督役を担う台湾の監察院(張博雅院長)は、日本に対する食品規制実施に際し、担当する行政院・
衛生福利部食品薬物管理署(食薬署)の「確認作業が完全ではなく、抜け穴があったと指摘。国民
の食品安全に対する不安をあおったことは過失」「輸入規制の追加措置についても、実施までの過
程に多くの不手際があった」(中央通訊社)と指摘、2カ月以内に改善策をまとめて報告を求めた
と伝えられる。
日本の国会議員が規制撤廃を求めて4月末に訪台したとき「科学的根拠を示して欲しい」と要求
したにもかかわらず、のらりくらりと言を左右にして答えなかったのが、この食品薬物管理署を所
轄する衛生福利部。出席した国会議員によれば、まったく貸す耳をもっていない雰囲気だったとい
う。
その後、馬英九総統の「偽装問題の解決が先」の鶴ならぬ馬の一声で5月15日をもって日本から
の食品に対する輸入規制強化が実施されることになる。衛生福利部としては従うしかなかったのか
もしれないが、日本の国会議員たちはその強硬な姿勢に驚いたともいう。
本誌でも規制強化の非を指摘してきたが、食品規制担当部署の「過失」と「不手際」が白日の下
にさらされ、自浄のために監察院が動き出した。監察院の張博雅院長は、この7月20日にも来日す
ると伝えられている。
昨日の産経新聞がこれまでの食品規制強化を受けた日本側の様子を伝えている。下記に紹介した
い。
台湾・馬政権は“反日”に舵?…日本からの食品輸入を規制強化
【産経新聞:2015年7月15日】
台湾が日本からの食品輸入規制を強化し、産地証明などを義務づけた。九州も青果を中心に台湾
への輸出が盛んなだけに、関係者に懸念が広がる。親日傾向が顕著な台湾だが、馬英九総統はここ
にきて、“反日”に舵を切ったかのような言動をしている。規制が長引けば、日台の経済交流に水
を差しかねない。(津田大資)
台湾当局は5月15日付で、日本からの食品輸入の規制を強化した。日本側との事前協議もなく、
一方的だったことから、農林水産省など関係機関に衝撃が走った。
台湾側が挙げる理由は、東京電力・福島第1原発事故だ。
台湾は平成23年3月の事故直後から、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産の食品輸入を禁止し
ている。今回、この5県を除く42都道府県で作られた生鮮・加工食品について、都道府県までの産
地証明が必要とした。
さらに、岩手、宮城、東京、愛媛4都県の水産品については放射性物質の検査報告書の添付を義
務づけた。事故現場から遠く離れた愛媛県が対象となったことで明らかなように、合理的・科学的
な理由はまったくなく、日本側は撤回を求めた。
「本当に驚いており、理解できない。かといって、農水省が(産地の)証明書を発行すれば、か
えって日本の食に危険性があるように受け止められる。台湾内で風評が広まり、日本産食品の販売
に支障がでかねない」
農水省輸出促進グループの担当者はこう憤った。
台湾当局の規制強化の結果、特に加工食品では、県や商工会議所の証明書を新たに添付する必要
が生じた。
農水省によると、青果や水産物が輸出できなかった事例はないというが、関係者は悩みを深め
る。
福岡産の高級イチゴ「博多あまおう」など、主に九州産青果の輸出を手がける福岡農産物通商
(福岡市中央区)の輸出担当者は「植物検疫証明書の条件などを、急に厳しくされる可能性もあ
り、不安は払拭できない」と語った。
■先行き不透明
今回、台湾当局が規制強化に乗り出した直接のきっかけは、今年3月に発生した産地偽装事件
だった。
台湾の地元業者が、輸入が禁止されている福島など5県産の食品に他県産のラベルを張り、市場
に流した。
事件後、国会にあたる立法院で、野党議員が「日本の食品は放射能に汚染されている可能性が高
い」と追及。馬総統が「消費者や立法院に説明できない」として規制強化を断行した。
すでに台湾検察当局が偽装した地元業者2人を詐欺罪などで起訴しており、規制緩和がなされる
との見方もあるが、先行きは不透明だ。
不透明感が漂う理由には、馬総統の姿勢もある。来年1月の総統選を前に、馬氏は終戦70年の今
年を「抗日戦争勝利70周年」と位置付け、イベントを企画する。馬氏は「私は反日派でも親日派で
もない。友日派だ」と、台湾世論と中国、日本の三方の顔色をうかがったような発言をしている。
■3位の輸出先
日本から台湾への農水産物・食品の輸出額は735億円(平成25年)で、前年比2割も増えた。輸出
額は香港、米国に続く3位となっている。
輸出品には、九州産も多く含まれる。イチゴ「博多あまおう」のほか、大分の「日田梨」や干し
シイタケなど、九州の農産物にとって、重要な販売先といえる。
だからこそ九州経済連合会は香港やシンガポールと並び、台湾を重視する。
九経連は平成24年6月、台湾最大規模の経済団体である「中華民国工商協進会」と経済交流の促
進を図る覚書を交わした。工業やサービス業、文化コンテンツなどを含めた商談会を重ねている。
今年3月に台北で開催したビジネス交流会では、九州から17社、台湾から32社が参加し約80件の
商談のうち食品関連が半分を占めたという。
人口減で市場縮小が避けられない九州農業にとって欠かせない地域だ。
九経連国際部の担当者は「地道な活動を続け、ようやく九州産品の販路として確立してきた中
で、規制強化は残念だ。風評や関係悪化などに至らないうちに規制を解除してもらいたい」と語っ
た。