民主主義団結の遺志継ぐ  呉[金リ]燮(台湾・外交部長)

【産経新聞:2022年9月26日】https://www.sankei.com/article/20220925-LXWCI5C6KZMNPAH2M33ZDVTJ34/

 台湾の呉?燮(ご・しょうしょう)外交部長(外相に相当)が25日、安倍晋三元首相の27日の国葬を前に追悼文を産経新聞に寄稿し、安倍氏の台湾への支持に謝意を示すとともに、地域の安定のために民主主義陣営が団結する必要性を訴えた。

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 7月8日、安倍晋三元首相が銃撃され、この世を去った。台湾の人々は心を痛めて名残を惜しみ、さまざまな形で偉大な政治家、安倍元首相を追悼している。

 台湾の人々が心を痛め、名残を惜しむ最大の理由は、台湾が中国共産党政権によるさまざまな脅しと孤立工作に苦しむ中、安倍氏が日本国首相として、中国からの批判を気にせず、何度も台湾への関心と支持を寄せてくれたからだ。「台湾有事は日本有事、すなわち日米同盟の有事である」、「台湾は日本と価値観と繁栄を共有するパートナー」などの発言は、台湾の人々の間で最も深い印象を残した名言として記憶されている。

 また、台湾が地震や台風などの自然災害に遭い、甚大な被害を受けたときにも、安倍氏は台湾の人々に温かいメッセージを届けてくれた。台湾が新型コロナウイルスのワクチンを十分に調達できず窮していたときには、影響力を発揮して、台湾のためのワクチン確保に尽力してくれた。多くの台湾人はそのワクチンに救われた。台湾の花蓮で震災が発生した際には、自筆で「台湾加油(頑張れ)」というメッセージを書いて送ってくれた。中国が台湾産パイナップルを禁輸したのに対しては、パイナップルを手に満面の笑みで台湾を応援する写真をツイートしてくれた。こうしたことを、われわれは永遠に忘れない。

 安倍氏の台湾への支持と関心は、台湾の人々を感動させ、最高の友好の手本を示してもらったと思っている。そこで、われわれも他の国が困難に遭ったときに手を差し伸べるようにしている。なぜなら、それは疑いもなく善であり、また正しい行動だと知っているからだ。

 世界の時局が混迷し、権威主義がほしいままに対外拡張する中で、安倍氏の遠大な見識は際立っている。「アジア・アフリカ成長回廊」、「アジアの民主的な安全保障ダイヤモンド」、「自由で開かれたインド太平洋」などの構想は、いずれも安倍氏によるイニシアチブの下、米国、欧州および地域の主要民主国家の共通戦略となった。民主主義国家が団結して権威主義の拡張に対抗することで、インド太平洋地域の自由と開放を守ろうとしている。ハイレベルな地域貿易体制である環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が誕生の危機に陥ったときにも、信念を貫いて創設を積極推進し、台湾の加盟も支持してくれた。

 権威主義国家がウクライナに侵略戦争を仕掛け、東シナ海、台湾海峡、南シナ海でも武力による現状変更を試みている。各地で恣意(しい)的に影響力を拡大しようとする動きが進む中、われわれは安倍氏の長期的視野と構想の素晴らしさを改めてかみしめ、民主主義国家の団結の必要性を一層強く実感している。

 私自身も含め、台湾の各界は安倍氏の退任後初の訪台を計画し、歓迎の準備も進めていた。しかし、悲しいことに、それはもう実現できなくなってしまった。安倍氏はこの世を去ってしまったが、その精神はわれわれとともにある。われわれにできる最良の追悼は、民主主義国家がよりしっかりと団結し、われわれが大切にしている自由と民主主義などの普遍的価値を守っていくことだと確信している。

 安倍首相、どうか安らかにお眠りください。台湾の人々は永遠にあなたを忘れません。

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