レポート「第3回台湾建国烈士 鄭南榕先生を偲ぶ会」[本会理事 多田 恵]

4月1日、東京・文京区の文京区民センターにおいて鄭南榕顕彰会主催の「第3回台湾建
国烈士 鄭南榕先生を偲ぶ会」が行われ、約150名が参加した。今回は未亡人である葉菊
蘭(よう・きくらん)・元副首相、前高雄市代理市長も初めて参加して斎行された。

 鄭南榕(てい・なんよう)先生は戒厳令下の台湾で、言論の自由、政党の結成、228事
件の真相究明、台湾独立を求めた民主運動の指導者だ。41歳であった1988年末、自身が発
行する「自由時代」誌に許世楷(コー・セーカイ)・台湾独立建国連盟総本部主席(現・
台湾駐日大使)の「台湾共和国憲法草案」を掲載したことで、翌年、反乱罪の容疑で検察
より出頭を求められた。これを拒んで籠城した氏は「国民党は、私を逮捕できない。逮捕
できるとすれば、それは私の屍だ」と声明し、4月7日、逮捕に向かった警官隊に取り囲
まれるなか、自ら火を放ち、妻と幼い娘を残して生命を絶った。

 台湾独立の闘士である鄭南榕先生を記念する集会は、台湾をはじめ世界中の台湾人によ
って行われているが、「偲ぶ会」は日本人が主体となって行っている。顕彰会の発起団体
は、日台交流教育会、日本李登輝友の会、台湾研究フォーラムで、会長を宗像隆幸氏が務
めている。第3回目となる「偲ぶ会」の司会は早川友久氏・日本李登輝友の会理事が務め
た。

■宗像隆幸・鄭南榕顕彰会会長の開会挨拶

 宗像会長は開会の辞で、鄭南榕烈士を民主自由国家建設のためのオピニオンリーダーで
あるだけでなく卓越したオーガナイザーであったと振り返った。当時、蒋経国時代の末期
であり、獄中闘争という選択肢もあったが、鄭烈士は敢えて自決を選んだ。人間が生きて
いてはできないことをやるためだったと指摘した(詳しくは『台湾青年』343号を参照)。

 また、鄭烈士がやり残したことで今の台湾にとって最も大切なのは台湾憲法制定で、「
中華民国憲法」の台湾での施行は違法であり、民進党がその規定に従って「改憲」しよう
としているのは危険だと警告した。そして最後に、台湾憲法の実現のため、葉菊蘭さんに
頑張って欲しいと結んだ。

■邱晃泉・鄭南榕基金会理事長の来賓挨拶

 台湾から出席した邱晃泉(きゅう・こうせん)・鄭南榕基金会理事長は、今年は228事件
60周年、鄭先生が228和平日促進運動を起こして20年の節目であり、桜と富士の地で、日本
の人々と共に鄭南榕先生を偲ぶ特別な日だと語った。

 また鄭先生の自決は、自由と知識人としての気概を守るために自らを犠牲にしたもので、
新国家建設のために必要なことだったと指摘した。7日の台湾での記念会では、鄭先生が
好きだった「舞女」、また鄭先生を記念して歌い継がれる「自由の歌」も演奏するので参
加して欲しいと語った。

■葉菊蘭・鄭南榕烈士夫人の挨拶

 葉菊蘭夫人は「鄭南榕のことを日本で記念してくださる皆さんの気持ちは忘れません」
と感謝の言葉を述べた。

 亡くなってからこれまでの18年間の変化は大きく、当時8歳だった娘も今は26歳でアメ
リカで学んでいる。健康で父親に似ている。台湾も独裁から百パーセントの民主自由の国
になった。鄭南榕は天国で喜んでいると同時に嘆いていることもあるだろう。それは台湾
が正常な国でないことだ。台湾には政治・宗教上の自由はあるが、国際社会での自由がな
い。中国は1000基のミサイルを台湾に向けており、台湾の総統・官僚は国際社会で自由な
活動ができない。

 「偲ぶ会」開催を家族として感謝するとともに、台湾人の一人として、台湾の国際社会
での自由、中国の脅威からの解放のために協力をお願いしたい、日本が台湾を承認し、台
湾の人権が中国に脅かされないようにしてほしい、と訴えた。

■祭文奏上と参列者献花

 続いて、柚原正敬・日本李登輝友の会事務局長がこみ上げる思いとともに祭文を奏上し、
参加者の気持ちを鄭先生の思いと一つにした。その後、参加者全員が献花して、それぞれ
鄭先生の御霊に敬意を表し、決意を報告した。

■李敏勇氏による記念講演

 記念講演は、鄭先生と同い年の著名な詩人で、鄭南榕基金会の初代理事長を務めた李敏
勇(り・びんゆう)氏が「自由への道、そして台湾の魂」という題で行った。

 講演の中で「冬の夜」「忘れられた歴史」二首を自ら朗読した。文学的表現がちりばめ
られた台湾語から日本語への通訳は林建良(りん・けんりょう)・日本李登輝友の会常務
理事が行った。

