・第一案「台湾の人民は台湾海峡問題が平和的に解決されるべきであると主張しています。中共が 台湾に照準を合わせたミサイルを撤去せず、台湾に対して武力を使用することを放棄しないので あれば、台湾の自主防衛能力を強化するために政府が反ミサイル用装備の購入を増やすことに賛 成ですか」
・第二案「両岸のコンセンサスと人民の福祉を追求するために、政府と中共が話し合いを行い、両 岸関係に平和と安定をもたらたす枠組みを構築していくことに賛成ですか」
しかし、第1案は45.17%、第2案は45.12%でいずれも公民投票法で規定された「全有権者の過半数の賛成」を得られず否決されている。
2008年1月の立法委員選挙と同時に行われた公民投票では、腐敗追及および政党不正資産追及の是非を問う2件(第3案、第4案)の公民投票が実施され、投票棄権者が多く成立しなかった。同年3月の総統選挙時にも国連加盟および復帰をテーマとする2案(第5案、第6案)の公民投票が実施されたが、投票率が50%に達せず2案とも成立しなかった。
それまでの公民投票法では「投票率は50%以上に達すること」「全有権者の過半数の賛成」など、ハードルの高い可決条件だったことから、2017年12月、公民投票法が改正され、発案については、直近の正副総統選挙の有権者数の0.5%が0.01%に引き下げられ、必要な署名数も現行の5%から1.5%に引き下げられた。また多数決に変更し、賛成投票の有効数が投票権をもつ人の4分の1を超えれば成立するとした。
そして、迎えたのが今回の第7案から第16案までの10件もの案だった。周知のように、10件のうち7件が成立している。
頼清徳・行政院長は結果を尊重すると表明、中央通信社は「『原子力発電設備を2025年までに全て停止する』と定めた電気事業法の条文は11月30日の公告から3日後に廃止される見通し」となり、同性婚については「行政院は3カ月以内に草案を策定し、立法院に送る見通し」だと報じている。また、福島など5県の「農産品と食品の輸入の開放を禁止することを政府が維持すること」も成立したことで、今後2年間、解禁措置を取れなくなるという。
蔡英文政権の政策や運営手法に、蔡英文政権がもっとも尊重してきた民意がNOを突き付けた形になったが、政治判断と民意の乖離はどこの国でもありうる。少なくとも日本の5県産品の輸入禁止問題は、民意を問う公聴会などは開かなくてもよかったのではないか。蔡英文総統が政治判断すべきだったのではないかという疑問が残り、公聴会は国民党など反政府派に政治利用されただけに見える。政治家は民意にゆだねすぎる弊害も考慮すべきだろう。
下記に中央選挙委員会が発表した結果と、「Taiwan Today」誌の記事を紹介したい。
なお、改正公民投票法では、投票年齢を現行の20歳から18歳に引き下げたものの、「憲法改正と両岸関係のテーマ」については対象から除外している。
◆中央選挙委員会:107年全國性公民投票案第7-16案 https://web.cec.gov.tw/upload/file/2018-11-27/73c26bd2-e354-44d2-918d-02e4896c62f9/c0e7ec8903c018054138e2f7b5a409cc.pdf
————————————————————————————-10項目の公民投票、7項目が成立要件に達する【Taiwan Today:2018年11月26日】
統一地方選挙の投開票が行われた24日、10項目の全国性公民投票(=住民投票、国民投票)が同時に実施された。「公民投票法」では、有権者(1975万7067人)の4分の1(493万9267人)が賛成すれば成立すると定めており、10項目中7項目が成立となった。台湾では2004年以降、これまでに6項目の議題で公民投票を実施したことがあるが、いずれも成立要件に達していない。公民投票が成立するのは今回が初めて。
◆成立要件に達した7項目 ・「毎年平均少なくとも1%引き下げ」という方法で火力発電所の発電量を徐々に引き下げる方法 に同意するか否か。(提案:国民党)
賛成:795万5753票 反対:210万9157票 無効: 71万5140票 ・「あらゆる火力発電所あるいは発電機(深澳火力発電所の建設含む)の新たな建設、拡充工事を 停止する」というエネルギー政策の策定に同意するか否か。(提案:国民党)
