台湾には今でも日本語で俳句や川柳をつくり和歌を詠む人々がいる。そのレベ
ルは、宮中歌会に招かれ、菊池寛賞を受賞した『台湾万葉集』の呉建堂氏や、正
岡子規賞を受賞した『台湾俳句歳時記』の黄霊芝氏に象徴されるように、日本に
けっして引けをとらない。むしろ、台湾独自に伸展してきたというべきかもしれ
ない。
去る3月27日から30日にかけて、千葉の東葛川柳会(江畑哲男会長)が訪台し
、台湾川柳会と合同句会を催した。その雰囲気はまるで「日本の句会そのまま」
だったそうで、その夜の懇親会には蔡焜燦氏がテーブル・スピーチをするなど、
たいへん充実した訪問だったようだ。
東葛川柳会は昭和62年(1982年)10月に創立され、現在、会員400人ほどを擁す
る日本川柳会加盟の団体。毎月末の土曜日、千葉県柏市で句会を催し、月刊誌「
ぬかる道」(B5判、50ページ)を発行している。この誌名「ぬかる道」の由来
は、俗諺の下総名物「悪女こんにゃくぬかる道」(こんな句ぬかる道)から借用
しているという。
本会とのご縁は、今年はじめ、本会会員でカメラマンの村田倫也氏の紹介によ
り、江畑哲男会長と大戸和興事務局長が台湾研究フォーラムの定例会に出席し、
本会の柚原事務局長や永山・片木次長らと懇談したことがきっかけだった。その
席で、東葛川柳会として初めての海外吟行句会を台湾で行い、台湾川柳会と合同
句会を開催するとのことをお聞きした。
その後、江畑会長より台湾吟行のことを掲載した「ぬかる道」誌をお送りいた
だいた。江畑会長が毎号執筆されている巻頭言でもこの吟行について書かれてい
るので、いささか長いものの、よく雰囲気が伝わってくるのでその部分をご紹介
したい。 (編集部)
■東葛川柳会
事務局 〒277-0054 柏市南増尾5-1-8 山本義明方 Tel 0471-75-0249
ホームページ http://shinyokan.ne.jp/sk/toukatsu/
■「ぬかる道」(毎月1日発行)購読の申し込み
年間5,000円
郵便振替00100-1-364125 東葛川柳会
巻頭言◆ゲストとホスト
江畑 哲男
(前半の3分の1を省略)
さて本題。
東京から約二一〇〇kmの距離にある台北市。そこを目指して、私たちは三月
二七日(日)朝成田空港に集合した。三月末にしては少し肌寒い気候。しかも春
休みのせいか、空港は大変な混みよう。それでもみんな元気に出発した。
午後、台北着。関西空港からの参加した加島由一さんも合流して十九名(佐竹
明・川崎信彰のお二人は翌日の句会から合流)。台湾の印象記については、参加
者の皆さんそれぞれの感想が誌上に掲載される。今回の海外吟行句会がいかに楽
しく充実していたかを、感じていただけるものと思う。
そこで、私の立場からは総括的なことを書きとめておきたい。
? 台湾を選んで良かった。その親日度・治安の良さもさることながら、漢字文
化の異同に興味と親しみを覚えた。一行が到着して、まず気がついたがトイレの
表示。「洗手間」とある。ほかにも「盥洗室」や「厠所」という表示があった。
上海ではたしか「ヱ生間」とも書かれてあったが(「ヱ」は「衛」の簡体字)、
台湾では見かけなかった。
最高齢参加者の濱川ひでこさんは、縣・國・鹽の旧漢字を懐かしいと言ってお
られたのが印象的である。龍山寺(台北最古の仏教と道教の寺廟)の十二支も面
白かった。十二支の表記がすべて日本とは違っている。すなわち、「鼠・牛・虎
・兎・龍・蛇・馬・羊・猴・鶏・狗・猪」。カレンダーは、大陸と同じ曜日表記
の「星斯一(=月曜日)」。
時間がなくて本屋さんには立ち寄れなかった。個人的には残念な思いであった
が、それでも空港で本を数冊買い求めた。『ドラドラの漢字が出力できない。口
偏に多、目編に拉を充てる)A夢(=ドラえもん)』の漫畫(=マンガ)や、『
霍爾の移動城堡(=ハウルの動く城)』の[上下]通(=アニメ)もあわただし
く買い求めた。カラオケを「[上下]拉OK」と書くのはあまりにも有名だが、
日本語の「の」の便利な使い方が最近知られるようになってきたようだ。何に対
しても、「○○の△△」という言い方をすれば連体修飾格になる。『霍爾の移動
城堡』もその一例であろう。
書き出せばきりがない。「歓迎光臨(=いらっしゃいませ)」の看板をブライ
ダルショップが掲げている。その中に「訂婚」の文字があった。「訂婚」?、植
竹団扇さんと「結婚を訂正するの意味かな?」などとジョークを交わした。念の
