リーダーの選び方、そして、ふと、感じたこと [衆議院議員 西村 眞悟]

【9月20日 西村真悟の時事通信】

 明治天皇は、日露戦争当時、極寒の満州で戦う将兵を思い、自ら暖房をとらずに冬を
過ごされたという。

 今、灼熱のインド洋の甲板上において、アメリカやNATO諸国の艦船に補給をして
いる自衛隊員を思う政治家は何人いるのだろうか。さらに、自ら冷房された部屋にいる
ことをすまないと思う人が何人いるか。

 これは、テロ特措法延長議論の以前にあることである。

 ことのほかしつこい残暑と感じれば感じるほど、インド洋における隊員のご苦労を思
う。

 インド洋における甲板上の温度は、五十度を超え、やけどをするほどだという。

 自民党の総裁選挙をみていると奇妙だ。一年前は、安倍さんに自民党議員の大多数が
流れた。今は、福田さんに大多数が流れている。この安倍さんと福田さんは、政策的に
かなり異なる。そして、一年前と今と、同じ議員が昨年は安倍、今は福田となびいてい
る。

 これを「右往左往」という。

 リーダーを選ぶに、多数を獲得した者をもってする。

 今の我々日本人は、これが、自明のこととおもっている。果たして、自明のことであ
ろうか。

 以前、明治生まれの船乗りからきいた。

 船の中で、船長を決めねばならないときがある。その時船乗り全員で誰がいいか投票
する。その時、大多数の支持を得た者、半数の支持を得た者、そして、極めて少数の支
持しか得られなかった者、この三者から誰を船長に選ぶことになるか。

 答は、半数の支持を得た者を船長にして、大多数の支持を得た者は船長にしないのだ
という。大多数の支持を得た者は、人柄はいいが、時化を乗り切る決断力に乏しいとみ
るからだ。つまり、陸の平穏なところならともかく、時化の海では、半数が支持し半数
が憎んでいるほどの者の方が船長にふさわしいというのが船乗りの経験則だった。

 この船乗りの昔からの経験則から言えば、去年も今年も、裏で見え隠れする派閥のボ
スの操作による「右往左往」の結果に従うよりも、いつも少数に甘んじている麻生さん
が、去年も今も船長にはふさわしいのではないか。

 のどかな陸の村長ではなく、時化の海の船長を選ぶのならば、という話であるが。

 また、次のフランスの逸話を知ったとき、この日本の船乗りのリーダー選びを連想し
た。後のドゴール将軍が、フランス陸軍士官学校生徒の時の話である。

 士官学校では、生徒が一定の課程を修了すれば、伍長か軍曹の階級を与えるという。
つまり、少尉という将校の一歩手前の階級を与える。しかし、ドゴール生徒の指導教官
は、彼にその階級を与えなかった。

 士官学校の校長が、ドゴールの指導教官を呼び出して、何故、ドゴールだけ昇級させ
ないのかと質問した。すると、教官は、「大将にしかなれないやつを伍長にしてどうす
るんですか」と答えたという。

 今、自民党というより、我が国は、伍長を選んでいるのか大将を選んでいるのか。こ
れが明確ではない。

 再びインド洋について。

 我々はもう少し、空間的にも歴史的にも視野を広げなければならない。

 安倍総理がこの夏、インドネシアを抜けてインドを訪問した。このことを私は高く評
価する。この歴訪で地球温暖化が話し合われたと言うが、これはどちらかといえば官僚
の領域に納まる話である。

 我が国総理の歴訪の意義は、国家戦略的観点からみるべきである。

 そうすれば、この地域を意識することは、日本の生命線を意識することに他ならない
ことが分かる。インドネシアからインドへ抜ける海域、これこそ我が国の生命線である。

 従って、この海域にある国々を歴訪することは我が国総理大臣の当然の着眼でなけれ
ばならない。歴代総理に、この問題意識が乏しかった中で、安倍総理がそれを為したこ
とは高い評価に値する。

 政府専用機で、我が国の総理大臣が行くだけでいい。それだけで、他の如何なる国の
首脳も得られない効果がある。効果抜群だ。

 その理由は歴史にある。昭和十七年(一九四二年)に敢行された我が国の「南方作
戦」は、まさにこの地域を抜けてインドに達した。そして、この地域に数百年居座って
植民地としていたイギリス、オランダ、フランスを追い払った。日本軍の植民地支配者
との戦いが、この地域の独立の切っ掛けとなった。

 では何故、「南方作戦」が発動されたのか。それは、この地域が我が国の生命線だっ
たからだ。そして、今も生命線である。

 そこで、今インド洋に我が国の自衛艦がいて洋上補給活動をしている。このことは、
我が国の自衛艦が我が国からアセアンの海を経て、インドネシアからインド洋に抜ける
海をいつも航行しているということを意味する。

 このプレゼンスの意義を理解せずして、インド洋の洋上補給活動の是非を論ずるなか
れである。

 最近、海上自衛隊出身の恵竜之介さんが『敵兵を救助せよ』という本を書かれたが、
その中で、イギリスに練習航海した恵さんにイギリス海軍士官が次のように語った話が
でてくる。

 「恵少尉、我々は日本海軍を尊敬している。ドイツ海軍は戦後軍艦旗を変えた。しか
し、海上自衛隊は軍艦旗を変えなかった。このことにもっとも敬意を表する」

 この軍艦旗を掲げた自衛艦が常時インド洋に抜けていることの国益上の意義は、安倍
総理の歴訪の意義と同じく極めて大きいのである。

 この観点から、テロ特措法延長問題をみない者は、政治家にもっとも必要な歴史を奪
われた「戦争を知らない子供達」、「戦後レジームの申し子」であり、政治家の資格は
ない、政局屋か。

 我が国と欧米諸国と国連は、今「テロとの戦い」の中にいる。このテロの中に、北朝
鮮による日本人拉致も含まれる。従って、インド洋における我が国の活動は、北朝鮮に
拉致された日本人救出努力とも不可分に関連している。

 よって、テロとの戦いにおいて、インド洋での友邦各国の活動が必要であるというな
らば、北朝鮮に対する友邦各国の協力行動も必要なのだ。

 当然、アメリカが、勝手に北朝鮮を「テロ国家リスト」から外し、経済支援を可能と
することは、共に闘う各国とりわけ日本に対する裏切りである。

 さらに、アメリカやNATO諸国や国連が、我が国のインド洋における補給活動の継
続を望むのならば、同じテロとの戦いである北朝鮮に拉致された日本人の救出行動に、
アメリカやNATO諸国や国連がともに取り組む体制をつくるべきである。

 安倍総理の辞意表明の会見は、「テロとの戦い」継続が強調されていた。では、拉致
被害者救出問題とインド洋を以上のように関連づけて直前のAPECの場でも獅子吼し
てくれたのであろうか。

 この点ちょっと、不安が残る。

 要するに、アメリカのブッシュ大統領には、インド洋では我が国の活動継続を要請し
ながら、対北朝鮮では戦線離脱するというような身勝手な行動を断じて許してはならな
い。                                  (了)



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