それから6年後の去る3月下旬、三菱電機はフィリピン政府発注の「防空レーダーシステム」4機を落札し、「防衛装備移転三原則」を制定してから初めて国産装備の完成品を輸出できることになった。
本日(7月12日)の産経新聞はこのことを1面トップで報じ、「動向の分析は台湾防衛でも重要性が増している」と伝えるとともに、「航空自衛隊が運用している固定式レーダーFPS3と陸上自衛隊の車載型装備である移動式レーダーTPSP14を基に比空軍の要求に沿って三菱電機が新たに開発・製造した。4基を計約100億円で輸出する」と報じている。フィリピンへの引き渡しは4年後になるという。
また、6面の記事では、防空レーダー輸出に伴い、日本は「比空軍の要員を招き、空自がレーダーの運用の教育訓練を行う方針」で、フィリピン空軍との情報共有を検討しているとも伝えている。
このレーダーが中国軍機の情報をその場で共有できる警戒監視網として機能するようになれば、フィリピンと「情報保護協定を東南アジア諸国で初めて締結すること」や「九州−台湾−フィリピンを結ぶ第1列島線で中国軍を封じ込めやすくなり、台湾との連携も不可欠となる」とも伝え、実現すれば「日台比と米で中国軍に対する強固な壁を築くことにつながる」とも指摘している。
実は、本会が2012年以来、ほぼ毎年発表している「政策提言」の中で、2016年に発表した「中国の覇権的な拡張に対し南シナ海の合同哨戒を直ちに実施せよ」では、中国軍と米軍の不慮の事態や中国の挑発行為を防止するため、南シナ海の沿岸国と有志国連合を組み、軍艦や飛行機による警戒にあたる共同パトロール、すなわち「合同哨戒」を提案している。
今般のフィリピンへのレーダー輸出による警戒監視網の整備は、合同哨戒以前の事柄だが、日本もようやく台湾防衛やアジア太平洋地域の平和と安定の一翼を担う端緒をつかんだようで、フィリピンに配備される4年後が楽しみだ。
また、日台比と米で中国軍に対する強固な壁を築くためには、いずれ「合同哨戒」の実施も視野に入って来るものと思われる。
◆2016年政策提言「中国の覇権的な拡張に対し南シナ海の合同哨戒を直ちに実施せよ」 http://www.ritouki.jp/index.php/info/20160404/
—————————————————————————————–中国軍機 比と監視強化 レーダー情報 共有検討【産経新聞:2020年7月12日】https://www.sankei.com/article/20200711-TFM72KKWXFJDNAXCCUS74J6AC4/
政府が東シナ海と南シナ海上空での中国軍機の監視強化に向け、フィリピンとの間で中国軍機の動向に関するレーダー情報の共有を検討していることが11日、分かった。フィリピンへの日本製防空レーダーの輸出を機に情報を共有できる関係を築く。レーダー輸出をフィリピンの防衛力強化のみならず、日本と台湾の防衛にも資する安全保障協力に発展させる狙いがある。
レーダー輸出は平成26年の防衛装備移転三原則の策定で装備輸出に道を開いて以降、国産装備の初の完成品輸出となる。新型コロナウイルスの影響で政府職員らが往来できず、日比両政府などは郵送で輸出入契約の手続きに入り、フィリピン側がサインをすれば月内にも契約が締結される。
中国は南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島の人工島で滑走路やレーダーを整備し、空の領域でも支配権を強め、警戒感を高めるフィリピンはレーダーを急ピッチで導入する。
輸出するのは三菱電機製で3基の固定式レーダーと1基の移動式レーダー。航空機の探知と追尾を担い、フィリピン・ルソン島と台湾の間にあるバシー海峡上空を監視できる北部などに配備する。この配備地が重要で、南シナ海のバシー海峡と東シナ海の宮古海峡(沖縄本島と宮古島の間)の情報共有が求められる。
28年以降、宮古海峡から太平洋に出てバシー海峡に向かう中国軍機が頻繁に確認されている。宮古海峡を飛行している段階で日本が情報を提供すればフィリピンは事前に警戒できる。
日本は中国軍機がバシー海峡を抜けて太平洋を北上するとレーダーが手薄で領空接近を許す弱点がある。中国軍機の太平洋飛行は活発化し、29年には紀伊半島沖まで進出した。バシー海峡を通る時点で情報が得られれば、早期警戒機の展開と戦闘機の緊急発進で領空接近を阻止しやすい。
中国は台湾侵攻の際に周辺で航空優勢を確保する意図もある。中国軍機が宮古・バシー両海峡を出入り口に台湾を周回する飛行も28年以降目立っており、動向の分析は台湾防衛でも重要性が増している。
◆フィリピンへのレーダー輸出計画
航空自衛隊が運用している固定式レーダーFPS3と陸上自衛隊の車載型装備である移動式レーダーTPSP14を基に比空軍の要求に沿って三菱電機が新たに開発・製造した。4基を計約100億円で輸出する。
◆比と訓練 中国封じ布石 レーダー情報共有 台湾との連携視野【6面】
政府がフィリピンと防空レーダー輸出に伴う情報共有を検討していることが判明した。政府は航空自衛隊の教育訓練で布石を打ち、実現に導く構えだ。情報共有の実効性が高まれば、九州−台湾−フィリピンを結ぶ第1列島線で中国軍を封じ込めやすくなり、台湾との連携も不可欠となる。
自衛隊幹部は「バシー海峡の情報は日本防衛に欠かせなくなっている」と口をそろえる。ただ、中国の経済支援を背景にフィリピンの対中姿勢は定まらず、中国が横やりを入れる可能性もある。情報共有まで関係を深化させるには曲折が予想され、政府はレーダー輸出後の支援を重視する。
輸出入契約の締結後、三菱電機は固定式レーダーの建造に着手し、3基の完成まで4年かかる。その間、比空軍の要員を招き、空自がレーダーの運用の教育訓練を行う方針だ。
教育訓練のニーズがあると見込むのは、レーダーは航空機の接近を把握するだけでは不十分だからだ。速度や飛行形態のデータを蓄積し、データとひもづけすることで即座に戦闘機などを識別して対処できるようになり、そこで初めて警戒監視網として機能する。
空自のノウハウを伝えることが関係を深め、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=職場内訓練)の手法で現地指導をすれば中国軍機の情報をその場で共有できる。運用が軌道に乗ると、機密性の高い情報を保全する情報保護協定を東南アジア諸国で初めて締結することも視野に入る。
フィリピンとの防衛協力強化は米軍の同国内での法的地位を定めた訪問軍地位協定の破棄問題でぎくしゃくしている米比同盟を下支えする意義もある。
元空将の尾上定正氏は「台湾とも連携して第1列島線で中国軍を閉じ込めることが重要だ」と指摘する。高性能のレーダーや戦闘機を保有する台湾との連携にも拡大すれば、日台比と米で中国軍に対する強固な壁を築くことにつながる。(半沢尚久)
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