3月22日の台湾総統選挙を控え、李登輝前総統の動静に内外の関心が集まっている。先
の立法委員(国会議員)選挙では第4政党、台湾団結連盟(台連)の後ろ盾として選挙
の陣頭に立ち、惨敗した。しかし李氏のもとには与野党から支持を求める熱い“ラブコ
ール”が相次ぎ、85歳を迎えた老政治家は「あと十数年は台湾のためにがんばる」と意
気軒高だ。
12日の立法委員選で台連は1議席もとれず、党の存続が危ぶまれる事態となった。同
党は2001年、李登輝氏を信奉する中国国民党の本省人(日本統治時代からの台湾住民)
系立法委員で結成、台湾独立志向を鮮明に打ち出して前回選挙(04年12月)でも12議席
を確保していた。
今回は定数が113と半減、中選挙区制から大政党に有利な小選挙区比例代表並立制に移行
したことが大きな障害となった。
さらに発足当初は緊密だった李登輝氏と陳水扁総統の関係が険悪化したうえ、台連が
独立色を薄めて中道左派政党への変身を図ったことが選挙民に理解されなかった。李氏
は老骨にむち打って選挙応援に奔走したが、かなわなかった。
台湾の民主化を主導し数々の選挙に勝利してきた李氏としては、まさに骨身にこたえ
る敗北だったはずだ。
ところが李氏は選挙の翌日には再びメディアの注目を集める。同じく選挙に大敗した
与党、民主進歩(民進)党の総統候補で、陳総統に替わり同党の主席代理に内定した
謝長廷・元行政院長(首相)が李氏宅を訪問、総統選への支援を求めて長時間話し合っ
たからだ。
謝氏によると、両者はかつてのように外省人(日本の敗戦後、中国大陸から台湾に渡
った人々)が主導する政党(国民党)が巨大化し、本省人の発言力が弱まることへの懸
念を共有し、協力を強めることで暗黙の合意に達したという。
李氏はこれにコメントしていないが、2人の関係はかねて良好だった。
対する国民党は、李登輝氏が総統時代の部下だった蕭万長副総統候補が李氏腹心の、
黄昆輝・台連主席を通じて接近工作を強化。外省人の馬英九総統候補も、16日の演説で
李登輝政権時代の業績を称賛するなどして“秋波”を送っている。
立法委員選挙では、台連は比例代表枠でも3・5%の得票率に低迷し議席を得られなかっ
た。独立派の民進党と台連の“内ゲバ”を嫌気した本省人が棄権したことが、両党惨敗
の一因だった。
国民党と民進党の議席数は81対27と大差がついたが、政党得票率では51%対37%と14
ポイント差しかない。台連はかつて7〜8%の得票率を確保した実績もある。
李登輝氏が明確に謝長廷支持を打ち出して本省人勢力の結集を呼びかければ、立法委
員選挙で勝ちすぎた国民党への警戒感も加わって謝氏の逆転勝利も不可能ではない。
国民党が警戒するのもまさにこうした事態だ。少なくとも李氏を中立に保てれば、馬
英九氏が当選する可能性が高まる。かつて「外省人支配体制のもとで台湾人(本省人)
に生まれた悲哀」を吐露した李登輝氏は、いま何を思っているのだろうか。
(編集委員 山本勲)