す(というよりインタヴュー形式ですが)。昨日も台湾について言及されており、当会においても有
用かと思います。よろしければメールマガジンにてご紹介されてはと思います」というお便りをい
ただきました。
そこで、7月3日付の読売新聞を確認してみると、これは「時代の証言者」という連載で、本会副
会長でもある岡崎研究所理事長の岡崎久彦氏に三好範英・編集委員がインタビューしてまとめた
「日本外交とともに」と題する記事でした。
7月3日付では「『台湾三策』中国人に説く」という見出しで、岡崎氏が外務省を退官後、専門と
する国際情勢分析で真っ先に手を付けたのが台湾問題だったことが述べられている。なぜなら、現
役時代は外務省の課長以上は台湾に行ってはいけなかったからで、「情勢判断に不可欠な土地カン
が欠けていた」ため、「李登輝総統やその周辺の人と現地で会談を重ね。状況が分かってきまし
た」とつづっている。
見出しを見、この冒頭部分を読んだとき、どこかで読んだことのある内容だなと思いつつ読み進
めてみると九州での国際会議のことが出てきたので、それではっきり思い出した。
この内容は、本会の機関誌「日台共栄」の巻頭エッセイ「台湾と私」で書いていただいたことが
ある。確認してみると、ちょうど10年前の平成16(2004)年、本会設立2年目にあたる12月号の機
関誌「日台共栄」第4号に書いていただいた一文だった。
改めて読み直して驚いた。岡崎氏は「世界の将来において大事なことといえば台湾だけなのであ
る」「世界の運命を決する問題は台湾問題しかない」と言い切っていた。読売新聞の記事はそこま
で踏み込んでいない。
ついては、下記に岡崎久彦氏の「台湾を論じない知的怠惰」と題した巻頭エッセイ「台湾と私」
をご紹介します。
なお、本会ホームページの「機関誌『日台共栄』」コーナーには、創刊号から最新の第35号まで
主なエッセイや論考をPDF版で掲載していて、この岡崎氏のエッセイも読むことができます。
◆機関誌「日台共栄」第4号 岡崎久彦「台湾を論じない知的怠惰」
http://www.ritouki.jp/magazine/magazine004.html
台湾を論じない知的怠惰
岡崎 久彦(副会長・NPO法人岡崎研究所所長)
私は1992年(平成4年)、駐タイ大使を最後に外務省を退官しているが、日華断交の72年(昭和
47年)から退官するまで一度も台湾に行くことができなかった。
なぜなら、今では外務省内規が改正され、課長クラスまで行けるようになったが、あの頃、課長
以上は行ってはいけなかったからである。
退官後の人生は国際情勢をやろうと定めていた。しかし、台湾に行った経験が一度もないのだか
ら、台湾についてほとんど何も知らないことに気がついた。
実は、アジアの将来で、否、世界の将来において大事なことといえば台湾だけなのである。国際
政治のバランス・オブ・パワーに影響を及ぼすのは、台湾しかない。
例えば、今後、朝鮮半島ではもしかしたら百万人くらい死ぬ事態が起こるかもしれない。中東問
題やテロ問題も確かに大問題ではある。しかし、世界政治のバランス・オブ・パワーに影響を及ぼ
すほどではない。
ただし、もしアメリカがベトナム戦争のように、イラクで負けて引っ込んでしまう事態が起これ
ば、若干バランス・オブ・パワーに影響するかもしれない。しかしそれも、アメリカの潜在的な力
とはほとんど関係ない。1975年にベトナムで撤退したアメリカだったが、79年のアフガン戦争で完
全に復帰したことをみても、それは分かる。
しかし、台湾だけはそういかない。中国と台湾が統一したら、世界のバランス・オブ・パワーは
完全に変わる。もし米中が衝突して、中国が負けてもバランス・オブ・パワーは崩れる。
それだけ大きな台湾問題なのである。故にこの問題を考えることなく、アジアの問題、ひいては
国際情勢は考えられない。それを放っておくというのはまさに知的怠惰でしかない。それで、台湾
問題を勉強しようと思って、退官後すぐ台湾に行ったのだった。
そのころのことである。私は出席した国際会議の席上、将来、台湾が独立するかどうかについて
話したことがある。
そうしたところ、中国代表が「台湾問題はわれわれが決めることなので、発言しないで欲しい」
という。だから私は中国代表に、次のように説明した。
これは、是非善悪の問題ではない。国際情勢がどうなるかの見通しについての議論なのだ。10年
経って、台湾が事実上独立していたら私の判断が正しかったということであり、統一が実現してい
れば私の判断が間違っていたということに過ぎない。
そうしたところ、2、3週間ほど経ち、香港の新聞が、岡崎は「情勢判断という口実で台湾独立を
論じた」と批判した。その頃、国際会議で台湾問題を論じた人はいなかったようだ。もしいたとす
れば、中国系の新聞が名指しで批判するはずだが、寡聞にして私は知らない。
そのことを思い返すと、今は隔世の感があるがある。
しかし、実は今でも台湾問題はなかなかまともに議論できないのである。言い出せば、必ず中国
が怒り出す。特に外務省や防衛庁などの政府関係の研究所や財閥系の総研では、独立の見通しを含
めた台湾問題について議論できる状況にない。まだまだ自由ではない。
これはやはり知的怠惰というしかない。大したことのない問題ならよいが、世界の運命を決する
問題は台湾問題しかないのであるから、台湾問題を議論しないで国際情勢を議論するというのは、
国際情勢の先行きについては議論しない、あるいは世界の将来について目をつぶるのと同じなので
ある。
【機関誌「日台共栄」平成16年12月号(第4号)台湾と私(4)】