賛成:759万9267票 反対:234万6316票 無効: 82万3945票 ・日本の福島県をはじめとする東日本大震災の放射能汚染地域、つまり福島県及びその周辺4県 (茨城県、栃木県、群馬県、千葉県)からの農産品や食品の輸入禁止を続けることに同意するか 否か。(提案:国民党)
賛成:779万1856票 反対:223万1425票 無効: 75万6041票 ・「電業法(日本の「電気事業法」に相当)」の第95条第1項「台湾にある原子力発電所は2025年 までにすべての運転を停止しなければならない」の条文を削除することに同意するか否か。(提 案:核能流言終結者 黄士修さん)
賛成:589万5560票 反対:401万4215票 無効: 92万2960票 ・民法が規定する婚姻要件が一男一女の結合に限定されるべきであることに同意するか否か。(提 案:下一代幸福聯盟)
賛成:765万8008票 反対:290万7429票 無効: 45万9508票 ・義務教育の段階(中学及び小学校)で、教育部及び各レベルの学校が児童・生徒に対して「性別 平等教育法(=ジェンダー平等教育法)施行細則が定めるLGBT教育を実施すべきではないことに 同意するか否か。(提案:下一代幸福聯盟)
賛成:708万3379票 反対:341万9624票 無効: 50万7101票 ・民法の婚姻に関する規定以外の方法で、同性カップルが永続的共同生活を営む権利を保障するこ とに同意するか否か。(提案:下一代幸福聯盟)
賛成:640万1748票 反対:407万2471票 無効: 54万757票
◆成立要件に達しなかった3項目 ・台湾(Taiwan)の名称で、あらゆる国際競技大会や2020年東京五輪に出場参加することに同意す るか否か。(提案:元オリンピック選手 紀政さん)
賛成:476万3086票 反対:577万4556票 無効: 50万5153票 ・民法の婚姻章が同性カップルによる婚姻関係を保障することに同意するか否か。(提案:平権前 夕・彩虹起義)
賛成:338万2286票 反対:694万9697票 無効: 60万8484票 ・「性別平等教育法」が義務教育の各段階でジェンダーの平等に関する教育を実施するよう明記 し、且つその内容が感情教育、性教育、LGBT教育などに関する課程を盛り込むべきだとすること に同意するか否か。(提案:平権前夕・彩虹起義)
賛成:350万7665票 反対:680万5171票 無効: 61万9001票 * * * * * 野党・国民党が提案した火力発電の比重引き下げ、日本の福島など5県産食品の輸入禁止の継続、深澳火力発電所の建設反対が、いずれも700万票以上の賛成で成立した。民法の改正で同性婚を合法化することに反対の立場を示す下一代幸福聯盟が提案した3つの議題も、600万票以上の賛成で成立。与党・民進党政権が掲げる2025年脱原発政策に反対する議題も、600万票近くの賛成で成立した。
一方で、2020年東京五輪に台湾の名称で出場参加することの賛否を問う公民投票は、賛成票が規定の数に達せず、未成立となった。しかし、この議題は賛成票と反対票の票差が最も小さいものとなった。同性婚支持を求める平権前夕・彩虹起義が提案した2つの議題は、反対票が圧倒的多数でいずれも未成立となった。
個人の選択を尊重するとしながらも、カトリックの立場から同性婚に反対の立場をとる天主教会台湾主教団の陳科秘書長は、「これまでのメディアの報道を見ても、LGBT支援のパレードなどを見ても、すでに社会全体が同性愛者を受け入れているような印象を持っていた。しかし、公民投票の結果から見ると、一般市民にとって同性婚はまだ受け入れられないものであることが分かった」と指摘する。
陳科秘書長は、「今回の公民投票の結果から、大部分の一般市民は特別法の制定によって同性婚を規定することに賛成していることが分かる。これは同性カップルが生活、性関係において法律上、一定の地位を得ることを大部分の一般市民が受け入れていることを意味する。しかし、同性婚を受け入れているわけではない」、「同性婚を受け入れないことは、すなわち同性愛者を否定することではない。とはいえ、公民投票の結果から見ると、台湾の一般市民は依然として保守的で、婚姻の定義が変わることを受け入れられず、婚姻は一男一女の結合に限定されるべきだと考えていることが分かった」と説明している。