台湾は中華民国ではない
台湾の総統候補はこの基本問題を避けるべきではない
作者:多田恵 2014.2.20
・漢文原文は彭明敏文教基金会『鯨魚ウェブサイト』掲載
http://www.hi-on.org.tw/bulletins.jsp?b_ID=136199
施明徳氏は、2月13日にリンゴ日報で発表した「事実を受け入れることが唯一の王道だ」という
文章の中で、台湾を大英帝国になぞらえた。新聞社がこういった危険な謬論を掲載して、社会をミ
スリードするとは、蒋介石集団の台湾人に対する洗脳がいかに成功したかということを、ひしひし
と感じさせた。
台湾が中華民国であるかどうかは、正義の回復、国民党の党産、歴史科指導要領の「“微”調
整」、台湾語教育、中国に統一される可能性といった重要問題に関わっている。
施氏の文章には「中華民国は……台湾・澎湖・金門・馬祖を残すのみとなった……今日の大英帝
国同様に、国威は失われたが、国格は残っているのだ!」と書かれている。
まず確認する必要があることは、台湾が「中華民国」に属していないという事実である。「中華
民国」が台湾を統治しているのは、占領の性質である。1952年7月に外交部長であった葉公超は立
法院に対して報告を行った。
「微妙な国際情勢によって、台湾・澎湖は私たちに属していない。現在の状況では、日本は台湾を
我々に引き渡す権限がない。たとえ日本側がそれを望んだとしても、我々もそれを受け入れること
はできない。」
台湾はまた、現行憲法第4条の手続きを踏んで中華民国に併合されたという事実もない。
次にこの「中華民国」が、いったい中華民国なのかどうか論じる。
去年の12月、教育部が誤った通知を出した。「現在、わが国の首都は正しくは南京である」。
その後、教育部国教署組長である邱乾国は次のように説明した。「極めて早い時期の公文書には
中華民国の首都が南京にあると言及されている……教育部が1997年に地理教科書編集審査規則を定
めた際に、地図上の首都の記号は台北につけるべきだとしている」。
このことから、1997年以前、「中華民国」政府は南京こそが首都だと主張していたと推測でき
る。南京の「明孝陵」の石柱には中華民国が南京に首都を置いていたのは1949年までだと刻まれて
いる。「中華民国」の言っていることと、 明孝陵が言っていることのどちらが正しいのであろう
か? それともいずれも間違っているのか?
台湾当局がいったい「中華民国」なのかという問題について、国連憲章第23条では次のように規
定している。「中華民国……は安全保障理事会常任理事国とする」。そして国連総会は1971年10月
25日に次のように決議した。「中華人民共和国の一切の権利を回復し、その政府の代表を中国の国
連機関における唯一の合法の代表と承認し、ただちに蒋介石の代表を、それが国連機構およびそれ
に属する一切の機構において違法に占拠している席から追放する」。ここで「追放」されたのは
「中華民国」ではなく、「蒋介石の代表」である。
国際法によれば、政府承認の効果は、その政府の成立の時期に遡る。中華人民共和国が1949年に
成立して以来、中華民国の議席を継承する権利がもともとあったのだが、1971年になって違法な代
表を排除し、やっとその権利を行使できるようになったのである。それだから決議文の中で「回
復」という文言が使われているのだ。
こういうことであるから、蒋介石集団が少なくとも1949年以降は、「中華民国」の名義でなにか
をする権利が無いというのが国際社会の合意である。国連が蒋介石から剥奪したのは「中華民国」
の代表権なのである。
台湾政府が、「中華民国政府」であると自称していることは、少なくとも1971年以降は、阿Q式
勝利法であるばかりでなく、毒性のある一種のペテンなのだ。「中華民国」政府がどうして中華民
国を代表できなくなったのか? それは固有の領土、すなわちChinaを失ったからである。
大英帝国の領土は縮小したけれども、それでも固有の領土を領有している。だから今でも大英帝
国なのである。「中華民国」を名乗る政府が台湾にあるが、これは中華民国を領有していない。中
華民国というのは中国の1949年以前の名称にしか過ぎない。民主台湾が、もし自らを中華民国だと
見なすのであれば、台湾が中国の一部分であると主張することに等しい。そうすると、中国が台湾
を併呑しようとするときに、国際社会が介入できなくなる。
安倍首相の弟であり、外務副大臣でもある岸信夫氏が会長を務める自民党の「日本・台湾 経済
文化交流を促進する若手議員の会が2月17日に、やっと日本版台湾関係法の推進を決めた。これは
台湾にとって一種の保障となる。台湾がもし、中国とは国と国の関係ではないというコンセンサス
があると主張するならば、中国は必ずこのコンセンサスを以って日本の国会に圧力をかけるであろ
う。また、台湾に希望を持つ日本人を失望させ、この法案の成立を難しくするであろう。
いわゆる「中華民国政府」というのは、中国を含む国際社会が台湾の統治当局にすぎないと見て
いるものである。馬政権であっても、中国に向って、自らが「中華民国」だと言うことはできな
い。馬は台湾の総統、つまり台湾の指導者に過ぎない。
王郁[王奇]が南京に行って「中華民国」に言及したというが、中華民国が建国されて以来、103
年が過ぎたという歴史の描写をこっそりと述べただけである。連戦が「中華民国」に言及しても、
習近平は無視した。中国の政府関係者が台湾に来たときに、「中華民国政府」ですら「中華民国
旗」を揚げることを禁じた。
では、蒋介石が残した毒をどうやって解くか? 革命で政府を転覆する? 無論、困難だ。政権
をとってから考える? 「憲法」に縛られるに決まっている。
最も合理的な方法は、新憲法を制定することだ。その最も説得力のあるステップは、まず総統候
補にこの問題を理解させ、彼/彼女にこれから出馬するのが台湾総統選挙であると表明させる。そ
して彼/彼女が当選してから、憲法草案を提出し、国会審査を通過すればよいのだ。実は、陳水扁
総統はもともとこのような姿勢を持っていたが、草案提出に至らなかった。
国会の同意を取り付けるには、数年の年月が必要であろう。ただ、推進していさえすれば、台湾
社会および国際社会は注目するであろう。中国がアメリカを通じて、これを阻もうとするかもしれ
ないが、憲法の制定あるいは修正は、人民の当然の権利である。台湾人が自信をもちさえすれば、
絶対に進めることができるのである。他の国家であってもこれを阻む正当な理由は持ち得ない。
「我々の国家は台湾である。現行憲法には事実および法律のシステムに反した落とし穴があって、
台湾の国家アイデンティティーの分裂をもたらし、我々の国が国際社会に出ることを不可能にし、
危機に陥らせさえしている。すなわち、この憲法がアイデンティティーを持つ国家は、あたかも中
国であって、あたかも台湾ではないかのようである点である。だから将来、台湾は必ず憲法制定が
必要だ。それまでは、現行憲法にある“中華民国”は、しばらく台湾と読み替えるべきである。私
が当選したら、現行憲法を含む一切の法を遵守する。国家の安全と団結のために、オーダーメード
の台湾憲法を制定する。」
台湾の主権を守るために台湾の指導者はこう言うべきではないか。
制憲は技術的には簡単なことではないが、台湾の未来のためには、この基本問題を避けるべきで
はない。台湾は、チベットが経験したのに似た危機が迫っている。台湾の指導者は仮に制憲を行う
自信が無かったとしても、この台湾のすべての人々の逃げ道を取り壊すことは、決してしてはなら
ない。