ロスの台湾同郷会で「台湾の政治現状討論会」と言う催しがあり、私もパネリストとして招かれ
ていたのだが、ちょうど前日に奥歯を抜いたところだったので参加できなかった。
討論会の主旨は海外に住む台湾人が蔡英文の新政権に対する期待や意見を討論したいということ
である。今年1月の選挙で蔡英文が総統に選出され、立法院つまり国会議員の選挙では国民党が惨
敗した。このあと新国会はすでに開会したが総統の就任式は5月20日、あと2か月ある。
戦後70年の間、台湾は国民党独裁に統治されていた。2000〜2007年に台湾人の陳水扁が総統に選
出されたが、陳水扁執政の時代でも立法院は国民党多数で、政策は中国人の国民党に振り回され、
陳水扁総統が任期を終えるとすぐに冤罪で監獄に入れられた。
今年の選挙で初めて総統と国会が台湾人多数となり、中国人の独裁を断ち切ることが出来たので
台湾人は新政権に大きく期待している。外省人(中国人)独裁が70年も続いていたのだから新政権
がなすべきことはたくさんある。海外に住む台湾人にも新政権に期待している。私は討論会に参加
できなかったのでここで意見を述べてみたい。
●有益なこと、無益なこと
民衆は直接政治に携わっていない。新政権にいろいろ注文しても政府が全て期待通りにならな
い。出来ること、出来ないこと、優先順序がある。
台湾には200以上の政治団体があり、そのほとんどが台湾独立を主張する団体である。民進党と
時代力量党の2つの政党の外は国会議員を出していないから、政治に直接関与できない。また団体
がいくつもあるということは、政治主張や独立の方法に違いがあるからだ。
これらの政治団体が団結して一つの政党を作れば大きな政治力を発揮できるが、今のところ団結
する気配はない。従って、彼らはそれぞれが新しく選出された蔡英文総統が理想通りに台湾独立を
完成することに希望を持っているのである。
海外の台湾人も台湾独立にいろいろ意見があるがまとまっていない。蔡英文、民進党について期
待もあり懸念もある。殊に4年前の選挙の際に蔡英文は「台湾は中華民国であり、中華民国は台湾
である」と発言したので、多くの人が失望した。今回はこのような発言はしていない。
新政権がまだ発足していないうちから反対意見を出す人もいる。まだ就任していないうちから批
判や反対をされたら、蔡英文はやり難い。海外の台湾人はなるべく無益な批判をせず、応援と建言
に止めるべきである。
●蔡英文は台湾人が選んだ総統である
台湾は中国の領土ではない。だが台湾は、まだ独立していないし、台湾と呼ぶ国はまだない。
従って、台湾名義で国連に参加することはできない。国連に参加するなら台湾国が成立してからで
ある。台湾が独立していないのに国連への加入運動は無駄である。
ある団体はアメリカが台湾の主権を握っていると主張しているが、これには根拠がないしアメリ
カも承認しない。彼らはサンフランシスコ平和条約の第23条にアメリカが主要占領国である書いて
いると言うが、第23条にはアメリカが台湾の主権を持つと書いていない。
アメリカは戦後日本の主要占領国だった。サンフランシスコ平和条約の第6条に、占領軍は本条
約の発効90日以内に日本から撤退しなければならないと明記している。つまり、日本占領はサンフ
ランシスコ平和条約で終結したのである。
日本は条約の第2条bで台湾・澎湖の主権を放棄したが、アメリカに譲与したのではない。
台湾の主権は台湾人民にある。台湾独立は中華民国政権を倒して台湾国を建国する革命方法、も
う一つは台湾正名と台湾憲法の制定によって独立する2つの道がある。
今回の選挙で大多数の台湾人が中華民国の投票で政権を取得し、蔡英文を総統に選出した。革命
は多数意見ではない。アメリカは台湾の主権を持っていないから、蔡英文当選に祝電を送った。
つまり、蔡英文は人民が選んだ総統で、人民は正名制憲の道を選んだのである。これまで台湾独
立を主張し、中華民国に反対する団体は中国人の政権に反対だったが、これからは蔡英文政権を批
判すれば台湾人の選んだ方法に反対することになる。
●新政権の諸問題と民間提案
蔡英文は5月にならなければ政権を発足できない。まだ就任していないのにすでに民間からあれ
これ注文をつけられている。それだけ人民の期待が大きいわけだ。
新政権にやるべきことはいろいろある。司法改革、軍隊と警察の非国民党化、マフィア追放と治
安の改善、国民党が違法に私有した日本時代の財産の返還、国民投票法改正、正名制憲、陳水扁冤
罪の調査、現状維持と独立主張、新憲法の作成、経済政策と国際貿易、中台、日台、米台関係な
ど、問題が山積している。
民間人にできることは、第1に新政権の批判を控えること、第2に諸問題について優先順序を提案
すること、諸問題について草案を作り提案すること、第3に政府の政策に反対ではなく改良を提案
すること、などである。
私見を言えば、新政権が真っ先にすべきことは司法改革である。司法の独立を確立し、政治家や
大物犯罪者を正しく裁き罰する法律を作ることである。これまで国民党は政治家や有名人の違法行
為を処罰せず正義が通らなかった。真の民主主義国家とは司法の独立と実行力を確立することであ
る。
次にすべきことは中国、中国人の影響力を排除すること。政治家や警察、公務員などが国民党の
影響下で新政権をボイコットするようでは何もできない。台湾の軍隊は中国と戦う戦力と士気があ
るか。警察はマフィアに無力で、警察とマフィアの狎れ合いや汚職を一掃しなければ正義は通らず
治安は維持できない。
司法、立法、行政が確立してこそ新政権は成功し独立を達成できる。
われわれ人民は新政権を監督し建言は出来るがなるべく批判や反対を控え、新政権を見守り応援
すべきである。