日本に関わる台湾の佳話2つ  傳田 晴久

台南に住む傳田晴久(でんだ・はるひさ)さんの「台湾通信」は、いつも日本人の目から見た台湾を紹介していて、自ずと日台の違いが分かることが多くとても参考になります。

 今回の「台湾通信」も日本に関わる2つの佳話を紹介されています。

 1つは、「南京虐殺・100人斬り」の証拠とされる「日本兵が軍刀を振り上げ、正に捕虜の首を刎ねようとしている写真」とその軍刀の展示。2つ目は、烏来の高砂義勇隊慰霊碑のことです。

 日本軍が戦時中の南京で30万人を虐殺したとか、百人斬りをしたとか、そんな史実はありません。すでに研究結果は出ています。

 気になっていたのは高砂義勇隊慰霊碑です。今から3年前の2015年8月8日朝、花蓮に上陸した台風13号は台湾を横断して台湾海峡へ抜けましたが、各地で倒木が道路を塞ぎ、店舗の屋根が剥がれ落ちるなど大きな被害を受けました。高砂義勇隊慰霊碑のある烏来でも、慰霊碑裏の山肌が数十メートルにわたって地滑りを起こし、慰霊碑の像がなぎ倒され、李登輝元総統が揮毫された「霊安故郷」の銘板がある台座も落石と倒木に埋もれてしまいました。

 本会は早速、お見舞い募金を始め、11月末までに216万円も寄せていただきました。その年の12月はじめに訪台し、常務理事の梅原克彦団長からお見舞い募金として2万6,000NT$(日本円で10万円)を高砂義勇隊記念協会の馬偕理牧(マカイ・リムイ)総幹事に手渡しました。

 この募金の使途については、透明性を確保したいと考え、馬偕総幹事とも親しい原住民研究の第一人者で、中央研究院民族学研究所の黄智慧先生に相談し、使い道が決まるまで、残金の196万円は本会理事で台北事務所長の早川友久氏に管理を委託、黄智慧先生から連絡があれば早川所長からお見舞い募金を手渡すことに致しました。

 ですから、その後の烏来の状態が気になっていたところで、傳田さんも気になっていたそうで、今回の「台湾通信」で烏来の様子を伝えていただいています。

 ちなみに、2016年9月、高砂義勇隊記念協会は役員の改選を行い、新理事長には林英鳳氏(1938年生まれ。烏来地区の総頭目)、総幹事には陳勝栄氏(1956年生まれ。元小学校校長)が就任しています。

 なお、「台湾通信」の原題は「小吉報二題」でしたが、本誌掲載にあたって「日本に関わる台湾の佳話2つ」と改めたことをお断りします。

—————————————————————————————–傳田 晴久「小吉報二題」【台湾通信(No.126):2018年3月24日】

◆はじめに

 皆様は「小確幸」なる言葉をご存知ですか? 日本ではあまり流行っているとは思いませんが、台湾では広告等色々なところで見かけます。聞くところによりますと、「小確幸」(しょうかっこう)とは、作家村上春樹が著書『村上朝日堂ジャーナル うずまき猫のみつけかた』 (新潮文庫)の中で用いた造語だそうで、「小さいけど、確かな幸福」を略して単語化したものとか、小さくても確かな幸せを感じて生きていけば、なんとかなるというニュアンスで用いると、「日本語俗語辞書」に紹介されています。

 今回の台湾通信は「小確幸」ならぬ、私が最近体験した「小吉報」(しょうきっぽう)をお伝えいたします。

◆国軍歴史文物館の変貌

 数年前台風の被害に遭った烏来の高砂義勇隊慰霊碑のその後と昨年事件があった国軍歴史文物館を見てみたいと思い、先日、台北で時間が取れたものですから訪問しました。

 国軍歴史文物館は昨年夏の事件後、大幅な改造をしたらしく、1階に展示されていた「草鞋ばきの国軍兵士像」はなく、おやっと思いましたが、2階は大きく変わっていました。

 中華民国のある学生兵士が、「いつの日か日本の富士山に青天白日旗をはためかせる」との誓いを竹筒に彫り込んだ「竹林遺書」は相変わらず展示されていましたが、南京虐殺・100人斬りの証拠とされる「日本兵が軍刀を振り上げ、正に捕虜の首を刎ねようとしている写真」とその軍刀の展示はありませんでした。

◆昨年(2017年)発生した事件

 昨年8月18日午前、中国国旗を持った51歳の男が日本刀で総統府警備の憲兵に切り付け、その場で逮捕されるという事件が発生しました。この男は中国共産党イデオロギー支持を示唆する遺書をもっていたといいますが、問題は凶器となった「日本刀」です。

 犯人は事前に総統府の近くにある国軍歴史文物館を下見し、当日、近所の金物屋でハンマーを仕入れ、その朝、博物館に押し入り、2階の南京事件展示室のガラスケースを叩き割り、日本軍による107人切りに使用されたという旧日本軍の軍刀を盗んだ。

 自供によると、総統府に中国国旗「五星紅旗」を掲げる目的で、総統府に向かったが、警備の憲兵に咎められたので、日本刀で切り付けたという。翌19日の自由時報紙にはその軍刀の写真が大きく掲載されており、これが「『南京大屠殺』血腥凶刀」であると説明されています。同紙の別欄に、この軍刀は「九八式軍刀」で皇紀二五九八年(1938年)に製作された物であり、南京大虐殺が発生した1937年に使用されたというのは時間的に無理があるという解説をしているにもかかわらず、国防部はこの刀は「真品」であると強調していると言います。

