李登輝元総統が台湾人は台湾の「主」となるべきと喝破  傳田 晴久

先週末の本誌で、台南の成功大学に語学留学している傳田晴久(でんだ・はるひさ)氏
が発行する「臺灣通信」の「日本は台湾を中華民国に返還していない」をご紹介した。

 これは、金美齢さんが企画した「ありがとう台湾オリジナルTシャツ」を着て台湾の人々
に感謝の意を表す「多謝台湾ツアー」に参加した感想なのだが、そのときにも述べたよう
に単なる感想ではない。

 自由時報社の呉阿明(ご・あめい)董事長からお聞きした「なぜ台湾に中華民国がある
のか」の話を整理し、いわば台湾の国際法的な位置づけについて述べている。

 昨日お送りいただいた第55号はその続編で、呉阿明氏の次に訪問した李登輝元総統のお
話を紹介している。下記にご紹介する。

 なお、「臺灣通信」のタイトルは「李登輝氏表敬訪問」でしたが、本誌では「李登輝元
総統が台湾人は台湾の『主』となるべきと喝破」とし、読みやすさを考慮して改行し、漢
字の一部を平仮名に開き、句読点を付け直していることをお断りします。

◆日本は台湾を中華民国に返還していない 傳田晴久【メルマガ「日台共栄」10月21日】
  http://melma.com/backnumber_100557_5317879/


多謝台湾ツアー報告(2)─李登輝氏表敬訪問
【臺灣通信(第55号):2011年10月24日】

◆はじめに

 台湾通信No.54に引き続き「多謝台湾ツアー」の報告をいたします。今回は表敬訪問させ
ていただいた李登輝元総統のお話を中心にお伝えいたします。

 ご報告の内容の内、李登輝氏がお話された部分(二重カギで表示)は全て私の手元のメ
モを頼りに書いておりますことを予めお断りいたします。

◆李登輝閣下訪問

 2011年9月28日(水)の午後、まず「自由時報」紙の呉阿明董事長を表敬訪問し、その足
で淡水にある李登輝氏が創立した「台湾綜合研究院」へと向いました。

 我々一同は大きな会議室と言うより、教室のような感じの部屋に通され、待つことしば
し、やがて李登輝氏がにこやかに登場されました。そして台湾の歴史、日台関係、日本の
政治などについて、分厚い講義録を前にし、時々アドリブを交えながら熱心にお話くださ
いました。

 今年の夏に李登輝氏の講演を聞いた私の友人が、「とにかくガタイはでかいし、声は大
きいし、迫力満点だったよ」と話してくれていましたが、正にその通り、とても入院され
たとは思えませんでした。

 私が特に感銘を受け、皆様にお伝えしたいと思うことを取りまとめ、以下にご紹介した
いと思います。

◆台湾の歴史三つの時代区分とその特徴

 李登輝氏は台湾の歴史を3つの時代に分けて説明された。まず(1)日本統治時代(1895
〜1945)について。

≪1895年、下関条約によって清国は台湾を日本に割譲したが、当時の台湾は国の体をなし
ていなかった。≫

 私はその時、1、2年前に見た映画「1895」を思い出した。これは台湾を統治するために
遠征して来た北白川能久(きたしらかわ・よしひさ)親王の軍と客家人、ホーロー人、原
住民との戦いが描かれ、その中で清朝の官僚たちが敵前逃亡する場面があった。国のため
に戦う意志を持たないようでは、官僚がいたとしてもそれは国家ではあるまい。

≪清朝の李鴻章は下関条約締結時に伊藤博文に対して、台湾を「化外(けがい)の地」(国
家の統治の及ばない所)と呼びましたが、日本はその「化外の地」の近代化に取り組んだ
のでした。そして台湾のインフラ整備をおこない、教育に力を入れ、行政を確立し、度量
衡の標準化を図り、製糖業を起こし、農業社会を工業社会に変え、さらに公平な司法も確
立しました。≫

