去る7月30日に李登輝元総統が亡くなられ、日本人秘書の早川友久(はやかわ・ともひさ)氏がその事績を伝える『李登輝─いま本当に伝えたいこと』を出版した。恐らく、逝去後、最初の単行本だろう。
本書には「リーダーは信仰を持て。信仰がないなら信念を持て。孤独なリーダーは、すがることのできるものを必ず持つのだ」「リーダーは『7割でよし』の心構えを持て」など、5章にわたって李元総統の信念がこもった言葉を紹介している。
お釈迦様が真理を説いた言葉は「金言(きんげん)」と称される。また、功成り名を遂げた人が残した優れた言葉を格言、至言、名言、金句などと言う。
その点で、本書は李元総統の金言集であり名言集でもあるが、李元総統が歩んだ97年の歴史はまさに台湾の戦後史と軌を一にしていることから、李元総統の軌跡や日本人にはあまり知られていない台湾の歴史をも紹介していて、単なる金言集ではない深みを持つ。
8年前から、李元総統の秘書として、表敬訪問や講演など日本語による発言をすべて耳にし、その信任厚かった著者ならではの色合いを反映した内容となっている。ビジネスマン向けではあるが、一般書としても読み応え十分だ。
本書には、李元総統が「本書に寄せて」を寄稿されている。秘書冥利に尽きようという李元総統からの温かい寄せ書きだ。
<私が若い頃に読んだ岩波文庫などもカバンに入れておいて、来客が帰ったあとなどに『善の研究』(西田幾多郎)や『資本論』(マルクス)について、私がアドバイスをしたこともあった。そんなわけだから、彼も私の考えをよく理解してくれていて、現在では私の日本語の原稿の下書きは、すべて彼にまかせている。(中略) 日本から私の話を聞きたいとやってきてくれる日本人は多いが、常にそばには彼がいてサポートしてくれる。最近は記憶力が落ちたせいか、人の名前や本の名前がすぐ出てこなくなってしまったことも増えた。 それでも、早川さんに目をやれば、即座に私の言いたいことを理解して助けてくれる。そんな彼だから、私の言いたいことや考えていることをよりわかりやすく、日本の皆さんに伝えてくれることができるのではないだろうかと期待している。 私もとうとう90歳を過ぎ、台湾や日台関係に尽くすことのできる残りの人生も短くなってきている。これからの日台関係は「早川さん、あんたにまかせたよ」という気持ちを込めて背中を押したのが、この本の発端なのである。>
近々、本書を本会推薦の「取扱い図書」として扱う予定で、台湾セミナーなどの会場でも販売の予定です。ただし、お急ぎの方は書店や版元のビジネス社、アマゾンなどからお取り寄せください。
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