 国軍歴史文物館の係員に、南京大虐殺の展示がなくなっている理由を尋ねたが、「撤去した」としか答えてくれませんでした。理由はともあれ、でたらめな展示が無くなったことは、私にとっては「小吉報」に違いありません。

◆もう一つの吉報

 インチキ展示が無くなったのを確認した私は気分良く、次の目的である烏来の高砂義勇隊慰霊碑を見に出かけました。新店駅から乗ったバスは満員、40分ほどの距離ですが、30分は立ちん坊でした。乗客は皆さん私より年長の方がほとんどの様子、誰も席を譲ってくれませんでした。

 烏来の老街をしばらく進むとトロッコ(台車)の駅があります。このトロッコは2015年8月8日の台風の被害を受け、不通になっており、2015年末、2016年5月に訪問した時は依然不通でした。数人のグループがトロッコの駅に向かうので、ひょっとして開通しているかと思い後を追いますと、何と開通していました。しかし、かつては何軒もあった駅周辺の土産物店は皆閉まっていました。今日だけならいいのですが……。

 チケットは片道50元、シニア等の優待券(半票)は30元、何と手元の古い写真を見ますと2001年の価格と全く同じではありませんか。私は嬉しくなり、「半票!」と言いますと、駅員は、この80近い老人(私のこと)に「証明書」の提示を求めました。パスポートを提示しますと目出度く30元のチケットをくれました。私を若く見てくれたのはサービスの一環かもしれません。

 5両編成のトロッコは数人の客を乗せて、ゴトンゴトンと山道を登って行きました。10分ほどかかったのでしょうか、「瀑布公園」に無事到着。

 久し振りのトロッコの乗り心地は大変なつかしいものでした。瀑布公園駅の人にいつ開通したかを伺いますと、昨年(2017年)8月とのことでした。烏来観光のシンボルでもありますこのトロッコの再開通は大変喜ばしいもので、私にとりまして2つ目の「小吉報」でありました。

◆高砂義勇隊慰霊碑は?

 トロッコの瀑布公園駅を降り、いよいよ高砂義勇隊慰霊碑を訪ねます。

 2001年訪問時に歓迎してくれたタイヤル族の愛子さんこと周麗梅さんの「酋長の家」は10年ほど前に閉店したままの姿でした。瀑布公園駅の向かい側、谷を挟んだその先の相変わらず美しい「白糸の滝」や谷をまたぐケ―ブルカーを見ながら、ひたすら慰霊碑を目指して歩きました。急な階段があり、それを登れば近いのですが、とてもその元気なく、山道を歩きます。一昨年に来たとき、慰霊碑があった山は土石流に遭い、無残に抉られていました。今日も土砂を運ぶ大型のトラックが追い越していきますので、多分その復旧工事はまだ続いているのでしょう。

 工事現場に着きました。抉られた谷はコンクリートが打たれていますが、その周辺ではまだ工事が進められていました。慰霊碑があった場所に行きたいのですが、工事の飯場や重機、資材が置いてあり、近づくことが難しそうです。

 何とか近づけないものかと、思い切って飯場に足を踏み入れましたら、丁度昼時だったせいか飯場には数人の人夫がたむろしており、どうやら博打の真っ最中。恐る恐る慰霊碑のあったところに入りたいというと、最初は断られましたが、再度頼むと博打が気になるのか、「勝手に行け、しかし、注意して行けよ」とのことでした。

 足下の悪い坂道を登っていくと、「烏来高砂義勇隊主題紀念園區」の文字を刻んだ道標がありました。その奥にはタイヤル族の勇士の像がただ一つ、 寂しげに立っていました。この像は、李登輝総統揮毫の「靈安故郷」と書かれた慰霊碑の上に立っていたものです。以前その周辺にあった慰霊碑やさざれ石、八紘一宇の詩、鎮魂の碑などは草むらに埋もれ、あるいは流されたのか、見当たりませんでした。

 勇士の像は復旧を待ち望むように、静かに、山の方をきっと睨むように、立ちつくしていました。

◆おわりに

 ふたつの「小吉報」をお伝えできるのは大変うれしいことですが、台風の爪痕がまだ生々しく残っている烏来を見るのはつらいものがありました。あの高砂義勇隊慰霊碑はいつ復旧するのでしょうか。

 先月(2018年2月)6日に、台湾の東海岸、花蓮で大きな地震が発生し、多くの寄付が寄せられましたが、寄付もさることながら、観光地を訪れる方がよいとも言われています。烏来の台風被害もまだまだ復旧していません。

 少しでも・・・・・と思い、老街の馴染のお店に入りました。いつもはビールですが、ふと見ると「小米酒」(シャオミイチョウ:原住民のお酒で、原料は粟)を飲んでいる人を見かけました。昔、台東の都歴というところで阿美族の「小米酒」を頂いたのを思い出して早速注文しました。あまり強いお酒ではありませんが、甘口の口当たりの良いお酒です。

 「小吉報」をお伝えしようという「小確幸」を味わいながら、「小米酒」を頂いた次第です。


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