 1947年に生まれた私たちは、228の英霊の生まれ変わりと言われている。鄭南榕は、当局
による停刊処分への対策として雑誌の発行許可をいくつも取っていたが、どれも誌名に「
自由」をつけていた。美麗島事件(’79年)が政治運動だとすれば、228和平日促進運動は
文化運動であった。鄭南榕の死は積極的なものだった。鄭南榕は228事件を掘り起こし、台
湾人に直視するように示した。自由には独立・民主化が含まれる。1980年代以降、台湾の
自由への流れは阻止できない。これは、政治運動だけでなく文化運動の力で実現された。
自由人の共同体には人格が重要だ。自由で美しい国家を目指したい。

 私は戦後の台湾、日本、韓国の詩人を比較したことがある。日台は互いに理解しあえる
国同士だ。文化の多様性を持っている点で共通しているが、日本のそれは主体性をもった
多様性であり、台湾には主体性が欠けている。主体性がなければ染められてしまう。戦前
、台湾が触れた日本文化の中には西欧文明もあり、台湾はそれを受け容れた。戦後の中国
文化には文明が欠けている。李登輝前総統と陳水扁総統がそれぞれを代表している。

 今、台湾は「台湾時代」を求め、主体性ある時代への転換をはかるべき。思想と哲学が
必要だ。日本と同じように主体性を持ちたい。台湾の再建は政治だけでなく、文化の課題
でもある。昔、台湾を象徴するものといえば、サツマイモの花と水牛だった。今は野百合
、鯨、五色鳥などが出てきている。台湾での鄭南榕の記念会は赤いバラをシンボルにして
いる。これらの展開は、行動する哲学家である鄭南榕の死によって目覚めた。自由がなけ
れば生きていても意義がない、というのが鄭南榕の考えだ。

 最近の研究では、鄭南榕は、死を強いられた「烈士」ではなく、積極的に死を選んだ「
聖者」とされている。あの時代、収監されていれば、今、政治家になっていただろう。鄭
南榕は権力を求めず、自由を求めた。自由には積極的な面がある。消極的な自由では足り
ない。自由は責任を伴う。今、台湾は、権利と責任を伴う自由を創造する過程にある。

 この台湾の歩みについて日本は責任がある。植民地統治のことではない。台湾人が日本
に対して特別な思いを持っているからだ。台湾は最も日本と友になりたい。日本の台湾へ
の愛情も、どの国にもまさっている。外交関係こそないが、政治と文化は必ずしも一致し
ているわけではない。日本が台湾の独立を支持してくれることを台湾人は期待している。

 私たちは中国教育を受けた時代で、中国の体制に疑問を持った。鄭は哲学から私は文化
から自由人の共同体を求めている。自由人の共同体である新しい台湾として日本と友好を
深めたい。228の生まれ変わりとして責任がある。台湾正常化を進め、平和を実現していき
たい。

■小田村四郎・日本李登輝友の会会長の閉会の挨拶

 閉会の挨拶に立った小田村四郎・日本李登輝友の会会長は、三島由紀夫が「失われた主
体性を回復せよ」と叫んで自刃したこと、また「生命尊重以上の価値の所在を諸君の目に
見せてやる」、「憲法に体をぶつけて死ぬ奴はいないのか」と語っていることが、李敏勇
氏の問題意識と重なっていると指摘した。

 また、憲法を制定してこそ、葉夫人の求めた国際社会での活動も自由になる。中国は専
制体制であり、日本の運命共同体は台湾以外にはない。台湾と自由共同体をつくっていき
たい、と決意を語り、会場から大きな拍手が沸きあがった。

■懇親会

 懇親会の開会にあたり草開省三・日台交流教育会専務理事は、鄭南榕先生から出発すれ
ば台湾は全アジアに影響を及ぼすことができるだろう。教科書で鄭南榕先生について教え
るべきだと語った。また、「中国は日台に新しい形の奴隷制度を行っている」という李登
輝前総統の言葉を紹介した。

 四国から駆けつけた許世楷大使は、台湾は、責任を伴う「百パーセントの言論の自由」
に向かっている。その思想は、これからも台湾の政局をリードしていくだろう、と語った。

 また、高雄市と東京・八王子市との友好交流協定に関わった萩生田光一衆院議員も台湾
重視の姿勢を表明した。

 献杯の挨拶に立った林建良・日本李登輝友の会常務理事は「鄭南榕先生の遺志を受け継
ぎ、自由民主の国を建設し、完全なる独立国家にする」と、参加者の気持ちを代弁した。

 懇親会では、ソプラノ歌手の森敬恵(もり・としえ)さんが「千の風になって」を披露
した。黄文雄・台湾独立建国連盟日本本部委員長は、回を重ねるごとに参加者が増えてい
ると語った。最後に永山英樹・台湾研究フォーラム会長は、鄭南榕先生こそ台湾魂。台湾
は日本の味方である不沈空母。私たちは利用しようとしているのではなく、尊敬できる友
邦として一緒にやって行きたいとし、「日台万歳」三唱で会を締めくくった。


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