ため解説を付す。ブライダルショップだから、婚約の解消・訂正を看板に書いた
りはしない。台湾語で(北京語でも?) 「訂婚」は「婚約」の意味。ちなみに
、婚約解消は「退婚」と言うらしいから、ややこしい。
台湾の歴史ある港町・淡水河はあいにくの雨であった。それでも私たちは、「
情人橋」という粋な名前の橋を恋人同士のように渡った。そう言えば、バレンタ
インデーは、「情人節」と呼ばれていたはずだ。
? その台湾は熱い政治の季節の中にあった。日本でも大きく報道された三月二
六日(土)の集会。台湾「独立」の動きに対しては、今後武力行使も辞さないと
する反国家分裂法の制定に大陸中国は踏み切った。こうした大陸側の強い姿勢に
、台湾側は「反併呑法」のデモで応えたのである。実際、現地、の新聞は紙面を
はみ出さんばかりにこの集会とデモを伝え、ごく普通の台湾人がごく普通に政治
を語る場面に何度も出くわした。
私たちはこうした動きの最中に台湾に降りたったことになる。しかしながら、
台湾の人々は穏やかであった。町の空気も平穏であった。市内中心部は、前日一
〇〇万人のデモで埋め尽くされたような殺気だった様子は微塵も感じられなかっ
た。こうした折りには、えてして革命前夜の雰囲気が漂っていたり、民衆が暴徒
と化したりすることもあるらしいのだが、台湾の町も人もいたって平和であった
。この辺にも台湾人の民度の高さを思わせた。
考えてもみたい。台湾がその政治的自由を獲得したのは、つい最近のことだっ
た。年表風に記そう。
一九四九年 蒋介石の国民党が台湾に逃れ、戒厳令を施行。
一九七五年 蒋介石死去。息子の蒋経国がその地位を継承。
一九八七年 三八年にわたる戒厳令(=世界最長)を解除。
一九八八年 蒋経国総統死去。副総統の李登輝氏が総統の地位を継承。台湾史上
初の本省人が政治を動かす。
一九九六年 台湾初の総統直接選挙で李登輝氏を選出。
二〇〇〇年 総統選挙で民進党の陳永福氏当選。台湾政治史上初の政権交代が実
現。
右のようなことは、旅行のガイドブックにも記されている台湾の歴史である。
私たちはあまりにも台湾を知らなさすぎたのかも知れない。今回の旅行でその点
を反省させられた。
右の戦後史をたどってもお分かりのように、台湾の人々が自由を獲得したのは
、せいぜいここ二〇年弱のこと。戦後の長い時期、台湾で政治を語ることはタブ
ーであった。現地ガイドの侯嘉恩さんも何度かこの点に触れていた。侯さんは五
〇歳。台湾の大学で日本語を学び、今回のツアーのガイドを務めてくれた。解説
は真面目で熱心で教養が深く、文化の団体にふさわしい方に案内していただけて
、幸せであった。
ここで、会の原則的立場を改めて明らかにしておきたい。東葛川柳会は川柳を
楽しもうとする文化の団体である。従って、政治や宗教に対しては一線を画して
きた。個々人の思想信条はむろん自由だが、そのことを会に持ち込んではならな
い。発足以来の変わらぬ原則である。改めて記しておきたい。
その上で申し上げる。自由のないところに自由な文芸は育たない。言論の自由
を獲得して二〇年足らずの台湾。民主化された台湾の今後に注目をしていきたい。
? 台湾を選んで良かった。最大の理由は、何と言っても台湾に川柳会が存在し
たことだ。台湾川柳会の李琢玉会長(ミニ講演をしていただいた蔡焜燦氏は、琢
玉氏のことを「宗匠」と呼んでおられた)にはお世話になった。この場をお借り
して厚く御礼申し上げたい。
台湾側の句会出席者は十五名であった。琢玉氏から参加者お一人お一人の紹介
があった。ユーモアたっぷり、愛情たっぷりのご紹介であった。参加者の年齢は
比較的高いようだったが、職業・経歴・歴史と、それぞれバラエティーに富んで
おられた。人も日本語もじつに生き生きとしていた。
台湾の方々には句会日を変更してお集まりいただいた。句会は第一日曜が通例
。そこを私たちの都合に合わせて下さった。そうしたご苦労は、主宰の琢玉氏は
一言もおっしゃらなかった。日本語に厳しく、政治には辛口の琢玉氏だったのに
、である。そこにゲストを迎える温かい気配りを感じた。
もし、合同句会やミニ講演といった企画がなかったら、台湾吟行は単なる観光
ツアーに終わっていたにちがいない。改めて琢玉氏と台湾川柳会の皆さまに御礼
を述べさせていただきたい。どうもありがとうございました。
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