た親民党主席の宋楚瑜氏が記者会見を開き、出馬宣言をした。
台湾の報道によれば、署名運動で総統選挙への立候補資格を取得しようとする場合は、
直近の国政選挙の有権者数の1.5%に相当する人の署名を集めなければならず、中央選挙委
員会が公表した前回の立法委員選挙の有権者数は1717万9656人で、そのため、宋氏は25万
7695人の署名を集める必要があった。宋氏は記者会見で1.5%以上の約35万5000人から署名
を集めと発表したと伝える。
これまで宋楚瑜氏の総統選挙への参戦は、馬英九政権発足後、宋氏は重要ポストから外
されていたため中国国民党との駆け引きの様相が強いと見られていたが、正式に出馬を表
明したことで、中国国民党の馬英九主席、民進党の蔡英文主席と三つ巴の戦いとなり、か
なりの混戦が予想される。
この宋氏の出馬表明を受け、台湾問題にも造詣が深い宮崎正弘氏は今朝の「宮崎正弘の
国際ニュース・早読み」で、総統選挙について「大乱戦」と評し、宋氏の参戦は蔡氏有利
と見られていたが、「それでも勝利に至る道は隘路」と論じている。下記にご紹介したい。
台湾総統選、この土壇場へ来て三つどもえの大乱戦に
宋楚瑜(親民党主席)が立候補。それでも民進党が有利になったとはいえない
【宮崎正弘の国際ニュース・早読み:平成23(2011)年11月2日】
大混戦。2000年状況と酷似する。
2000年3月、李登輝引退にともない、台湾の総統選挙は自由投票、米国からの選挙監視団
がはいった。世界中から六百名ほどの記者が台湾に取材にきていた。台湾中がお祭り騒ぎ
だった。
国民党が分裂したため、民進党は「まさか」の勝利を得た。
陳水扁は予行演習のつもりで立候補していたし、野党は国民党に勝てるとは考えていな
かった。直前の台北市長選で、陳水扁は現職でありながら馬英九に敗れていたばかりだった。
国民党秘書長だった宋楚瑜が、国民党を割って第三党を設立し、立候補した。
宋楚瑜は「台湾の田中角栄」といわれたほどの実力者だった。
これで漁夫の利が陳水扁に転がり込んで、素人集団「民進党」政権が発足した。長かっ
た国民党独裁に別れを告げ、民衆は歓呼に沸き、勝利集会の現場に筆者もいたが、その興
奮は翌朝までつづいた。
2012年1月14日、台湾はまた総統選挙(総選挙も同時に行われる)。これまでの下馬評で
は現職馬英九が圧倒的に有利とみられた。
第一に、国民党の軍資金は枯渇しておらず、党財産はまだ6000億元(邦貨1兆3000億円程
度)あり、土壇場でうなるような買収資金となる。
第二に、米国も、いや北京さえも現職馬英九を支持している。
第三に、台湾マスコミは99%が北京寄り、自由時報いがい中国に敵対的論調は見られない。
第四に、台湾財界は大陸に工場進出し、台湾企業6万社。合計100万人が中国に進出して
いる。大陸といざこざがおこるのは困ると思っているので、これも国民党支持になる。
第五に、国民党の基礎票とは軍、警察、教員などの公務員。退役軍人らの強力な組織が
あり、組織的動員力では優勢にある。
▲台湾の世論調査は信用できない
これまでの世論調査は数ポイントで蔡英文女史がリードする場面もあったが、台湾のマ
スコミは世論操作に長けており(つまり国民党系は陣営引き締めのため意図的に馬英九の
支持率を低めにだす)、10ポイントほど蔡英文がリードしていないと現実を繁栄していな
い。
この接戦状況に宋楚瑜が殴り込んだ。
政局はがらりと激変。いきなり国民党に不利な状況となったのである。
宋楚瑜の支持率は10%から11%。このうち、おそらく8割が国民党支持から流れるだろう
から、馬英九再選に黄信号がともることとなった。
宋楚瑜の立候補に関しては北京からも強い反対圧力があった。これは逆バネとなって、
むしろ宋の決断をうながす結果にもなった。
蔡英文率いる民進党は、ふたたび漁夫の利を得られるチャンスが巡ってきたわけだが、
それでも勝利に至る道は隘路。
第一に、米国は民進党勝利に難色をしめすだろう。
第二に、北京は不快感をあらわにして、新しい嫌がらせを始めるだろう。
第三に、党内事情から言っても、台湾最大野党の民進党は4つのセクトの寄せ集めであり、
党内融和が進むとも考えにくい。あまつさえ台湾独立派の人たちも蔡英文が独立色を薄め
ていることに苛立ちを強めているので、結束が難しい。
つまり現時点での予測は極めつきに難しい。