日本李登輝友の会メールマガジン「日台共栄」より転載
昨日はNHK「JAPANデビュー」裁判控訴審の判決言い渡し日。小田村四郎・日本
李登輝友の会会長ら控訴人側の高池勝彦、尾崎幸廣、荒木田修の弁護士をはじめ水島総・
チャンネル桜代表などの控訴人は、東京高裁101号法廷の傍聴席に詰めかけた支援者の方々
と固唾を飲んで判決を待った。傍聴席には三宅博・衆議院議員(日本維新の会)も駆けつ
けていた。
定刻の午後4時、須藤典明(すどう・のりあき)裁判長が法廷に現れ、判決を言い渡し
た。
≪被控訴人は、控訴人高許月妹に対し、100万円及びこれに対する平成21年11月6日から支
払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。≫
そして淡々と判決に至った裁判所の判断を述べた。特に「人間動物園」という言葉を番
組内で使ったことに対し、以下のように述べた。
≪本件番組を制作した島田らは……一部の学者が唱えている『人間動物園』という言葉に
飛びつき、その評価も定まっていないのに、その人種差別的な意味合いに全く配慮するこ
ともなく、これを本件番組の大前提として採用し……日英博覧会に志と誇りを持って出向
いたパイワン族の人たちを侮辱しただけではなく、好意で取材に応じた控訴人高許月妹を
困惑させて、本来の気持ちと違う言葉を引き出し、『人間動物園』と一体のものとしてそ
れを放送して……侮辱するとともに……社会的評価を傷つけたことは明らかであるから、
その名誉を侵害したものであり、不法行為を構成するものというべきである。≫
須藤裁判長は「人間動物園」という言葉は「人種差別的な意味合いを感じさせ」「嫌悪
感すら感じる言葉」で、「人間動物園」と「見せ物」とが同義であるなどということは到
底ありえないとも指摘した。なぜなら、歌舞伎も見せ物の一つだが、「人間動物園」と表
現することはできないことからも明らかと、明快に説明した。
言うまでもなく、事は損害賠償金の多い少ないではない。裁判所がNHK「JAPAN
デビュー」の放送内容や取材・編集のあり方をどう判断するかがもっとも重要だった。そ
の意味で、高池弁護団長が指摘されていたように高裁判決は「画期的」だった。
判決後、台湾在住の控訴人の一人で、高池弁護団長らが台湾・屏東に高許月妹さんの聞
き取り調査に出向いたときお世話になったパイワン族の華阿財(か・あざい)さんに勝訴
の旨を連絡すると、電話の向こうで「ホント! バンザイ」とめちゃくちゃに喜んでいた
だいた。この朗報をすぐ高許月妹さんや通訳を担当した陳清福などの関係者に伝えるとの
ことだった。
裁判の判決は主要新聞が報道し、NHKも夜7時のニュースで放送した。ここでは、その
中でもっとも詳しく伝えている産経新聞の記事をご紹介したい。
戦後の裁判史で、マスメディア、それもNHKという公共放送の内容を争った裁判で訴
えた側が勝訴した例を寡聞にして知らない。恐らく初めてのことなのではないだろうか。4
年前の放送直後から多くの心ある方々がNHKに抗議し、また3年前の2月にはじまった裁
判を1万355人が原告として戦ってきた。この逆転勝訴をご支援いただいた方々とともに心
から祝したい。
—————————————————————————————–
先住民族ら逆転勝訴 台湾番組で東京高裁判決 NHKに100万円賠償命令
【産経新聞:2013年11月28日】
日本の台湾統治を扱ったNHKの番組内容で名誉を傷つけられたとして、出演した台湾
先住民族のパイワン族や視聴者ら計42人がNHKに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で
東京高裁は28日、「人間動物園」という言葉が台湾先住民族の女性に対する差別的表現
で、名誉を傷つけたと認定、100万円の支払いを命じた。1審東京地裁判決は原告側の全面
敗訴だった。
1審で原告側は計約1億1000万円を請求していたが、原告数の減少に伴い2審では計710万
円の支払いを求めていた。
判決などによると、平成21年4月5日に、NHKスペシャル「シリーズJAPANデビュ
ー」の第1回「アジアの“一等国”」で放送。1910年にロンドンで開催され、パイワン族の
生活状況を紹介した日英博覧会の写真に「人間動物園」とテロップを表示し、「イギリス
やフランスは植民地の人々を盛んに見せ物にし、日本はそれをまねた」と紹介した。
賠償を認められたパイワン族の高許月妹(こうきょ・げつまい)さん(83)の父はこの
博覧会に参加。高許さんはNHKのインタビューに応じた。
1審は「人間動物園」の表現について、「過去の歴史的事実として紹介したにすぎず、番
組が原告の父親を動物扱いしているものではない」と認定。しかし、2審で須藤典明裁判長
は「深刻な人種差別的意味合いを持つ言葉で、パイワン族が野蛮で劣った人間で動物園の
動物と同じように展示されたと放送した」とし、1審の判断を覆した。
◆「民族の誇り認められた」台湾パイワン族指導者ら
「本当に安心しました。民族の誇りを大切にするわれわれの気持ちが認められた」。踏
みにじられた名誉を取り戻そうと訴えた原告の台湾先住民族パイワン族らの思いは、敗訴
した昨年12月の1審判決を経て、2審でようやく通じた。
台湾から東京高裁の判決を見守った原告の一人でパイワン族の指導者、華阿財(か・あ
ざい)さん(75)は逆転勝訴の知らせを受けて、「取材を受けた本人が、全く不公平な番
組だと主張していた。早く関係者に知らせたい」と声を弾ませた。
問題となった番組では、日英博覧会にパイワン族が出演したことを「人間動物園」と表
現。訴訟では、この表現が博覧会出演者の一人だった男性とその娘の名誉を傷つけたかが
争われた。NHK側は「取材時には『人間動物園』という言葉を使わなかったが、趣旨を
説明し、恣意(しい)的な編集はしていない」としていた。
華さんは「『人間動物園』といわれ、パイワン族は本当に傷ついた」と振り返った。
原告側代理人の高池勝彦弁護士は、「原告が取材で話したのとは違う内容で放送したと
認めた画期的な判決。取材対象の真意に基づかない番組という主張が受け入れられた」と
話した。
平成21年6月の東京地裁への提訴後、原告は数を増やし続け、パイワン族と全国の視聴者
を併せて計約1万300人を数える過去最大規模の集団訴訟になった。一方で2審の原告はパイ
ワン族を中心に計42人。高池弁護士は「原告を絞ったが、社会的な関心の高さは2審も同
じ。報道の公正性を保つ上で大きな意味を持つ判決だ」と強調した。
NHK広報局は「主張が一部認められず残念。今後の対応は判決内容を十分検討して決
める」とのコメントを発表した。