≪日本はこの50年間に、台湾に台湾精神を植えつけてくれた。すなわち、時間を守る、法
を守る、さらに衛生観念、経営観念、そして金融や貨幣経済を根付かせました。≫

 次の時代は(2)中国国民党統治時代(1945〜1990)です。

≪日本が戦争に敗れ、日本軍の武装解除に乗り込んできた中国人による統治の時代です。
これは正に文明の衝突でした。朝起きたら牛乳箱に牛乳が入っている、新聞受けには朝刊
が入っている、そういう近代化された国「台湾」に「中国人」が統治者として入ってきた
のです。
 彼らは日本人の財産目録にある「金槌」の文字を見てそれが金で出来ていると思ったり、
電気や水道を知らない、そういう連中でした。彼らは日本文化、日本文明を徹底的に排除
するために「反日教育」を行いました。≫

≪その結果、人々は3つの階層に分けられました。すなわち現在40歳以下の人々、40〜70
歳の人々、70歳以上の人々です。40〜70歳の人々は徹底的に中国人的教育を受け、台湾の
歴史を知らず、5000年の皇帝の名前を覚えさせられた。そして留学先は米国でした。≫

 私はここで蒋経国時代の教育部長許国雄氏の話を思い出しました。2000年頃に許国雄氏
を訪問した時、彼は「台湾人はみな米国に留学するが、米国に留学すれば個人主義になっ
て帰って来る、留学するなら日本に限る」。

≪70歳以上の人々は日本語がわかる世代、40歳以下の人々は、1990年に教育が変わり、台
湾を認識するようになり、いゆる「哈日族」が生まれました。≫

 そして次の時代が(3)台湾の民主化の時代(1990〜現在)です。

≪1949年に国民党政府を台湾に移設し、白色テロの時代に入り、戒厳令は37年間も続いた。
蒋経国はやがて台湾を認めざるを得なくなった。1984年に私は副総統になり、自由・民主
化を進めることになった。その後12年間に6回憲法を修正し、万年国会議員を排し、主権在
民を確立し、総統の直接選挙を実現した。これらは血を流すことなく実現しました。≫

≪台湾人は今、台湾人による新しい国家の建設を目指しています。台湾は過去400年間に6
回の外来政権に統治された歴史を持つが、台湾人は台湾の「主」となるべきであります。
日本と台湾は平等互恵、生命共同体であります。≫

◆日本の政治と台湾

 李登輝氏は台湾の歴史について述べられた後、日本の政治について以下のように述べら
れました。

≪日本は311東日本大震災があり、現在非常時である。このような時、政治のリーダーは陣
頭に立たねばならない。自分は1999年9月21日に発生した台湾の地震の際、直ちに現場に駆
けつけ、ルールやマニュアルを無視して対処した。≫

≪日本の国民はバブル崩壊以来、苦労に苦労を重ねており、非常に疲れている。その疲れ
ている国民に対して増税とは何事ぞ。≫

≪日本は今、再生か没落かの岐路に立たされている。リーダーは信念と覚悟が必要である。
リーダーは信仰を持たねばならない。≫

≪日本と台湾の間には形容しがたい何かがあります。≫

◆おわりに

 李登輝氏訪問の翌々日、台北で最新の話題作映画「塞特克巴萊」(セデック・バレ)の
前編(太陽旗)を観賞しましたが、これは霧社事件を映画化したものです。原住民の生活
を近代化しようとする日本の施策との衝突を描き、多くの日本人が虐殺される所で映画の
前編は終了しました。

 霧社事件は1930年に発生しました。したがって李登輝氏が文明の衝突と表現された台湾
人と中国軍人の出会いは1945年、すなわち霧社事件の僅か15年後です。その時、台湾では
既に、「朝起きたら牛乳箱に牛乳が入っており、新聞受けには朝刊が入っていた」のです。

 この短い期間に、そのような社会システム(物流システム)を作り上げていたとは、真
に驚くべきことと感じました。

 システム、すなわち「仕掛け」を作るのはまぁ容易です。「仕掛け」は約束事ですが、
それを守るかどうかは「躾」いかんに関ります。「躾」は教育です。

 台湾の日本語世代の方々が、日本統治時代を振り返って、日本の教育が良かったとしば
しば仰ることがよく理解できました。



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