れ、近藤兵太郎(こんどう・ひょうたろう)監督役の永瀬正敏やその妻の近藤カナヱ役の坂井真紀
ほか、大倉裕真(小里初雄役)、山室光太朗(福島又男役)、青木健(錠者博美役)、主題歌を担
当したRake、中孝介ら日本側のキャスト・スタッフが壇上に上がって舞台あいさつを行った。
ここで、日本人キャストを驚かせるサプライズが起こった。「シネマトゥデイ」の名鹿祥史記者
は、その模様を次のように伝えている。
<イベント終盤、永瀬が「今日は本当に残念です。台湾の皆さんともここに立ちたかったんですけ
ど……」とつぶやいた直後、司会者が「どうやら思いが届いたようですよ」とお膳立て。ジーシア
ン監督と台湾キャストの一人、チェン・ビンホンをステージへ招いた。
「永瀬さん、坂井さん、皆さーん!」と会場に現れたジーシアン監督。日本人キャストとタッチ
を交わしながら壇上へ上がると、永瀬と熱く抱擁。永瀬は「あったかいですね、台湾の人は」と言
葉を詰まらせつつ、涙を流す坂井の横で「泣いていませんよ」と精一杯の強がり。「本当に驚きま
した。全く知らなかったので」と語り、台湾語で「来てくれてありがとう」と監督の来場を改めて
歓迎した。>(1月24日「シネマトゥデイ」)
監督やキャスト同士の強い絆を垣間見せたが、それはこの映画がどのようにして製作されたのか
をも物語っていたようだ。
折しも、映画批評家で日本文化チャンネル桜のキャスターをつとめ、辛口批評で知られる前田有
一(まえだ・ゆういち)氏が「アサ芸プラス」でこの映画を取り上げ、このところ「バンクーバー
の朝日」「アゲイン 28年目の甲子園」、「ドラフト・デイ」と野球映画の上映が続いているもの
の「どれも個性的な作品だが個人的なイチオシはコレ」と絶賛している。
前田氏は「『俳優が選手に見えない野球下手では嫌だ』、『高校球児たるもの礼儀正しくなけれ
ば』といったコアな野球マニアの鑑賞にも堪える、数少ない野球映画の登場」とも述べている。
初日舞台挨拶にサプライズで登場した監督の馬志翔氏はいみじくも「この映画は日本統治下の
1931年を描いた作品。間違いなく台湾の歴史の一部であり、日本の歴史の一部。この映画を観て過
去から学び、力をもらってください」というメッセージを述べたという。日本の台湾統治とはどう
いうものだったのか、この映画「KANO」で知っていただきたい。
下記、前田有一氏のプロフィールは日本文化チャンネル桜で掲載しているものです。
◇ ◇ ◇
前田有一(まえだ・ゆういち)映画批評家。東京都・亀有生まれ。週刊誌、新聞等や、1000万ヒッ
トWEB『前田有一の超映画批評』にて、独自の「批評エンタテイメント」を展開中。宅建主任者、
健康運動実践指導者、消費者団体、消費者問題ライターを経て映画批評家に。常に観客の味方とし
ての立場から、作品を評価する。100%の信頼感と、100kg超の肉体が特徴。ボディビル歴20年。
◆前田有一の超映画批評
http://movie.maeda-y.com/
E-mail:webmaster@maeda-y.com
ホームページ http://movie.maeda-y.com/
「やっぱり映画っていいなあ」 ─KANO〜1931海の向こうの甲子園〜─
【アサ芸プラス:2015年1月24日】
●ストーリー 1929年、日本統治下の台湾。嘉義農林野球部は弱小だったが、そこに日本人監督・
近藤が就任する。スパルタ式訓練で甲子園進出を目指す
●監督/マー・ジーシアン 出演/永瀬正敏、坂井真紀ほか
●配給会社 ショウゲート
●1月24日より新宿バルト9ほか、全国公開。
野球ファンにとって、ドラフト会議から開幕戦までの数カ月間は話題もとだえ、寂しい時期を過
ごすわけだが今年は違う。
「バンクーバーの朝日」「アゲイン 28年目の甲子園」、「ドラフト・デイ」と野球映画がめじ
ろ押しなのだ。
どれも個性的な作品だが個人的なイチオシはコレ。1930年代の台湾を舞台にした高校野球映画
で、史実をもとにしたスポ根ものだ。
弱小チーム嘉義〈かぎ〉農林学校の野球部に、名門・松山商業出身の鬼監督・近藤(永瀬正敏)
が赴任、スパルタ方式で部員を鍛え上げる展開は、この手の王道パターンといったところか。
この映画が他の類似品と一線を画するのは、メキメキ強くなるこの生徒たちが、民族の垣根を越
えたチームという点だ。言うまでもなく戦前の台湾は日本統治下にあったわけで、嘉義農林野球部
も日本人、台湾人(漢人)、台湾原住民の混成メンバー。複数の言語が飛び交うこの映画同様、て
んでバラバラな子供たちだが、甲子園出場の大目標と優秀なコーチを得ると、やがて本土の球児以
上の結束力を発揮する。
東アジア情勢がきな臭くなってきた現在、アジアの多民族が力を合わせて絆を深めるストーリー
こそ、最大の泣きどころだ。
興味深いことに、この話は台湾の若者に大ウケし、社会現象にまでなった。製作費10億円弱、台
湾映画としては最大級の大作とはいえ、そのフィーバーぶりは異例中の異例。
主演の永瀬正敏によれば、現地で会ったファンの中には、映画の半券14枚を貼ったノートを持参
した筋金入りのリピーターがいたという。監督の話では20枚以上貼りつけた「KANO」ファンもいた
というから尋常ではない。
日本人から教えを請い、それを受け入れ強くなる。自国の歴史を暗喩したようなストーリーに、
台湾の若者たちはここまで熱狂した。ナインを演じるのは野球経験5年以上を条件に集めた演技未
経験者たちだ。
どこかの国の映画のように野球素人の人気アイドルを並べるようなキャスティングではない。そ
れなのにこれほど愛されている意味は重い。
そんな部員役の面々は、撮影中、雨の日も朝練を欠かさず、全員で体を鍛え続けた。毎日、監督
役の永瀬が撮影を終え現場を去ろうとすると、全員が駆け寄り整列し、最敬礼して見送ったそう
だ。他の国の現場では考えられない礼儀正しさだ、と永瀬も絶賛していた。
そうした現場の空気と野球技術はおのずと映像にも反映されるもの。「俳優が選手に見えない野
球下手では嫌だ」、「高校球児たるもの礼儀正しくなければ」といったコアな野球マニアの鑑賞に
も堪える、数少ない野球映画の登場だ。