年明け早々の1月12日に立法委員(国会議員に相当)選挙、そして3月22日の総統選挙
を控え、台湾は選挙モードに突入している。中国国民党の馬英九・総統候補はこの21日
に来日、民主進歩党の謝長廷・総統候補も12月中旬に来日が予定されている。
台湾の総統候補の2人がなぜ日本へ来るのか。もちろん、投票権を持つ台湾人が在住し
ているため、その人々へアピールするためだが、投票権を持つ台湾人は日本にばかり住
んでいるわけではない。中国にも北アメリカにも南アメリカにもイギリスにもオースト
ラリアにも住んでいる。
両候補はすでに台湾関係法を制定する米国に行ってアピールしている。次なるが日本
だ。台湾にとって米国と日本は安全保障上からも無視できない、国益を共にする国と認
識されている。
ところが、日本では台湾と国益を共有しているという自覚が政治政策にほとんど反映
されていない。ましてや、多くの日本人にとって台湾の選挙は対岸の火事である。
日本は台湾海峡を含む南西シーレーンにエネルギーの80%を依存している。もし台湾
が中国の影響下に入ったり併呑されてしまったら、中東からの石油をはじめとするエネ
ルギー搬送ルートである南西シーレーンは中国に押さえられてしまう。そうなれば、東
シナ海のガス田開発に見られるように、あるいはもっと端的に言えば、自国の「領海法」
に日本領土である尖閣諸島を自国領と規定してしまうその覇権主義的手法を見れば、日
本のエネルギー問題は最大の難局に直面することになるのである。
つまり、台湾が日本のエネルギー政策の要を握っていると言っても過言ではないので
ある。さらに言えば、台湾の選挙結果次第で日本は苦境に立たされないとも限らないの
である。
日本にとって台湾の選挙は対岸の火事ではない。台湾が中国と国益と共にするのか、
日本と共にするのか、日本としては最大限の注意を払って見守るべき事態なのである。
ポイントは、日本の国益にとって有利な台湾の政局を見極めることにある。投票権が
ないからといって、日本人が無関心でいることは許されないのである。
去る11月8日、台湾の中央選挙委員会は来年3月22日(土)に投開票が行われる第12代
総統・副総統選挙を公告し、翌9日には来年1月12日(土)に実施される第7回立法委員
選挙を公告した。
与党の民主進歩党は、総統候補に謝長廷・元行政院長、副総統候補に蘇貞昌・前行政
院長の立候補を予定、野党の中国国民党は、総統候補に馬英九・前中国国民党主席、副
総統候補に蕭万長・元行政院長の立候補を予定している。
一方の立法委員選挙は、今回より定数が225議席から113議席に半減、小選挙区比例代
表並立制が導入され、小選挙区から73人、原住民枠から6人、比例代表から34人を選出す
る。
この公告を受ける形で、産経新聞が両総統候補への書面インタビューを掲載した。い
ささか長いが、下記に紹介するのでじっくりと読み比べられたい。
(本誌編集長 柚原正敬)
台湾総統選 与野党「切り札」投入 論戦激しく
【11月8日 MSN産経ニュース】
【台北=長谷川周人】台湾の陳水扁総統(56)の後任を決める来年3月22日投開票の総
統選まで半年を切った。選挙戦は、与党・民主進歩党の候補、謝長廷・元行政院長(首
相、61)と、8年ぶりの政権奪還を目指す最大野党、中国国民党の馬英九前主席(57)
による実質的な一騎打ち。政界の人材不足が指摘される中、与野党は「王牌(切り札)」
を投入し、激しい論戦を展開している。
「終極統一」を目指す国民党に対し、独立志向を強める民進党。この基本的構図の中
で論戦は、中台関係、経済再建などを争点に双方が批判の応酬を続けている。だが、両
党とも「鉄票(組織票)は4割程度」(関係者)とすれば、勝敗のカギを握るのは、経
済の発展を求める残る2割の中間層となる。
このため、「和解共生」を掲げる謝氏は、中国との関係で政治的には「独立」を目指
しながらも、経済では現実的な開放路線を提唱。対話による対中関係の緊張緩和や、中
台直航便の実現を提唱する謝氏の姿勢に対して、ビジネス界や若年層にも支持が広がっ
ているようだ。
ただ、党内の意思統一は十分とはいえず、対中強硬姿勢で支持拡大を狙う急進的な独
立派は、謝氏の協調路線に批判的だ。民進党は9月末の党大会で、独立志向を鮮明にし
た「正常国家決議文」を採択したが、謝氏は「風邪」を理由に大会を欠席。その背景に
は、党主席ポストを再び手中に収め、総統退任後も権力維持を狙う陳氏と謝氏の間で、
主導権争いが存在するとの見方もある。
台湾総統選・書面インタビュー 謝長廷氏
■中台関係
私は「共生」という哲学理念をもって中台関係を処理すべきだと主張している。軍事
力の均衡を主張し、両岸(中台)対話の再開に尽力する。対話によって台湾海峡の緊張
を緩和するためだ。両岸問題は急いで決断を下す必要はない。(中台がともに)経済を
