って世界に衝撃を与えたが、それ以上に衝撃を与えたのは、高架から転落した追突した運
転席車両を砕いて埋めてしまったことだ。また、事故からたった1日半で列車の運行が再開
され、立ち入り禁止区域が拡大されたことだ。
中国は常識では考えられない措置を次々と取り、マスメディアには「政府の懸命な人命
救助や市民による自発的な献血活動など、プラス面のニュースを中心に報道するように」
という趣旨の通達を出しているという。
一方、気になるのは、台湾の高速鉄道(台湾版新幹線)だ。700系新幹線を基にした日本
製車両で、自動列車制御装置(ATC)も日本製を導入している。
大の鉄道ファン(通称「鉄ちゃん」)で、台湾版新幹線の車両の型を民間で初めて制作
した片木裕一(かたぎ・ゆういち)氏(前本会理事、前李登輝学校日本校友会理事長)は、
昨日発行した「校友会通信」で日本から中国と台湾への新幹線輸出の違いについて書いて
いる。下記に紹介したい。
ちなみに、報道によれば、台湾高速鉄道の技術担当者は「我々は日本と同じシステムを
使っている。あのような事故はありえない」と自信を見せ、「訓練用の模擬運転装置を使
い、追突を防ぐ仕組みを解説した。最高速度の時速300キロで運転中、前方に止まったまま
の列車があるとの想定。警報が鳴りATCが作動、ブレーキがかかり1キロ手前で完全停
止するまでの様子が公開された」(朝日新聞)という。
台湾高速鉄道は、日本ばかりでなく、フランスやドイツの技術も入っていて、台湾側は
当時「ベストミックス」と言っていたことを思い出す。
台湾新幹線と中国高速鉄道
【校友会通信:2011年7月25日】
先般、中国の浙江省温州市近郊で、高速鉄道の追突事故が発生し、多数の死傷者が出ま
した。お見舞い申し上げるとともに、ご冥福をお祈りいたします。
本件はすでにメディアで大々的に報道されていますが、折角の機会ですので、整理した
上で、台湾新幹線とも比較してみたいと思います。
事故は23日午後8時50分頃、温州市内の永嘉之・温州南駅間の橋の上で、落雷事故の影
響で停止していた列車(回送列車、乗客はいない)に、後続の列車(営業運転中、1両100
人程度乗車している)が追突、後続列車脱線し、うち2両は橋の下へ転落、200人以上が死
傷した、というもの。
停止していた列車は「CRH2型」という日本から正式にライセンス提供して中国で製造
されたもので、追突した列車は「CRH1型」というカナダのボンバルディア社から正式に
ライセンス提供して中国で製造されたもの。
以上は複数のメディアの情報を整理したものであるが、追突して橋の下に落ちた車両は、
その塗装からCRH2型(=日本型)ではないかと思われます。
そもそも正常に運行しておれば、CRH2型は温州でCRH1型を追い抜いていたとの指
摘もあります。
さらに追突した列車の先頭車を、運転席にある「ブラックボックス」は回収したとして
地中に埋めた、とのことですが、これは先頭車の形状を意図的に隠した疑いがあると思わ
れます(反対側の先頭車は早々に撤収された)。
そもそも中国への高速鉄道輸出は、台湾への新幹線輸出とは異なります。
台湾へは12両編成30本・360両が輸出されたが、これらは全て「完成品」で、地震感知シ
ステムや自動制御システムも搭載しており、途中で打ち切りになったものの関係者の教育
訓練まで含んだ「トータルシステムの輸出」でした。すなわち、「新幹線」とは車両だけ
ではなく、設備やシステム、運行管理までを総合して初めて「新幹線」という訳です(万
一事故があれば、原因にもよりますが、日本側の責任も免れない)。
一方、中国への輸出は8両編成60本・480両ということになっていますが、「完成品」は
僅か3本24両で、あとは設計図や仕様書に基づいて中国側で製造する契約(=正規ライセン
ス契約)となっています。ですから、それらの車両は「中国で作った」のは間違いではあ
りません。また、地震感知システムや自動制御システムは搭載されていません。従って、
あの車両(CRH2型)を「日本のE2のコピーだ」と言うのは適切ではないのです(万一、
事故があっても、製造自体は中国であり、制御システムに日本は関与していないので、今
回のような事故についての責任は全くない)。
しかし、運転ミスであれ、システムのトラブルであれ、追突した方の列車が日本型だっ
たらどういうことが予想されるでしょうか。確かに日本企業に責任はないが、大規模な日
本叩きデモなどが発生することも考えられます。しかし日本を叩くと、それが「やっぱり
質悪なコピー」とのレッテルを貼られてしまう……。
今後の経緯を見守りたいと思います。
李登輝学校日本校友会 事務局 片木裕一