昨年の特許出願が約4万6000件でIP5(先進5カ国=日米欧中韓=特許庁)に次ぐレベルにあるという台湾の知的財産をめぐる現状はどうなっているのか。
特許庁から日本台湾交流協会台北事務所に出向している福村拓(ふくむら・たく)氏に「サンケイ・ビズ」がインタビューしている。短いインタビューなのでいささかわかりにくいところもあるが、なかなか知りえない台湾の知的財産の状況を説明しているので下記に紹介したい。
ちなみに、知的財産権について、日本弁理士会のホームページは「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などには、 財産的な価値を持つものがあります。そうしたものを総称して『知的財産』と呼びます」と説明し、「知的財産の中には特許権や実用新案権など、 法律で規定された権利や法律上保護される利益に係る権利として保護されるものがあります。それらの権利は『知的財産権』と呼ばれます」と説明している。
この知的財産権には、特許権、実用新案権(日用品の構造の工夫)、意匠権、商標権、著作権、回路配置利用権(独自に開発された半導体チップの回路配置)、商号、不正競争の防止、育成者権(植物の新品種保護)があるとも説明している。詳しくは下記ホームページをご覧いただきたい。
◆日本弁理士会:知的財産権とは https://www.jpaa.or.jp/intellectual-property/
————————————————————————————-【生かせ!知財ビジネス】日本台湾交流協会・福村拓氏に聞く(上・下)【SankeiBiz:2018年4月20日(上)、4月27日(下)】
■摸倣品、ネットに潜り込む
アジアで最も親日的な台湾は日本の重要なパートナーの一つ。現地で台湾当局との折衝や日本企業への相談対応、情報支援などで活躍している日本台湾交流協会台北事務所の福村拓主任に、台湾の知財情勢を聞いた。
── 台湾の知財の状況は
「台湾の特許出願は昨年約4万6000件でIP5(先進5カ国=日米欧中韓=特許庁)に次ぐレベル。台湾智慧財産局は審査能力も高く、外国人出願では日本が最も多い。歴史的経緯から世界知的所有権機関(WIPO)など国際的枠組みに入れないので、各国と相互協定を結んでいる。日本は知財制度構築や審査官教育、特許審査ハイウエー(PPH)などで連携し、友好関係にある」
── 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は知財分野も含むが、台湾の加入意欲をどうみるか
「台湾にとって貿易は重要でTPP加入によりさらなる拡大を考えていると思う。多くの分野で高度な技術力を持つが、知財関連法ではTPPの基準に追いついていない部分もあった。加入へ向け法制度を整備している」
── 最近の権利保護の状況はどうか
「台湾では日本ブランドの評価が高く、日本ブランドの摸倣や商標の冒認出願(権利を持たない者による出願)には依然注意すべきだ。日本の一部地域で有名な商標が登録されてしまった事例では、台湾での無効審判請求が却下された。摸倣品の流通は10年前に比べて大きく改善したが、インターネットや会員制交流サイト(SNS)での販売に潜り込む例が増えている」
── 日本企業としての対策は
「商標では早期発見、早期対処が重要。除斥期間(5年)経過後は取り消しが難しい。商標権をとる手もあるが、不使用だと取り消される。摸倣品は警察も摘発に力を入れているが、海外サイトまでは手が届かないし、小口個人輸入は税関も取り締まりが難しい。このためネットなどが使われる場合、防止策や対処法について調査し、日本企業向けマニュアルが作れないか考えている」
── 相談先は台北事務所でよいか
「そうだ。1日には大手日本企業の知財部門出身で中国知財問題にも詳しい後藤光夫氏が知財専門家として着任した。まずは電話やメールをしてみてほしい」
■営業秘密漏洩対策で法改正
── 特許出願がIP5(先進5カ国=日米欧中韓=特許庁)に次ぐレベルにある台湾は、知財面で は先進国入りしつつあると言ってよいか
「台湾は半導体や電子部品などで非常に強く、関連の特許出願も多いが、技術貿易収支はまだ赤字だ。2016年は約22億ドル(約2370億円)の赤字で、支出の約78%は米国、約13%が日本で、収入は約35%が中国・香港から。日米などから特許許諾を受けて中国の工場でOEM(相手先ブランドによる生産)を行う事業モデルだ。先進国と呼ばれるには技術貿易収支の改善はポイントの一つではないだろうか」
── 技術開発面では次代の産業発展モデル確立へ向け蔡英文総統が5+2イノベーション計画を掲 げている
「具体策がまだ出されていない部分はあるが、期待されている。指定重点技術分野の強化を図り、海外から専門人材を受け入れて開発拠点構築を進める。中でもアジア・シリコンバレー計画では人工知能(AI)関連政策が注目されている。行政の高い機動性を生かして、例えば各国でなかなか認可が下りない自動運転車の実証試験基地を作れないかというアイデアもあるようだ」
── 中国の動きが気になる
「中国政府は2月末に、31項目の台湾優遇措置を発表した。中国へ進出する台湾企業や優秀な人材の受け入れなどについて、さまざまな便宜を図る内容だ」
── 企業や人材の中国呼び込み策に見える
「人材の流動性が高い台湾では過去、大手半導体企業などで退職者などによる海外企業への営業秘密漏洩(ろうえい)事件が発生、対策として法制度整備を年々進めている。営業秘密法改正で刑事罰を追加し、労働基準法改正で企業と従業員が結ぶ競業避止規定の要件をはっきり定めた。3月には次の営業秘密法改正案に捜査協力者へ秘密保持義務を負わせる制度を加えることを発表したところだ」
── 台湾進出だけでなく、台湾企業と一緒に中国へ進出する日本企業も多い。営業秘密問題は重 要だ
「日本企業向けに“台湾での職務規定における知的財産についての取り扱いについて”という報告書(特許庁委託事業)を作成した。ぜひ活用してほしい」(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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【プロフィル】福村拓(ふくむら・たく)2003年特許庁入庁、05年審査官、ディスプレー関連分野などを担当する。17年6月から日本台湾交流協会台北事務所経済部(知財担当)。42歳。東京都出身。