国共党首会談は親中・国民党に逆効果 遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国国民党の洪秀柱・主席は11月1日、北京の人民大会堂において中国共産党の習近平・総書記
と会談し、習氏は、台湾海峡の両岸は切っても切れない運命共同体であり、「一つの中国」の原則
を堅持することが両岸の民意の主流だと述べたと報じられている。

 一方の洪氏は、中国大陸との敵対状態を正式に終結させる平和協定の締結を積極的に検討したい
という方針を示したうえで、「一つの中国」の共通認識を深化させることで、台湾独立主義が引き
起こした危険な動揺を取り除き、ようやく得られた両岸の調和と繁栄を守りたいと応じたという。

 蔡英文総統はこの国共党首会談について11月1日、「民主主義の仕組みを深めていくという基礎
の上で、建設的な交流と対話を推し進め、長く続けることが可能な平和で安定した関係を築きた
い」と述べるとともに、「北京当局は、台湾の人々が民主制度を固く信じていることを直視すべき
だ。台湾海峡両岸の指導者は知恵と柔軟性を示し、意見の違いをウィン・ウィンの未来に導いてい
くべきだ」とコメントしたという。

 中国に民意があるかどうかはともかくとして、台湾の民意が「一つの中国」の原則を堅持するこ
とや深化させることにないことは明白で、それは世論調査でも明らかだ。86.7%が「広義の現状
維持」を支持している。

 中国問題に詳しい遠藤誉・東京福祉大学国際交流センター長は今回の国共党首会談について、中
国国民党が「親中度」を激化させ和平協議を持ち出すことは民意から離れる「逆効果」であり、北
京側からも「見くびられている」と剔抉している。下記にその指摘をご紹介したい。


「習近平・洪秀柱」国共党首会談 親中・国民党に逆効果 
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
【ニューズウィーク日本版:2016年11月4日】

 11月1日、習近平総書記と台湾、国民党の洪秀柱主席が対談した。北京側の洪主席に対する扱い
はそっけなく、「和平協議」は国民党には逆効果だった。「平和とは恐怖政治下の平和」と台湾民
意の反発も招いている。

◆見くびられている台湾の親中・国民党

 11月1日午後、習近平総書記と洪秀柱主席は、人民大会堂の「福建の間」の前で対面した。 台
湾、香港を中心として活動する「中國評論通訊社」によれば、2人の面談は次のような言葉から始
まったという。

 洪秀柱:総書記、こんにちは。

 習近平:主席、こんにちは。ようこそ、いらっしゃいました。

 洪秀柱:ありがとうございます。

 つまり、二人は「二つの国家」ではなく、「一つの国家」の中の「二つの党」の代表として会っ
たことになる。

 2015年11月7日に習近平国家主席と当時の馬英九総統がシンガポールで中台トップ会談を行った
ときは、馬英九氏が総統であったことから、「一つの中国」を表すために、互いに「習先生」「馬
先生」などと、「先生」という敬称で呼び合った。

 今回は、洪秀柱氏が野党・国民党の党首でしかないことから、各党のトップの呼称で互いを呼ぶ
ことにしたようだ。

 2人は20秒間ほど握手して、左右に広がっている記者に平等にサービスしたあと、福建の間に
入っていった。

 その時の様子は、中央テレビ局CCTVで報道されたが、何よりも注目すべきは、「習近平・洪秀
柱」の2人だけの対談は行なわれず、飾り付けのない(中間に花さえ飾ってない)テーブルに、大
陸側対台湾側が「7人対7人」で向き合って話し合っただけだったということだ。

 2005年4月29日に台湾の国民党の連戦主席(当時)が胡錦濤総書記(当時)と会った時には、
1945年以来60年ぶりの国共両党首の会談として、全中国をあげての熱狂的な歓迎をしたものであ
る。もちろん、両者は、それぞれソファーに座って(随行者は脇に座った形で)「2人の会談」を
人民大会堂でおこなった。「胡連会談」は何種類かの分厚い写真集にもなったほどだ。

 このとき、連戦主席が、なぜ訪中の道を選んだかというと、2度にわたって台湾の総統選に敗れ
たからで、「連戦連敗」と揶揄されたものだ。民進党に負けた国民党は、「大陸への接近」を重視
することによって、民進党との差別化を行い、国民党の勢力を挽回しようとしたのである。

 その国民党、いま再び「親中度」を激化させることによって、台湾の民意を惹きつけ、次の選挙
を有利に運ぼうとしているが、それは台湾国民にとって逆効果であるだけでなく、北京側からも
「見くびられている」現状を招いている。


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