昨日は「夕刊フジ」が NHK「JAPANデビュー」問題の政界波及を報道し、「日
本の前途と歴史教育を考える議員の会」がNHKに意見書を提出予定であることをお伝え
したが、同日(4月21日)発売の「東京スポーツ」紙で、ジャーナリストで元「文藝春秋」
編集長の堤堯(つつみ・ぎょう)氏がNHK「JAPANデビュー」の偏向ぶりを舌鋒鋭
く指摘している。
堤氏は「台湾が尊敬する日本人を悪人扱い─NHKは北京放送局に変わったのか」と題
し、「台湾が尊敬する日本人」、つまり後藤新平と八田與一を例に挙げ、その事績を紹介
しつつ、李登輝元総統から直に聞いた話を紹介している。そして「この番組を彼が見れば、
いったい何というか」と嘆じている。
だからNHKは「北京放送(中央電視台)に変じたとしか思えない」と述べ「番組人事
を総入れ替えせよ」と要求している。「さもなくば、受信料不払い運動で対応するしかな
い」と断ずる。
先に「週刊新潮」(4月16日発売)のコラム「変見自在」で、「こんなNHKに受信料
を払う理由がどこにあるのか」と憤る高山正之氏の見解を思い出していただきたい。結論
はやはり同じだ。これがあの番組を見た日本人の正常な反応だろう。おかしいのはNHK
なのである。
なお、堤氏の文中、後藤新平が「台湾総督」とあるが後藤は民政長官などケアレスミス
があるが、指摘されている大事の前の小事、ご愛嬌にすぎない。
(メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原正敬)
台湾が尊敬する日本人を悪人扱い NHKは北京放送局に変わったのか
【4月21日 東京スポーツ 堤堯「阿呆の遠吠え」第358回】
いよいよNHKがおかしい。さきごろ放映したスペシャル番組の第一回「アジアの“一
等国”」だ。
日本の台湾統治時代を取り上げ、まずは「人間動物園」と称する写真を掲げる。ロンド
ンの日英博覧会に先住民のパイワン族を連れて行き、これを見世物にしたとする。彼らは
民族の踊りや模擬戦闘を披露した。大相撲や歌舞伎の海外公演と同じだ。どこを押せば
「人間動物園」なのか。
ついで台湾総督・後藤新平を登場させ、もっぱら極悪非道の圧政者として描く。後藤は
この「化外の地」を近代化した。四百キロの縦貫鉄道を敷き、道路、学校、病院などのイ
ンフラを整備した。主要輸出品の樟脳や米、砂糖キビの殖産にも務めた。中で最大の貢献
は烏山頭水庫、別名「八田ダム」の建設だ。
本欄269回で触れたから詳述しないが、技術者・八田与一が11年がかりで完成させたこ
のダムのお蔭で、かつてはマラリアが猖獗(しょうけつ)を極めた15万ヘクタールの荒蕪
(こうぶ)の土地が緑の沃野(よくや)に一変し、年に3毛作を可能にした。切り拓いた
水路の長さは万里の長城の6倍におよぶ。台南地帯200万人の飲料水でもある。
のちに八田は戦死、夫人はこのダムに身を投げて夫に殉じた。八田夫妻の物語は台湾で
有名だ。番組には八田の「ハ」の字も出て来ない。八田を任命したのが後藤新平だ。2人
はいまも台湾人に慕われる。
小欄は台湾の元総統・李登輝氏からジカに次の言葉を聞いた。
「後藤新平は私の先生です。後藤新平が台湾の近代化をやり、私が民主化をやりました」
この番組を彼が見れば、いったい何というか。日本の植民地政策は、もっぱら悪と見な
される。しかしアジアを収奪し尽くした欧米列強のうち、日本のように巨費を投じてまで
その地に福利をもたらした例があるか。八田夫妻のような献身の例があるか。寡聞にして
知らない。
06年、台湾の雑誌「遠見」が20歳以上の1000人にアンケートした。「一番移住したい国」
「一番尊敬する国」の筆頭に、日本が挙げられている(盧千恵『私の中のよき日本』)。
NHKは日本の国営放送だ。それが北京放送(中央電視台)に変じたとしか思えない。
番組人事を総入れ替えせよ。さもなくば、受信料不払い運動で対応するしかない。
つつみ・ぎょう 1961年、東京大学法学部卒。同年、文藝春秋入社。「文藝春秋」編集長、
第一編集局長、出版総局長などを歴任。常務を経て退社。著書に『昭和の三傑─憲法九条
は「救国のトリック」だった』『阿呆の遠吠え』がある。