たのは、つい1年ほど前。2014年3月18日のことだ。もっとも衝撃が大きかったのはいうまでもなく
台湾で、台湾史に残る画期的な出来事だったと言って過言ではない。
ひまわり学生運動に参加した林飛帆氏や陳為廷氏など学生代表の発言は、立法院を退去した後も
かなり取り上げられていたが、立法院補欠選挙に出馬表明した陳為廷氏がかつての痴漢行為を正直
に告白したことが災いして立候補を断念し、林飛帆氏も兵役に服するなどで、ひまわり学生運動に
関する報道はめっきり減った。
しかし、ひまわり学生運動は台湾人としての自覚を促し、台湾に愛国心をもたらした。独立への
機運を高めた。なによりも、中国国民党政権への打撃は大きく、統一地方選挙にも大きな影響を与
え、与党惨敗の結果をもたらした。2014年3月18日は、台湾人が自らの声を挙げた日として長く台
湾史に刻まれるだろう。
それだけに、ひまわり学生運動のその後が気になっていたところ、朝日新聞台北支局長の鵜飼啓
(うかい・はじめ)記者が5月27日から「台湾のひまわりをたどって」を連載、その後のひまわり
学生運動についてレポートしている。その第6回を紹介したい。
台湾のひまわりをたどって(6) 「子どもの話を聞こう」訴え大勝
鵜飼 啓(台北支局長)
【朝日新聞:2015年6月3日】
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11789665.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11789665
写真:台北市長に当選した柯文哲陣営のパレードでは、子連れの若い親の姿が目立った=2014年11
月23日、台北
学生たちが立法院(国会)から退去して台湾の「ひまわり学生運動」が終わると、盛り上がった
「公民」の意識も落ち着いたかに見えた。
学生たちの間で考えの違いも表面化。抗議ばかりでは何も変わらないと離れた人もいた。もう一
度まとまるのは難しいのでは。そんな見方が覆されたのが昨年11月の統一地方選だった。
台湾政治は国民党と民進党の2大政党が激しく競う。首都機能を持つ台北は、国民党長期政権で
同党関係者が集まり、国民党の強い地盤だ。その台北市長選で、政治素人の医師、柯文哲(コー
ウェンチョー)(55)が「公開透明」を唱え、国民党重鎮の息子、連勝文(45)に25万票の大差を
つけて当選した。
柯を押し上げたのは、「ひまわり」で社会問題に関心を持つようになった若者たちだった。終
盤、柯が呼びかけたのは「子どもたちの話を聞こう」。「両親の話を聞こう」と訴えた連と対照的
だった。
占拠参加者も陣営に加わった。退去後の昨年5月に結成した民主化グループ「民主闘陣」幹部の
大学生、程浩哲(21)もその一人だ。8月から4カ月間、選挙を手伝った。毎日、メディアの報道ぶ
りやネット上での評判をチェック。対立候補の動きも想定して、次の一手を練った。
「柯には伝統的な政治家にはないものがあった。しがらみを気にすることなく、改革を打ち出せ
た」と支えた理由を語る。巨額の資産を持つ連家への反発も強かった。
柯は就任後、台湾メディアを連日にぎわせる。公共事業を大胆に見直し、安全の不備を理由に台
北ドームの工事を止めるなど着工済みでも容赦ない。即断しすぎて決定が二転三転するきらいもあ
るが、政治の常識にとらわれない行動に拍手を送る市民は多い。
この勢いは続くのか。
来年1月の総統選と同時に行われる立法委員(国会議員)選では、公民運動を背景に発足した
「第3勢力」と呼ばれる新政党が議席確保を狙う。その一つ「時代力量」から台北で立候補予定の
林昶佐(39)はメタルバンド「閃霊(ソニック)」のボーカル、フレディとして知られる。
国民党支持者の家庭で育った林だが、高校3年のとき台湾の歴史や文学に関する本を読みあさ
り、台湾人としての意識を強めた。バンド活動のかたわら人権運動や反原発運動にかかわるように
なった。
「本当はひまわり学生運動の参加者に立候補してもらいたい」という。だが、在学中だったり、
被選挙権を持つ23歳に届いていなかったりで難しい。そこで自分が「つなぎ」で出ることにした。
時代力量には「ひまわり」で学生の後見人的な役回りだった法学者、黄国昌(41)が参画。軍の
しごきで死んだ洪仲丘の姉、洪慈庸(31)も加わり、台中から立候補する。
ただ、「第3勢力」は路線の違いからまとまり切れず、党勢は伸び悩む。国民党の過半数割れと
いう目標では最大野党の民進党と一致するが、具体的な選挙協力では不協和音も出ている。地方選
のような盛り上がりにはまだ遠いのが実情だ。=敬称略
(文と写真・鵜飼啓)