20歳で来日し、2012年4月に亡くなるまでの70年間を日本で過ごし、その間に日本および
台湾で高層ビルの建設や都市計画などに尽力した台湾出身の建築家、郭茂林氏を描いたド
キュメンタリー映画「空を拓く 建築家・郭茂林という男」が、2月2日から渋谷にある「渋
谷ユーロスペース」で上映される。
郭氏は日本統治時代の台北工業学校(現在の国立台北科技大学)で建築を学び、来日後
に東京帝国大学(現在の東京大学)で研鑽を積み、その後、助手として長く同大学に奉職
していた関係から、日本で初の高層ビル「霞が関ビル」を建設する際の建設チームのまと
め役となった。同ビルは日本のその後の高層ビル建設のさきがけとなったもので、郭氏ら
の果たした役割は現在でも高く評価されている。
郭氏はその後、新宿副都心の都市計画も含めた高層ビル、池袋のサンシャイン60などの
各建設を手がけた。さらには、当時台北市長であった李登輝・元総統からの要請を受け、
日本で培ってきた知識と技術を活かし、台北信義地区の都市開発や各高層ビル建設なども
次々と手がけてきた。また、東京白金台にある台北駐日経済文化代表処の建物も郭茂林氏
の設計により建設された。
同映画は、酒井充子監督により2012年に製作され、同年の「第25回東京国際映画祭」に
も出品された作品で、2009年夏ごろから撮影が始まり、「霞が関ビル」建設チームの当時
の関係者からの回顧談をはじめ、郭氏の台湾での設計事務所の関係者などからも郭氏の仕
事に対する姿勢や人柄などを、当時のフィルムなども盛り込み紹介した内容となってい
る。さらには、郭氏にとり最後の帰国となった2010年のシーンの中では、李登輝・元総統
への訪問、母校の台北科技大学を訪問した際に、学生たちに建築・設計に対する基本を実
感させる指導を行うなどの姿も描かれている。
2月の上映に先立ち、1月17日に渋谷で関係者を集め試写会が開かれ、上映前のあいさつ
の中で酒井監督は、「郭氏の晩年に付き添わせていただき、この映画を製作した。建築
家、郭茂林というよりも、一人の男性、郭茂林を撮らせていただいた」と述べた。
映画を通して、郭茂林氏の高層ビルの建築、都市設計に対する確固とした理念、自身が
手がけた作品への自信、明るく気さくで人を魅了する人柄などが丁寧に描かれた作品とな
っている。