中国軍の演習 台湾への威圧で緊張高めるな

今年の世界保健機関の年次総会(WHA)は5月21日からスイスのジュネーブで開催される。昨年に続いて台湾に招待状が届いていないことを受け、昨日(4月23日)、米国在台湾協会(AIT)台北事務所のキン・モイ所長は「我々はWHO年次総会に台湾がオブザーバー参加することを支持する」と表明した。

 日本も、超党派の国会議員でつくる「日華議員懇談会」(古屋圭司会長)は3月22日に台湾のWHAへのオブザーバー参加支持を決議しているものの、招待状が届けられないことが予想される。

 中国は台湾孤立化工作の一環として「世界保健機関(WHO)など国際機関にも、台湾のオブザーバー参加を認めないよう圧力をかけている」と指摘したのは、昨日の読売新聞「社説」だ。その通りだろう。

 読売の「社説」は、中国の人民解放軍が4月18日に福建省泉州市沿岸部の台湾海峡で実施した実弾射撃演習したことや、21日の空母「遼寧」を含む空母編隊が台湾南東沖で軍事演習したことについて「蔡英文政権と、台湾を支援するトランプ米政権を牽制けんせいする狙いは明らかだ」として「地域に緊張をもたらす振る舞いは自制すべき」と強調している。

 そして「中台の緊張は、日本の安全保障にも直結する。政府は情勢安定に向けた働きかけが欠かせない」と結んでいる。

 台湾は中国の外洋への展開を扼する絶好の場所に位置しており、日米同盟にとっての戦略的価値は計り知れないほど大きい。台湾が日本の生命線と称される所以だ。

 では、日本政府による「情勢安定に向けた働きかけ」とは具体的になにを指しているのだろうか。

 その具体案の一つが、本会がこのほど発表した「政策提言」だ。国際・地域テロ、海賊、捜索・救難、大規模自然災害など、通常の軍事演習ではなく、「非伝統的」海洋安全保障における共同訓練を米国と日本が主催し、そこに台湾を参加させるのである。

 台湾が台湾海峡を含む西太平洋地域の平和と安定に寄与できる機会を拡大することは、世界の安全保障に貢献することに他ならず、日本及び米国の国益に合致していることを疑う余地はない。

 また、日本には台湾を対象とする法律は1つもないが、本会が2013年に政策提言として発表した台湾との情報交換を主とする「日台関係基本法」の制定、いわゆる日本版・台湾関係法を制定することも重要だ。

 この日台関係基本法が制定されれば、台湾がWHOやその年次総会のWHAに参加できず、医療情報に事欠く事態となれば日本から医療情報を提供できるようになる。また中国からやってくる黄砂やPM2・5など気象情報の交換もできるようになる。これは、台湾の国益にも日本の国益にも合致している。

 読売「社説」は政府による「情勢安定に向けた働きかけ」について具体的に示していないものの、その情勢判断は的確だ。下記にその全文を紹介したい。

 なお、台湾軍は来る6月4日から5日間の日程で中国軍の台湾侵攻を想定した「漢光34号演習」を実施するという。

 すでに米国はオバマ大統領時代の2016年12月、米台間の軍の現役将官や国防総省の次官級以上の交流プログラム実行を容認する「2017国防授権法」を成立させている。米国はこの「漢光34号演習」にどのような人材を派遣してくるのか。

 また、この「漢光34号演習」が終わった直後の6月12日には、台北市内の内湖に新たに開設される米国在台湾協会(AIT)台北事務所のオープニングセレモニーが行われる予定で、このセレモニーに米国は誰を派遣してくるのか。

 いずれもトランプ政権の台湾との関係強化策がどのレベルなのかを窺い知る重要なポイントかと思われる。期待しつつ見守りたい。

————————————————————————————-中国軍の演習 台湾への威圧で緊張高めるな【読売新聞「社説」:2018年4月23日】

 中国が圧倒的な軍事力を背景に、台湾を威圧する動きを強めている。地域に緊張をもたらす振る舞いは自制すべきだ。

 中国陸軍が台湾対岸の福建省沿海で、武装ヘリコプターなどによる実弾射撃訓練を実施した。空軍も、台湾付近で主力爆撃機による飛行訓練を行った。

 中国側は、軍事演習の目的は「祖国の主権と領土の一体性を守る」ためだとしている。独立志向が強い台湾の蔡英文政権と、台湾を支援するトランプ米政権を牽制けんせいする狙いは明らかだ。

 蔡政権は、台湾は中国の一部だとする「一つの中国」原則を認めていない。中国の習近平政権は、蔡政権との当局間対話を拒否し、対決姿勢を露あらわにしている。

 中国は、1996年の台湾初の総統直接選挙の際、独立を容認しない決意と能力を示すため、台湾近海でミサイル演習を実施した。米国は2隻の空母を派遣し、中国の挑発を抑えた。

 留意すべきは、中国の軍事力が当時と比べて飛躍的に増強されていることだ。軍事費は公表分だけで台湾の約15倍に及ぶ。

 中台の軍事バランスが中国側に有利に傾く中、米国は台湾防衛への関与を続ける必要がある。

 蔡政権が進める潜水艦の自主建造計画に対し、トランプ政権が米企業の参加を許可したのは、台湾支援の姿勢の表れと言えよう。

 3月には、米国と台湾の高官の相互往来を解禁する「台湾旅行法」がトランプ大統領の署名によって成立した。79年の米台断交後、中国に配慮して控えてきたトップの訪問の道が開かれた。

 中国が台湾と外交のある国に断交を迫り、台湾を孤立させる工作を加速させていることに対抗する側面もあろう。中国は世界保健機関(WHO)など国際機関にも、台湾のオブザーバー参加を認めないよう圧力をかけている。

 トランプ氏が大統領就任前から、慣例を破って蔡総統と直接電話で会談して以来、中国は米国への反発を強めてきた。

 習国家主席は3月の全国人民代表大会で「祖国分裂の活動や企たくらみは全て失敗に終わり、人民の責めと歴史の懲罰を受ける」と述べ、蔡政権と米政府に警告を発した。台湾の「武力統一」も視野に入れているとされる。

 台湾を巡り、米中が対立を深め、地域に悪影響を及ぼす事態があってはならない。

 中台の緊張は、日本の安全保障にも直結する。政府は情勢安定に向けた働きかけが欠かせない。


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