台湾の三十一文字  河盛 尚哉

「台湾歌壇」のお話をもう一つご紹介します。
 台湾は仏教や道教の盛んなお国柄ですが、キリスト教徒も少なくありません。李登輝元
総統はじめ亡くなられた黄昭堂・台湾独立建国聯盟主席、許世楷・元台北駐日経済文化代
表処代表など、私どもが身近に接する方々の中にもたくさんいます。

 日本に「キリストの幕屋」というキリスト教徒の団体があります。毎月「生命之光」と
いうA5判の雑誌を発行しています。その最後のページに「我らの信条」として「我ら
は、日本の精神的荒廃を嘆き、大和魂の振起を願う。」「我らは、日本人の心に宗教の復
興を願い、原始福音の再興を祈る。」など5条が掲載されています。

 このキリストの幕屋はこういう信条を堅持される方々ですから、おのずと台湾との交流
も深く、キリスト教という共通点もあって李登輝元総統を表敬訪問することも多く、本会
会員となっていただいている方も少なくありません。

 その「生命之光」8月号に大津市在住の河盛尚哉氏が「台湾の三十一文字」と題して「台
湾歌壇」について書かれていました。下記にご紹介します。

◆キリストの幕屋
 http://www.makuya.or.jp/


台湾の三十一文字  河盛 尚哉
【生命之光:2013年8月号】

 私は以前、毎月、台湾の各地をめぐりながら、『生命の光」の読者の方々をお訪ねして
いました。

 初めて台湾に行って感じたのは、台湾の人たちが日本に非常に好意をもっていることで
す。東日本大震災のとき、多額の義援金を送ってくださったことは記憶に新しいですが、
街を歩いても「日本の方ですか」と、親しく日本語で話しかけられることがしばしばあり
ます。そのような日々のなかで出合ったのが、台湾でもっとも大きな短歌の会である「台
湾歌壇」でした。

 はじめて出た例会で自己紹介かたがた、『生命の光』について話しておりますと、現在
の歌壇の代表である蔡焜燦(さい・こんさん)氏が出てこられ、「私はこの本の愛読者で
す。それは素晴らしい精神と宗教がこの本に説かれているからです」と、力強いご紹介を
してくださいました。

◆熱気あふれる台湾歌壇

 歌壇の例会は北部と南部でそれぞれ月に一度開催されますが、私の出席したのは北部の
会で、毎回、4、50人ほどの方々がつどわれます。

 私がこの例会に出て、何よりもおどろいたのは、会員のみなさんの熱気です。私も何度
か日本で、いくつかの由緒ある短歌の会に出たことがありますが、これほどの熱気がみち
る短歌の会ははじめてでした。

 全員がみずから詠んだ短歌をもちよるのは当然ですが、この台湾歌壇では、全員が選者
なのです。自分がもっともこころひかれる歌を2首選び、どこにこころひかれたのか、また
どうずればもっとよい歌になるかを披瀝しあうのです。

◆万葉の流れを台湾に

 台湾歌壇は1967年11月に、医学博士の呉建堂(ご・けんどう)氏を中心に、数名の有志
によって設立されました。

 戦後、日本の教育をうけた台湾の人々が日本語にうえていた時代、日本の書物を手にい
れると、ガリ版で印刷して、友人たちに配っていました。そんな形で多くの人々が日本語
に接していました。

 そののち、平成6年、『台湾万葉集』が日本で出版され、大きな反響をよびました。

 万葉の流れこの地に留めむと生命のかぎり短歌詠みゆかむ  呉建堂

 呉氏は「日本人自身が日本語を粗末に扱う傾向にある時代に、我々は日本語族として日
本文学に深入りしょうとしているのみ」としるして、日本の統治時代に身につけた日本文
学の香り高い日本語を後代に伝えよう、との使命にもえていました。

 その呉氏の弟子で元代表の鄭[土良]耀(てい・ろうよう)氏は、昨秋、旭日双光章を
授与されました。国交のない台湾の歌壇から選ばれたことは、いかに日本の文化と伝統を
守ろうとしているかが評価されたことの現れだと思います。

 日本へと帰る人等を見送りて残れる夕日と寂寞(せきばく)と我  鄭埌耀

◆こころのままの三十一文字(みそひともじ)

 周知のように『万葉集』は上は天皇から下は一平民にいたるまで作者の貴賎(きせん)
をとわず、自然の美や愛する者への祈りなど、こころのままをうたったものでした。

 例会でうたわれる歌のこころは、そのような万葉のこころに通じるのをおぼえます。

 くちなしの花がはじけて咲いたのよ卵のような四つの花が  林禎慧(りんていけい)

 弟よ人に尽くして世を去りぬ天に昇りて星となりしか  黄梓花(こうしんか)

 元且に神の護りを祈りつつ我がフォルモサ(台湾)は代々に安かれ 荘淑貞(そうしゅくてい)

 そして第二の祖国の惨事には、

 遠き日の母国日本の被災地に桜早よ咲け幸ともなひて 林聿修(りんいっしゅう)

と、希望をたくして祈りを送られる。ここにはむずかしいことばも、抽象化も、ことばの
技巧もありません。ひとりの婦人が、年老いた方々が、その胸のうちを、三十一文字にの
せて素直に披瀝されているのです。

 例会の最後には講師の方から、『万葉集』をはじめ和歌の伝統の話をきいて、胸をほか
ほかさせて帰ってゆかれるのです。

 高齢化がすすむなか、幸いにも、最近の台湾歌壇には、日本が大好きな若者が入ってき
ています。

 和歌をとおして尊い伝統や精神をまなぼうとする台湾の若者たち日本の現状に思いをは
せると、私はこの歌壇の小さな芽生えをうらやましく思いました。

◆台湾との愛の絆

 台湾歌壇との出合いはまさに、台湾と幕屋との太い絆のはじまりでした。

 例会に出るたびに、『生命の光』の読者の方とも、そうでない方とも、「我らの信条」
をよみながら、日本精神の復興について語りあいました。

 老齢の奥様がお体の不自由なご主人の車椅子をひいてご出席でした。あるとき、ご主人
のおすがたが見えないと思い、奥様にお聞きしました。

 すると、「先月、主人は他界しました」とおっしゃり、ご主人がどんなに『生命の光』
誌を毎月、心待ちにしておられたかを話してくださいました。このご夫妻はクリスチャン
の方でしたが、祈りがわいてなりませんでした。

 私のなかの台湾への愛は、いよいよ熱くなるばかりです。

                                 (大津市在住)


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