つで、台湾の玉山(3952メートル、旧称・新高山)と富士山の姉妹山関係を結ぶ調印式を7
月以降に台湾関係者を迎えて日本で行うことを明らかにしている。
李登輝元総統とも対談したアルピニストの野口健氏も、富士山と玉山の姉妹山提携を早
くから提唱していた。
富士山はめでたく世界文化遺産に登録されたものの、富士山のゴミ問題に取り組み清掃
登山を続けている野口氏は「無邪気に喜ぶだけではダメ」と苦言を呈す。
なお、野口氏には本会の「日台共栄の夕べ」でも講演していただいたことがあり、その
ときの講演録をDVDとしてご案内している。
◆DVD「野口健講演:台湾からの再出発」平成22(2010)年「日台共栄の夕べ」講演録
http://www.ritouki.jp/news/distribution/noguchi.html
富士山は浮かれている場合ではない 野口 健(アルピニスト)
【産経新聞:平成25(2013)年7月11日】
富士山が世界文化遺産に登録され、日本中がお祝いムード一色に染まった。今月1日、山
開きと同時に多くのテレビカメラが富士山山頂から、ご来光などの景色を放送しスタジオ
ではコメンテーターたちが「美しい!」と連発していた。
日本人は世界に評価されることが何よりも好きなのだと改めて痛感。明るいニュースに
飢えている日本社会だ。富士山世界遺産登録に喜ぶ人々の気持ちも分からなくもない。し
かし、無邪気に喜ぶだけではダメ。なぜか。このたびの世界遺産登録はあくまでも「条件
付き」だということを忘れてはいけない。
通常、世界遺産に登録されてから6年後にユネスコによるその後の管理状態や実情などの
チェックが入る。しかし、富士山に関しては異例の「半分」、つまり3年後とされた。同時
に多くの宿題を与えられている。
例えば増加する入山者をどのようにコントロールし富士山を守っていくのか。富士山の
保全状況報告書を3年後までに提出すること。また山中湖などに目立つモーターボート(動
力船)が平穏な環境を阻害しているとも指摘された。ユネスコからすると文化的景観の観
点から、また霊峰である富士山山麓の湖にモーターボートのエンジン音は似合わないと映
ったのだろう。
本来ならば世界遺産に登録される前に入山規制や入山料制度などの受け入れ体制を明確
に作るべきであった。また文化遺産ならば「景観」という概念も含まれてくるだろう。こ
の夏は登山者による渋滞、ごみ問題、トイレの不足、そして登山者の安全面などさまざま
なトラブルが発生するだろう。静岡、山梨両県の関係者はその状況を現場で目に焼きつけ
てほしい。そして来年の山開きまでにその一つ一つの課題に適応する制度を待ったなしで
作るべきだ。
富士山の世界遺産登録で浮かれている場合ではない。われわれはユネスコに試されてい
ると受け取った方がいい。仮に何ら対策を取らないまま3年が経過すれば次のビッグニュー
スは富士山の「世界危機遺産入り」または「世界遺産取り消し」となるだろう。
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【プロフィル】野口健
のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高
峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化な
ど環境問題、戦没者の遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍している。