発展させ、政治体制を改革し、社会問題を処理する余裕があれば、自然に平和かつ安定
的な中台関係ができる。ただし、台湾は主権独立国家であり、現状にふさわしくない現
憲法を改正する必要がある。
■対外関係
わが国の安全と国際社会における生存のため、(台湾には)友人が必要で、台米関係
ほど重要な関係はない。だが、台米はお互いに友人と認め合いながら、利益と認識は一
致しているとはかぎらない。世界の強国である米国は、小国の生存や尊厳を理解できて
いない。台湾人民は、米国が時間と労力をもって問題解決を図ろうとしていることを理
解すべきだ。逆に米国は、台湾社会の変化を理解する必要があり、「台湾が国際社会か
らの孤立に危機感を抱き、安定した主体意識の構築が急務であること」を分からせる必
要がある。
■国連問題
台湾を国家と認め、2300万人もの人民が同じ認識を持てば、(台湾の要望は)必ず尊
重される。平均国民所得が1万6000ドル(約188万円)の国が国連に代表を送れないとい
うことが、台湾人の感情と尊厳を深く傷つけており、これを世界各国に理解してもらい
たい。
■経済再生
私の両岸経済・貿易政策は開放に傾いている。だが、その前提は主体性と開放性の両
立で、台湾を犠牲にしてまで開放はできない。馬英九氏が主張する「両岸共同市場」は、
欧州連合(EU)などをモデルとした対象分野に制限のない、自由な輸出入を指すが、
これは台湾を危険ながけっぷちに追いやり、台湾は中国の離島となる。台湾は今、(ま
ず)社会正義、政局安定、経済成長などに着目すべきだ。馬氏のいう「両岸共同市場」
が開放され、中国から労働者や農産品が押し寄せれば、台湾人は職を失い、実質給与も
下がるだろう。実際、タオルや靴など(の業者)は悲惨な光景を目にしている。農民や
肉体労働者、中小企業はこんな悲惨な光景を望んでいるだろうか。
■政治家の清廉さ
国家のリーダーになる人は、厳しく検証されるべきだ。私は過去5年、(首長特別費
の不正流用疑惑などで)司法の検証を受けてきたが、起訴されていない。これは私が清
廉であることの証しだ。(特別費負担とした)3000枚以上の領収書を持つ馬氏とは違い、
私に(領収書)はない。健康診断の費用を特別費で支払い、金をポケットに入れたこと
もない。
台湾総統選・書面インタビュー 馬英九氏
■中台関係
私が政権をとれば、「台湾を主として、人民に利益を」の立場から両岸(中台)関係
を展開させ、一年以内の(航空機による)直航実現に向けた交渉を行いたい。チャータ
ー便の常態化から始め、大陸観光客の開放は年間100万人とし、これが台湾経済に大いに
貢献すると思う。また、中国の妨害により、中華民国を認めない国が多くある。わが国
の正式名称は中華民国であり、私が出馬するのは中華民国総統の選挙だ。来年3月に台
湾人民は自らの意志で自らの総統を選出して、これをもって国家の主権を体現し、中華
民国の国家主権を示す。
■対外関係
中華民国と米国には長く固い友情がある。私が政権をとれば、相互信頼関係を作り直
し、実務関係を強化する。また、大陸との対立する関係を改善し、両岸の経済貿易交流
を促して、台湾海峡を平和で安定的なところにする。これは米国や日本など他の国々の
期待に沿うと思う。
日本と中華民国は友好国であるとともに、多くの共通利益もある。今の日本は昔の日
本とは違う。今の台湾、今の国民党も、昔の台湾、昔の国民党ではない。したがって、
昔の古い考え方で向き合うのではなく、両国の与野党と人民がより多くの交流を行い、
お互いの認識を深めたい。
■国連問題
民進党は選挙戦のために中国を挑発し、緊張を高めているが、これは国連復帰という
正当な訴えの焦点をぼかす。国民党と民進党は国連問題でそれぞれ政策は異なるが、台
湾人民が国連で代表権を持つべきだという点では共通している。私が政権を執れば、順
応性のある現実的な政策で、目的を達する日まで努力する。
■経済再生
国民党は「台湾を主として、人民に利益を」を前提に、機敏かつ穏健に両岸の直航と
経済交流を推進して、大陸観光客(の訪台)も解禁する。同時にASEAN(東南アジ
ア諸国連合)などと貿易パートナーを組み、CEPA(経済貿易緊密化協定)締結を目
指す。私たちの経済ビジョンは、台湾を世界経済のクリエーティブセンターとし、アジ
ア・太平洋地域における外資系企業の運営センターとすること。実現には数年を要する
が、年間経済成長率6%を目指し、2011年までに年間平均国民所得2万ドル(約235万円)
を達成する。
■政治家の清廉さ
民進党が政権をとった後、不正問題が日々深刻化している。私は「クリーン政権」を
第一の改革目標に掲げる。自身の清廉には自信があるが、他の幹部にも「文官不要銭、
武官不怕死(文官は清潔であり、武官は死を恐れず)」を守らせる。