似て非なるもの  傳田 晴久

【台湾通信:2020年8月30日】

◆はじめに

 武漢ウイルス禍で休会となった友愛会の教材(自宅学習用)を作成していて、たまたま「似而非」(えせ)という語を取り上げましたが、最近「似て非なる」ものに出くわしました。

 前号で記しましたが、病院の入り口で台湾と中国を一緒にされた経験がありましたが、それも一つ。また、米国FBI長官が中国の経済スパイ活動を告発する講演の中で、「中国の脅威」とは、「中国国民」をさすのではなく、「中国政府と中国共産党」を意味すると、述べ(「正論」令和2年9月号p.51)、ポンペオ長官もある演説で中国(人)と中国共産党は違うと述べていました。

 台湾と中国、台湾人と中国人、中華民国と中華人民共和国、これらは似ているように見えるところもありますが、まったく異なる面が多々あり、「似て非なるもの」です。

◆私も間違っていました

 以前、この台湾通信でも触れたかと思いますが、私が初めて台湾の土を踏んだ時(1979年)、私は台湾人を中国人と思っておりました。当時、私は経営コンサルタントでしたが、顧客である日系の台湾企業を訪問し、挨拶をしたのですが、「私はあなた方中国人とともに、ご一緒に仕事ができることを楽しみにしております」とやってしまいました。

 さすがに台湾の皆さん、妙な顔をしておられましたが、某K国の方と違い爆発的に怒ることはなく、大いに救われ、台湾の方々は本当にやさしいと思いました。後に誤りを知った私は皆様に、丁重にお詫びいたしました。

◆台湾人のアイデンティティ

 台湾に在住している人々は自らを台湾人と認識しているのか、自分は中国人と認識しているのか、いわゆる台湾人のアイデンティティについての調査結果があります。

 2020年7月3日に公表された調査結果は、国立政治大学選挙研究センターが、台湾(離島の金門、馬祖を除く)に居住する20歳以上の男女を対象に電話で実施したもので、両岸(台湾と中国)関係についての考え方や支持政党、アイデンティティーの3項目について意見を聴取し、5767人から回答を得たそうですが、自分を「台湾人」と認識する人が67%に上り、調査を開始した1992年以来最高となった。

 一方で、「中国人」と答えた人はわずか2.4%、「台湾人でもあり中国人でもある」とした人は27.5%で、いずれも過去最低だった。同センターの資料によれば、92年初回調査の数値は「台湾人」(17.6%)、「台湾人で中国人」(46.4%)、「中国人」(25.5%)であったが、その後「台湾人」は増加を続け、2007年を境に「台湾人で中国人」を上回るようになった(中央社フォーカス台湾)。

◆台湾、中国の民族構成

 一口に台湾人といっても、台湾は多民族国家であり、いろいろな分類法がありますが、次のようなデータがあります。

 台湾の人口は、2,354万人(2016年末)ですが、民族構成は先ず、大きく本省人と外省人に分け、前者は日本敗戦以前に台湾に在住していた原住民と漢民族系のホーロー人、客家人と呼ばれる人々で、後者は戦後国共内戦に敗れて大陸から台湾に逃げ込んできた国民党一派です。

 人口比はおよそ原住民1.4%、本省人という漢民族87.8%(ホーロー人76.9%、客家人10.9%)、外省人という漢民族10%といったところです。ホーロー人というのは大陸の福建省出身者で●南(ビンナン)語を話すので●南人とも言われます。客家人は、広東省出身者で、客家語を話します。本省人、外省人の漢民族を合わせますと、97.8%になりますので、台湾に在住する人々はほとんどが漢民族ということになります。(●=門構えに虫)

 一方、大陸の中国(中華人民共和国)の人口は14億5千万人(2019年)といわれ、92%を占める漢民族と、中華人民共和国政府が規定した55の少数民族で構成されています。少数民族とは言え、最大のチワン族は1,618万人、第2位の満州族が1,068万人、500万人以上の民族が回族、モンゴル族、チベット族など7族、100〜500万人の民族が9民族、1〜100万人の民族が30民族、1万人以下の民族が7族です。この統計には台湾の高山族が4000人として入れられています(2000年中国統計年鑑)。

