新首相に日米台関係の強化期待  浅野 和生(平成国際大学教授)

【View point:2020年9月10日】

 トランプ米政権による一連の対中政策演説の嚆矢(こうし)としてオブライエン安全保障担当大統領補佐官は6月24日、過去のアメリカの対中外交の失敗は「中国共産党のイデオロギーに注意を払わなかった」ことだとし、「中国共産党の指導者が語ったことに耳を傾けず、主要文書に書かれたことを読まず、我々は耳を塞(ふさ)ぎ、目を閉じていた」と述べた。さらに「我々は、中国共産党員といっても、共産主義者というのは名ばかりだと、自分たちが信じたいことを信じてきた」と分析した。

 その上で同補佐官は「明確なことは、中国共産党はマルクス・レーニン主義の組織であり、中国共産党総書記の習近平は、自分自身をジョセフ・スターリンの後継者だと自任している」と述べた。

 さらに同報告は、中国共産党によるアメリカの大学、プロバスケット協会(NBA)のチーム、ハリウッドの映画制作などに対する、アメリカ世論の親中国化のためのプロパガンダ工作の実例を挙げた。

◆膨大な個人データ窃取

 また同補佐官は、中国共産党がコンピュータに侵入して、2014年にアメリカで2番目に大きな健康保険会社であるアンセム保険(Anthem Insurance)の8000万人分のデータを、そして15年にはアメリカ合衆国人事管理局から2000万人分のデータを盗み取り、17年にアメリカの三大信用情報会社の一つエキファックス社から1億4500万人分の氏名、生年月日、社会保障番号、クレジット評価を、さらに19年にマリオット社の顧客3億8300万人分のパスポートナンバーを含むデータを窃取した、と述べた。このほか16年には、ゲイとバイセクシャルのための出会い系アプリGrindrを中国企業が買い取って、エイズウイルス(HIV)判定を含む利用者のデータを入手したという。しかも、「これらは我々が知っている事例のほんの一部」なのである。

 周知のとおり中国共産党は、全中国人民一人ひとりに対する全面的な支配を目指しているが、それは経済的支配、政治的支配、肉体的支配だけではなく思考の支配も含んでいる。上記のデータ窃取状況から、その支配の対象が、国境を越えてアメリカ人にも及んでいることは明らかだ。これらのデータを駆使することで、中国共産党はアメリカの個人の言動に影響力を行使できる。

 さらに中国共産党はオーストラリア人もコントロールしようとしているが、その実情はクライブ・ハミルトンが『目に見えぬ侵略─中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)で詳細に描いている。当然、日本も同様の状況だと理解すべきである。

 これが「習近平の中国の特色をもった社会主義」の実態である。そして、中華人民共和国建国100年の49年までに、世界の強国となり主役となるというのが、中国首脳が語る「中国の夢」である。

 トランプ政権はその言葉に耳を傾けた結果、中国による非軍事の侵略行為、覇権を求める行動に積極的に対応することを決意した。つまり、孫子の兵法でいう「戦わずして勝利を得ようとする」21世紀型覇権争い、中国のいう「超限戦」において、トランプ大統領のアメリカは戦って勝利を収めることにしたのである。

 香港では、すでに「中国の夢」が実現しつつあるが、それは香港人民の悪夢である。トランプ政権は、悪夢の台湾への拡大を未然に防ごうとしており、8月9日にアザール厚生長官を台湾に派遣した。

◆問われる国家観・世界観

 それでは日本はどうするか。太平洋からインドに至る海を、自由、民主と法の支配の開かれた地域・海域にするという、安倍政権が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋構想」は正しい。トランプ政権もこれを共有している。それは共産党一党独裁の中国に対抗して、日本とアメリカが手を結び、台湾の蔡英文総統とも手を携えて、つまり日米台関係を強化して、この地域において共通の価値の維持・実現を目指すことである。

 中国の支配拡大は、人権を蹂躙(じゅうりん)した全人格的支配の拡大となる。だから次の日本の首相は、日本と世界のために、中国と対峙(たいじ)して自由、民主と法の支配の理念を堅持し、「自由で開かれたインド太平洋構想」の実現に邁進(まいしん)する、確固たる国家観と世界観をもった人物でなければならない。

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