信)で「台湾の国際法的地位」をテーマに、台湾の帰属決定は「アメリカの責任と義務」とする説
や「台湾は今も天皇陛下の領土」という説などに対して駁論している。
特に、米国が台湾の占領権を持ち、「台湾は今も天皇陛下の領土」と主張する「台湾政府」を自
称する林志昇氏に対しては「ナンセンス」と一刀両断に切り捨てている。
日本人の中には林志昇氏の説を肯定する人もいるが、こういう謬説にだまされやすいのは、林志
昇氏グループが靖国神社に参拝したり皇居の一般参賀に行くなど、日本人の琴線に触れる行為が背
景にある。
ちなみに、日本がサンフランシスコ講和条約(1951年9月8日署名)を結ぶときに大蔵大臣として
日本全権団の一員として出席していた池田勇人は後に首相となり、昭和39(1964)年2月29日の衆
議院予算委員会で「サンフランシスコ講和条約の文面から法律的に解釈すれば、台湾は中華民国の
ものではございません」と答弁している。
つまり、中華民国は台湾に施政権を行使しているだけで、主権(領土権)は保持していないとい
う日本政府の見解を明らかにしている。1964年と言えば、当時、日本は中華民国と国交を保ってい
た時代の発言であることに意を払いたい。
池田首相はまた「カイロ宣言、またそれを受けたボツダム宣言等から考えますと、日本は放棄い
たしまして、帰属は連合国できまるべき問題」とも答弁している。
ところが、その「連合国」はすでにない。だから、台湾の帰属先は未定ということになる。そこ
で、アンディ・チャン氏は「台湾の帰属決定権は人民にある」「台湾の帰属は台湾人が決める」と
指摘する。当然のことだ。
台湾の国際的地位について
【Andyの国際ニュース解説(AC通信)No.486:2014年2月21日】
台湾人が決起して独立を目指すならアメリカは援助するかもしれないが、アメリカが主体となっ
て台湾の帰属を決めることはない。
台湾の国際的地位は戦後から今日まで未定であることは誰でもわかっているが、台湾の帰属決定
権がどこにあるかについて違った解釈がある。台湾の帰属決定権は人民にあるはずだが、そうでな
いと言う人が多い。
台湾の国際的地位についての主張は二つある。第一はアメリカは現在でも台湾の「主要占領国」
であり、従って台湾の帰属決定は「アメリカの責任と義務」と言う主張である。第二は、日本国は
サンフランシスコ平和条約で台湾澎湖の主権を放棄したが、戦争法によると今でも天皇陛下の神聖
不可分の領土で天皇が(アメリカに?)台湾の主権返還を要求すべきだと言う主張である。
この二つの主張はこれまで多くの討論があったが、どちらにも疑問がある。台湾の主権は未定な
のにアメリカが占領権を握っていると言う主張、次に台湾は今も天皇陛下の領土であると言うとん
でもない主張。第一の主張は多くの人が支持しているが疑義もある。第二の主張はナンセンス、ナ
ンセンスだから論破する必要がある。
●サンフランシスコ平和条約(SFPT)の領土問題
SFPTの領土問題はその第2章、領域に包括されている。このうち第2条が諸地域の領土について、
第3条は沖縄を米国の信託統治とすることである。以下第2条には:2(a)韓国の独立、2(b)台湾
澎湖の主権放棄、2(c)千島列島および樺太の一部の主権放棄(北方4島は含まれて居ない)、2
(d)太平洋諸島の主権放棄、2(e)南極地域に主権放棄、2(f)新南群島(Spratlyつまり南沙諸
島)及び西沙群島(Paracel)の主権放棄である。
主権放棄とはこの地域におけるすべての権利、権原及び請求権を放棄すると明記してあること
で、英語では「Right, title and claim」つまり領土に関するすべてを放棄することである。
アメリカの一貫した立場は「中華民国も台湾も国家ではなく、政府でもない(Neither
Republic of China nor Taiwan is the nation or the government)」としている。つまり中華民
国は亡命政府、台湾国は存在しない、台湾人は無国籍、これが戦後から今日までの現状だ。
●米国は台湾の主要占領国か
