち時間など苦ではありませ
ん。なぜなら列車なら旅気分になって心が安らぐからです。

 また列車はいつも誰かと出会える予感を与えてくれました。もしやまだ知らない運命の
人と会えるかなと期待したり……。

 よく人は「列車は夢や希望を乗せて、新天地へと向かう」といいますが、私もそのよう
なロマンを抱いていたわけです。

 もっとも列車での切ない別れもありましたし、傷心の私を故郷まで運んでくれたのも列
車でした。ですから列車には、忘れがたいいくつもの思い出もあるのです。

 さて、いよいよ東京2WAYフリー切符で、18時46分弘前発の寝台列車に乗った私は、
生れて初めての寝台車に子供みたいに興奮し、窓から夜の景色をみたり、寝台の構造を研
究したり、乗り降りる人々を観察したり、各停車駅の写真を撮ったりで、結局一睡もしま
せんでした。

 車内では弘前在住の親切なおばあちゃんと仲良しになりました。東京にいる娘さんがな
かなか帰って来ないので、孫の顔を見に、こうしてよく寝台車で出かけるとのこと。もう
70歳を超えているのに、よく大都会で迷わずたどり着けるものだと感心しました。

 そして約12時間後の翌朝6時58分、上野に到着。試験は翌日でしたので、まず東京見物
をしたのですが、慣れない都会で緊張し通しだった私は、電車を3回も乗り間違えました。
しかしその都度丁寧に説明してくれたのが各駅の駅員さんです。本当に頼りになり、感動
しました。

 そして試験は無事終了、ネットで知った台湾研究者の会合にお邪魔しました。そこでは
私の祖国に関心を持つ大勢の先輩や友達と巡り合い、私もその輪に入ってみようと思いま
した。何か自分の世界が果てなく広がったような気持ちでした。

 こうして刺激あふれる東京の旅は、あっという間に終わりました。帰りは大宮から寝台
車に乗ったのですが、その人たちと話に夢中になりすぎて、本当に駆け込み上車でした。

 その夜も私は寝ないでいました。次はいつ来ることができるかわかりませんので、一つ
一つの駅に「さよなら、またね」と告げながら、その風景を目に焼き付けようとしていた
のです。

 そして来る10月28日、私は台湾文化の研究発表のため、また寝台列車で東京へ行きます。
今度はどのような世界が私を待っているのか、今からわくわくしているところです。

*出町さんが10月28日に二度目の上京をしたとき、私どもは大歓迎会を開いて、帰りの電車
 の出発時間ぎりぎりまで楽しい時間を過ごしました。(柚原)


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