を総統選の総統候補に正式決定するが、ここへ来て党内で洪降ろしの波が起きている。党内の予備
選で選ばれた洪を辞めさせれば、それでなくても信頼が薄れている国民党の信用は完全に失墜す
る。だが、アンチ洪勢力からは脱党者も出る始末で、このままでは国民党は分裂の道を歩むことに
もなりかねない。
◆洪の舌禍が「洪潮」を消す
二線級とみられていた洪秀柱が、党主席の朱立倫や立法院長の王金平ら本命候補の出馬見送り
で、党内予備選の難関を次々に突破した。先ず無理といわれた支持率30%の壁も軽く乗り越え、洪
は「深い緑(台湾独立派)も私を支持しているの」と自信満々。この“洪秀柱ブーム”は「洪潮」
とも呼ばれた。
その洪が正式決定の全代会を前に党内で非難の集中砲火。総統候補公認を否決、あるいは辞退を
要請などとまで言われている。学歴詐称疑惑や乳癌説なども暴露され、「洪潮」といわれ、光り輝
いたイメージは影を潜め、今では「洪禍」と国民党の疫病神のように言われる始末で、洪潮から洪
禍へのイメージダウン。だがもとはといえば洪の身から出た錆だ。
もともと洪は「小辣椒」(唐辛子)のあだ名の通り、辛口なもの言いで知られる。党首、朱が民
進党総統選候補、蔡英文が訪米したのをみて、洪にも訪米を促したが、「私が決めればいいこと」
と一蹴。朱のメンツは丸つぶれ。総統がこだわる九二共識の「一中各表」(中国とは、中国は中華
人民共和国だといい、台湾は中華民国という)にも「中華民国ってどこにあるの?」。中国との統
一を目指す新党のような発言で「国民党の新党化」ともいわれた。
◆「船(党)を乗り換えてもいい」
洪擁護の党主席の朱も総統、馬もさすがに不味いと思ったのだろう、洪の口封じに動いたよう
だ。洪はその後、「一中各表」遵守を明言。しかし時すでに遅し。来年1月の総統選を同日選挙で
立法委員選挙を戦う参選者の間には「洪とともに選挙はできない」という不満が党内に拡大。その結
果、一部、立法委員候補が国民党を離れ、親民党に移ったり、無所属での立候補宣言も出ている。
これは党分裂の危機!党首脳部は当然、脱党、離党引き留めに走るかと思いきや、主席の朱は
「船を換えてもいいし、個人の政治的利益を追求するのも構わないが、党を中傷するな」というだ
け。それどころか党批判の立法委員ら5人を突然、除名した。この危急存亡の秋、前主席で総統の
馬はまるで「我、関せず」とでもいうように外遊に出て、全代会の前日に帰国する。
相次ぐ脱党、離党を放置するような国民党中央の対応をみて、これはチャンスを思ったのか、親
民党主席、宋楚瑜が動き出した。親民党は2000年に国民党を飛び出して結党した。元はといえば同
根で、国民党の友党。現在の国民党の立法委員の中にも親民党出身者がいる。世論調査の支持率
は、宋は洪を上回る。国民党丸から親民党丸に船を乗り換える候補者があるいはまだ出てくるの
か。
◆出馬模索の宋楚瑜だが…
だが、19日の全代会で洪の公認候補をひっくり返す可能性は少ない。それでも国民党内には洪降
ろしが続くだろう。その手立ては独裁時代から蓄えた個人の秘密情報の暴露。乳癌情報のリークも
あるいはその一弾だったのかもしれない。そんな手の内を熟知している洪は「残ったご飯が出るの
を待ってます」と第2、第3の暴露作戦を覚悟している。
そんな内輪の争いが続けば、宋の出馬は現実味を帯びてくるが、かといって宋の勝ち目は薄い。
宋は06年の台北市長選に出て4%台の得票率で惨敗、政治からの引退を宣言したが、12年の総統選
に再度出馬、またしても3%に満たない得票率で惨敗した。国民党の大物が一群を率いて合流すれ
ば、惨敗はないだろうが、それでも国民党など藍陣営の票田を割るだけ。民進党など緑陣営の票を
得るのは難しい。
国民党の選挙の頼みの一つは世界一といわれる資産。つまりお金だが、選挙は「地盤、看板、
鞄」。鞄だけでは勝てない。ましてや今のような党内分裂では戦はできない。しかも火中の栗を拾
い、陣営を纏めようというリーダーがいない。朱のいうように個人の政治的利益を追求するだけ。
洪禍と嘆くが、洪禍は洪の起こした禍ではなく、主席の朱以下国民党が起こした禍だ。
【「透視台湾」(EconoTaiwan 速報掲載)7月号】