SFPTの中で「主要占領国(Principal occupying power)」と言う名詞は第23条において使われ
たのみで、その他には見つからない。SFPT条約でアメリカは主要占領国だったからアメリカは台湾
澎湖においても主要占領国であると主張する人がいる。つまりアメリカが今も台湾に対する占領権
を持っているから帰属決定権もあるという。
この理由で林志昇は2006年、アメリカ法廷に米国は占領国の責任で台湾澎湖の帰属を正すべきだ
と告訴した。2009年の高裁で裁判官は「台湾は国ではない、台湾人は無国籍であり、67年も煉獄の
中で暮らしてきた」と述べた。この判決の一部で林志昇グループはアメリカ法廷がアメリカの責任
を認めたと主張し、占領国の責任と義務を行使すべきだと主張している。だが、高裁の判決は米国
に占領権があると述べていない。
米国高裁は「アメリカに占領権がある」と判決したのではない。林志昇グループが主張する
「SFPT第23条にある主要占領国米国」は台湾にも通用すると言う主張に疑問がある。SFPTは48カ国
の署名がある条約だがこれは「日本国との平和条約(Treaty Of Peace With Japan)」、日本対47
カ国の条約だから、日本と諸国の平和条約をそのまま台湾に当てはめることができるのかと言う疑
問がある。
諸国がサンフランシスコ平和条約で領土問題を未解決で放置したのは無責任である。しかし、
SFPTは日本国と諸国が「戦争を終結させた条約」で、米国は日本を占領したことはあっても台湾を
占領した事実はない。
台湾の王雲程氏は詳しい論文でドイツを例に挙げ、連合軍のドイツ占領は1990年に終結した。ド
イツに準じてみれば連合諸国の日本占領はまだ終結していないと言う。その上で(日本の)主要占
領国アメリカは「台湾の暫定占領権」を中華民国に与えたが「主要占領権」は今もアメリカにある
と主張している。
私は、SFPTとは連合諸国と日本の戦争終結の条約であり、SFPTの締結で日本占領は終わった、
従って日本が主権放棄をした諸領地の占領権も終結したと思っている。さもなければSFPTの47カ国
は今でも日本の占領権を放棄していないという、おかしなことになる。
●台湾は日本天皇の神聖不可分の領土
この主張はまったく理屈が通らない。林志昇がこれを主張した根拠は、(a)、1945年に天皇陛
下が署名した大日本帝国憲法が発令され、台湾は日本領となった、(b)、戦争法に拠れば戦争で
他国の領土を併呑することは出来ない、の二つである。
終戦後、大日本帝国は「日本国」となり日本国憲法が存在する。大日本帝国憲法を持ち出して現
行憲法を覆すことは出来ない。天皇が日本国と違った権利を持つというのも矛盾している。もしも
「日本国」が47カ国の戦勝国と条約を交わし、勝手に「天皇の神聖不可分領土」を放棄したなら大
問題、ありえないことだ。
大日本帝国憲法で明記した内地以外の日本領土は、朝鮮、台湾、新南群島などである。SFPTの2
(a)で朝鮮は独立し、2(b)で台湾澎湖の主権を放棄し、2(f)の新南群島は台湾高雄市に編入
されていた。韓国の独立、新南群島の未解決問題を放置して台湾・澎湖だけが今でも天皇の領土と
言う理屈は通らない。天皇はいまでも韓国の領土権を持っているのか。
しかも、台湾は帰属未定だから天皇がアメリカに台湾の主権を主張せよとは滅茶苦茶な理論だ。
そして、この主張も米国が台湾の占領権を持つとしている。
●台湾の帰属は台湾人が決める
台湾の帰属は未定だが、アメリカが帰属を決める権利はない。アメリカにはSFPTの領土問題を未
解決のまま放置してきた責任がある。しかし、アメリカの責任を追及してもアメリカはSFPTで日本
との戦争を終結したから、アメリカには日本、韓国、台湾、新南群島に対する占領権も決定権もな
い。天皇には国と違う領土権はない。
独立は台湾人の悲願だが、困難を極めているので米国に頼る気持ちが強い。この二つの主張は、
台湾人が自力で独立建国よりもアメリカに頼る「他力本願」のためと思う。台湾人が決起して独立
を目指すならアメリカは援助するかもしれないが、アメリカが主体となって台湾の帰属を決めるこ
とはない。アメリカは台湾人の努力を認めてから始めて援助すると思う。