 台湾、中華人民共和国の民族構成が、ともに9割以上が漢民族ということであれば、両者は同一とみなすのは無理からぬところでしょうか。

◆DNA鑑定の結果

 アイデンティティ調査の結果、意識の上では「自分は台湾人であって、中国人ではない」ということで、また、台湾の人口の98%が漢民族であるということですが、次のようなデータもあります。

 馬偕病院の輸血医学研究室主任である林媽利さんの「非先住民台湾人の遺伝子構造」の研究によると、「台湾では、純粋な先住民族は1.5%しか住んでいないが、実際には85%の●南人と客家人は原住民の血統(高山族、平埔族、ならびにフィリピン、インドネシアなど、その他の東南アジアの島々を含む)を有している」ということです。(●=門構えに文)

 すなわち、台湾人の85%の人々は、平埔族の父母の、福建省、広東省出身の父母の、高山族の父母の、そして少数の外国人の遺伝子によって組み立てられた台湾原住民の血統を持っている。しかも、90%以上が中国の南東海岸の「越(ベトナム)族」の血統を持っています。血縁関係ツリー分析から、「越族」は純粋な北漢民族の子孫ではなく、東南アジアに近いということです(自由時報電子版 2007年11月18日)。

◆中国(人)と中共とは違う

 「似而非」、似て非なるもののもう一つ、中国(人)と中国共産党の話。

 冒頭に述べた米国FBI長官は、「米国は、中国の経済スパイ活動によって、情報、知的財産権を奪われ、経済安全保障、国家安全保障への脅威にさらされているが、ここでいう中国の脅威とは、中国国民でなく、中国政府と中国共産党を意味する」と述べています。

 中国人は悪くなく、悪いのは中国政府、中国共産党であるということですが、果たしてそうでしょうか?

 最近、話題になっている知的財産権、情報窃取の例としては、華為(ファーウェイ)事件、孔子学院、1000人計画などがあります。ソ連もそうでしたが、ソ連の航空機の姿かたちが米国のそれとそっくりだったのを記憶していますが、中国の戦闘機や偵察機が米軍のそれと瓜二つであるからくりがわかりました。

 人権侵害に関わる出来事としては、ウイグル、チベットでの行い、法輪功に対する行い、臓器売買、少し古くは文化大革命時の人民裁判と処刑者の人肉を奪い合って食らう話を思い出します。

 これらは中国人が行った事柄でしょうか、それとも中国政府がやらせたことでしょうか、あるいは中国共産党の指導によるものでしょうか。

 台湾で発生した228事件、228紀念館の展示、あるいは228事件を伝える文献を見れば虐殺のすさまじさがわかります。これは中華民国政府、中国国民党の軍が起こしたもので、中国人が起こしたものではないといえるのでしょうか。

 ひとくちに中国人といっても、十数億の人々がいるわけで、全員が知的財産権を盗んでいるわけではありますまい。中には盗人もいるでしょうし、臓器売買に携わっている人もいるでしょうが、多くは善良な民ではないかと思いたいものです。

 スパイ行為、情報窃取などを大々的に行うということは個人レベルでできることではなく、政府あるいは党の方針、計画に基づいて行われていることでしょう。

 むかし、「南京虐殺事件を検証する」という学識者によるツアーに参加したことがありましたが、中国人のガイドの説明をみんなで徹底的に論破したところ、彼は最後にこう言いました。「私の説明はすべて政府が決めたことです。政府は、十分調べた上での結論ですから、嘘を言うはずがありません」ということでした。政府の方針、計画、命令に従う人もいるのです。半面、「上に政策あり、下に対策あり」という言葉もあり、政府や党に従わない人もいます。

◆おわりに

 台湾を中国と間違えられ、入院を拒否され、台湾(人)と中国(人)は違うと論争しました。これは認めてもらえましたが、中国人は脅威でなく、脅威なのは中国政府であり、中国共産党であるというのは半分認めますが、中国人は本当に脅威ではなのか、疑問が残ります。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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