台湾問題や日台交流に関心を持つ人々に読み継がれている本と言えば、何と言ってもいの一番に挙げられるのは司馬遼太郎氏の『台湾紀行』(朝日新聞社、1994年11月)だろう。李登輝元総統との対談「場所の悲哀」も収められている。1997年には文庫本となり、未だに読み継がれる名著の誉れ高い本だ。
次に挙げられるのは、恐らく蔡焜燦氏の『台湾人と日本精神』(小学館文庫、2001年9月)だろう。
日本李登輝友の会と蔡焜燦氏のご縁は深い。台湾で2004年10月から実施してきた「日本李登輝学校台湾研修団」では、李登輝元総統とともに毎回、お話しいただいた。
昨日の産経新聞が「ロングセラーを読む」で本書を取り上げ「臨場感あふれる個人史と台湾近現代史が交差した第一級の記録」「日本にとって台湾の重要性をこれほど端的に記した本はそうない」と讃えている。同感だ。
日本李登輝友の会では、司馬遼太郎著『台湾紀行』、蔡焜燦著『台湾人と日本精神』、李登輝著『台湾の主張』(PHP研究所 単行本は1999年6月刊、文庫本は2021年2月刊)を入会者にはお勧めしている。この3冊は、何度読んでも新しい発見がある。名著とされる所以だ。いずれも文庫版となっているので求めやすい。
—————————————————————————————–ロングセラーを読む 台湾「愛日家」の苦言は重い 『台湾人と日本精神』蔡焜燦著【産経新聞:2023年8月13日】
もうすぐ78回目の終戦の日を迎える。
昭和20年8月15日、玉音放送で敗戦を知った日本国民は、無念と悔しさで虚脱感に陥っていた。日清戦争終結後に日本領となった台湾出身の“日本兵”も同様に悔しがったが、“祖国”のために志願した彼らの胸中には「自分たちは敗戦国民なのか、(中華民国国民としての)戦勝国民なのか」という葛藤もくすぶっていた。
そんな赤裸々な心の機微を記すのが、今回紹介する『台湾人と日本精神』だ。著者は日本統治時代に生まれた台湾人の実業家、蔡焜燦(さい・こんさん)氏(1927〜2017年)。司馬遼太郎さんの著名な紀行文集『街道をゆく 台湾紀行』の案内役、老台北(ラオタイペイ)としても知られる御仁だ。この自叙伝には、入校した岐阜陸軍航空整備学校奈良教育隊での思い出やそこでの終戦時の台湾出身者と朝鮮出身者の態度の相違、戦前の日本統治と戦後の国民党統治の比較、台湾有事に対する日本への苦言などが率直な筆致でつづられる。臨場感あふれる個人史と台湾近現代史が交差した第一級の記録といえよう。
親日家を超えて「愛日家」を自称する著者だが、そのまなざしは公平だ。日本統治時代の衛生、殖産、水利事業などの功績がその後の台湾近代化の礎になったと評価し、とりわけ、犠牲的精神など「公」の精神を基調とした日本の道徳教育、それを現場で浸透させた日本人教員たちの献身的な努力を称賛する。内地(日本)人による外地(台湾)人への差別にも言及するが、友人に陸軍志願理由を明かした際の著者の言葉が印象的だ。
「チャンコロといって俺をバカにする内地人は嫌いだ。しかし俺は日本という国が好きだ。天皇陛下が好きだから、俺、立派に戦ってくる!」
愛日家ならではの注文も厳しい。特に対中外交での日本側の遠慮や弱腰姿勢は「軟土深掘」(土が軟らかければ、さらに深く掘る)という姿勢の中国側につけ入る隙を与えるだけで、結果として術中にはまり日本を破滅に導くと断言。その上で、日本経済の大動脈である台湾周辺海峡の制海権を中国が握れば、「中国の出方ひとつで日本は干上がってしまう」と警鐘を乱打する。危機は継続したままだ。
本書は平成12年に別の出版社から刊行されたが、「台湾での外省人(大陸系)と本省人(台湾人)の対立を激化させる」として同社が13年に販売中止を決定。その後、本書の復刊を望む声が相次ぎ、同年に小学館文庫からの刊行が決まった。27年には戦後70年を機に新装版も発売された。日本にとって台湾の重要性をこれほど端的に記した本はそうない。長く読み継がれるべき一冊だ。(小学館文庫・748円)
評・花房壮(文化部)
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