台湾贔屓の産経新聞にしてはこういう批判的な物言いは珍しいが、実は編集子も同感だ。昨日の本誌でも「日本の5県産品の輸入禁止問題は、民意を問う公聴会などは開かなくてもよかったのではないか。蔡英文総統が政治判断すべきだったのではないかという疑問が残り、公聴会は国民党など反政府派に政治利用されただけに見える」と指摘した。
さはさりながら、翻って日本政府に落ち度はなかったのだろうか。
この主張では「政府が前面に立ち、あらゆる手立てを講じて風評を払拭するしかない」とも結論付けていて、この主張にも賛意を表する。
菅義偉・官房長官は11月26日、記者会見で「『食品の安全性などに関する各種の情報を提供しつつ、科学的根拠に基づき早期の規制撤廃を働きかけてきた』とこれまでの取り組みを説明。その上で、『台湾の消費者の皆さんに十分にご理解を頂けない結果になった』と遺憾の意を表明した」(中央通信社)という。
しかし、これまで当該県の知事や県議など、また国会議員や日本台湾交流協会が「科学的根拠に基づき早期の規制撤廃を働きかけてきた」とは聞き知るところだが、政府の誰が働きかけてきたのだろう。農林水産大臣や副大臣など担当所管の閣僚などが台湾まで行って働きかけたことがあるのか。寡聞にして知らない。やはり、産経「主張」のとおり「政府が前面」に立つ必要があったのではないか。
吉川貴盛(よしかわ・たかもり)農水大臣は11月27日の記者会見で「極めて残念」と述べつつ、「規制の早期撤廃につながるように、日本台湾交流協会を通じて、また、あらゆる機会をとらえて粘り強く働き掛けていく必要がある」と述べているが、今後も日本台湾交流協会という代理ですませようとしている。
しかし、すでにその段階は過ぎている。日本台湾交流協会では埒が明かないことは明らかではないか。
この5県産品輸入禁止問題は、公民投票の成立を受けて「今後2年間、解禁措置を取れなくなる」と伝えられるが、今からでも遅くはない。政府が前面に立ち、問題を解決する姿勢を明らかにして動き出すべきだ。これは日本の国益のためであり、台湾の国益のためでもある。苦境に陥っている蔡英文政権への助け舟ともなるはずだ。
下記に産経新聞「主張」を紹介したい。
————————————————————————————-台湾の輸入規制 風評根絶に民意を向けよ【産経新聞「主張」:2018年11月29日】
東日本大震災後、台湾の人たちはいち早く被災者支援に動き、総額で200億円を超える義援金を送ってくれた。それだけに残念でならない。
台湾の統一地方選に合わせて実施された住民投票で、福島第1原発事故から続けている福島県など5県産の食品に対する輸入禁止措置が今後2年は継続されることになった。
重要な問題点が2点ある。
一つは、食品の安全にかかわる問題が、科学的議論を抜きに住民投票に委ねられたことだ。
たとえば、「天動説」と「地動説」のどちらをとるかを、住民投票で決めるのが「おかしい」ことは明白だろう。食品の安全性も科学的論拠に基づいて判定されるべき事象であり、民意を問うこと自体が間違いなのだ。
原発事故以降、台湾のほか韓国、中国、香港、シンガポールなどの国、地域が日本産食品に対する輸入規制を続けている。
今年2月、世界貿易機関(WTO)の小委員会は、韓国の禁輸に関する報告書で「不当な差別」だとする判断を示した。「基準値以上の放射性物質は検出されていない」とする日本の主張の正しさは、科学的かつ客観的に示されているのである。
民意を問う前に輸入規制には根拠がない。これを国際社会の共通認識としなければならない。
もう一つの問題点は、極めて深刻な「風評」の根深さである。
原発事故から7年8カ月余が過ぎた。福島県や近隣の生産者は米の全量検査をはじめとする厳格な検査で安全性をアピールし、風評の払拭にできる限りの手立てを尽くしてきた。しかし、現実と乖離(かいり)した「福島=放射能汚染」というイメージは払拭されず、むしろ定着してしまっている。
中国や韓国では、反日感情と風評が結びついて政治利用されている。台湾の住民投票にもその影響はある。生産者や自治体の努力では解消できない。政府が前面に立ち、あらゆる手立てを講じて風評を払拭するしかない。
菅義偉官房長官は「台湾の消費者に十分に理解してもらえず、極めて残念だ」と述べたが、国内でも「福島産」が敬遠される傾向はまだ続いている。中国メディアは「日本人も福島の食品をあえて食べない」と論評した。
日本の民意を「風評の根絶」に向ける必要がある。