中国語を支える日本語−外来語の1割が日本からの“輸入”

漢字の国と言われる中国の言葉には、実は日本語から取り入れた言葉が少なくないこ
とは知る人ぞ知る話。有名なのは国名「中華人民共和国」の「人民」も「共和国」も日
本語からの外来語で、オリジナルは「中華」だけという話だ。

 日本は近代化の過程で外国語を邦訳することで、政治や経済、科学や哲学などの知識
を吸収していった。「西洋に追いつき追い越せ」が合言葉であり、しかしながら「和魂
洋才」で立ち向かったことは、例えばそれはフランスに留学した中江兆民が小学校に入
って学んだことや、西洋嫌いの夏目漱石がイギリスの下宿で英語と格闘していた物語を
思い出すだけで十分であり、それはまた司馬遼太郎の『坂の上の雲』に象徴される。さ
らに言えば、オランダ語を学んでいたものの英語の必要性を痛感して転換、洋学を普及
した福澤諭吉は、議会制度や選挙制度、病院や銀行などのシステムや会計学まで英書か
ら翻訳して紹介している。「貸方・借方」の語は福澤が翻訳したと言われている。

 本会会員で台湾出身の劉美香さんは中国語の講師を務めだしてから、これら日本人の
先達が邦訳した外来語が中国語となって定着していることを知る。そして「日本の皆さ
ん、中国語にはいっぱい日本語が入っていることを知っていますか? 日本人はもっと
自信を持ってください」と、会う人ごとに訴え、新聞にも投稿した。

 それが、8月20日付の「産経新聞」で紹介された。

 この記事には「中国語になった日本語」という表が付され、体操、体育、記録、代表、
優勢、劣勢、入口、出口、大型、小型、市場、組合、絶対、相対、直接、間接、左翼、
右翼など約70語が紹介されている。この表は、下記のアドレスからご覧ください。
                                   (編集部)

■中国語になった日本語(産経新聞)
 http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080820/acd0808200759005-n1.htm


中国語を支える日本語−外来語の1割が日本からの“輸入”
【8月20日 産経新聞「明解要解」】

 「中華人民共和国 共産党一党独裁政権 高級幹部指導社会主義市場経済−という中
国語は中華以外すべて日本製(語)なのをご存じですか」−。東京都台東区の中国語講
師、劉美香さん(51)からこんなお便りをいただいた。産経新聞の「朝の詩」と「産経
抄」を教材に毎日、音読と書き写しで日本語を磨くという劉さん、「明治時代の日本人
が、欧米の学問を漢字で翻訳してくれたから、当時の中国は世界を理解できた。平仮名
や片仮名に翻訳されていたら今ごろ、中国はどうなっていたでしょうね」。
                              (特集部 押田雅治)

 中国語には約1万語の外来語があり、その大半が「仏陀(ぶっだ)」や「菩薩(ぼさ
つ)」「葡萄(ぶどう)」「琵琶」などインドやイランなど、西域から入った言葉とい
われている。

 その残り1割、1000語余が清朝末期以降、日本から取り入れた言葉で、社会科学や自
然科学などの学術用語の約7割が、英語やドイツ語などから翻訳した和製漢語といわれ
ている(『現代漢語中的日語“外来語”問題』・王彬彬著)。

 日本語導入のきっかけは、欧米列強によって亡国の危機感に襲われていた清朝の志士
たちの「日本に学べ」の精神だった。

 王氏は「われわれが使っている西洋の概念は基本的に日本人がわれわれに代わって翻
訳してくれたものだ。中国と西洋の間には、永遠に日本が横たわっている」(同著)と
指摘。日中戦争が始まる1937年までの40年間に、留学生だけでも延べ6万人が来日。明
治維新を経て近代化を急ぐ日本で西欧を学び、そして和製漢語を取り入れたのである。

 本来、漢字だけで成立する中国語が外来語を取り入れる場合、「電視機」=テレビや
「電氷箱」=冷蔵庫などの意訳型と、「可口可楽」=コカ・コーラなど音訳型の2つに
大別される。

 当時の日本が欧州の言葉を日本語に翻訳する場合はほとんどが意訳だったため、和製
漢語でも、漢字本来の意味を踏まえて翻訳した「哲学」や「宗教」などは中国人にも理
解しやすかったようだ。

 ただ、中には「経済」のように、本来の意味と異なり、混乱した言葉もあった。元に
なった中国の古語「経世済民」は、「世の中を治め、人民の苦しみを救う」という政治
を意味する言葉だったため、中国人が考えた「計学」や「資生学」などと共存した時期
もあったという。

 劉さんは「不倫や電話詐欺など“悪い言葉”や癌(がん)などの医学用語も含め、日
本語はいまなお、中国語に大きな影響を与えています。漢字は中国で生まれましたが、
その漢字を生かした和製漢語のおかげで中国は世界を知り、学ぶことができたのです。
この事実を多くの日本、そして中国の人に知ってもらいたい」と話している。


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