リトアニア国防省が警告「中国製スマホ、使ってはいけない」 山田 敏弘(国際ジャーナリスト)

【JBpress:2021年9月28日】

「中国製スマホの廃棄を勧める」

 先日、こんな衝撃的な発言が欧州発で広く報じられた。ヨーロッパのバルト三国の一角であるリトアニアで、リトアニア国防省傘下の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が中国製スマホを使わないよう忠告したことで世界中が騒然となったのである。

◆中国を批判し続けてきたリトアニア

 リトアニアは以前より中国の5G関連製品を警戒してきた。今年5月には、安全保障に絡むコミュニケーションを守るための法改正を行ない、中国製の5G通信機器の排除を可決している。また中国の国家情報法など情報関連の法律を念頭に、リトアニアの情報機関は中国企業の危険性を指摘していた。

 そもそもリトアニアと中国との関係は、2020年から悪化していた。リトアニアは2020年6月、中国が強引に法制化した香港国家安全維持法に公式に批判する立場を表明。また今年年5月にはリトアニアの国会が、アメリカやイギリス、カナダやオランダに次いで、新疆ウイグル自治区でジェノサイド(大量虐殺)が行われていると認定している。もちろん中国はこれらに強く反発した。

 だがリトアニアの態度は変わらなかった。今年年7月には、リトアニアが首都ビリニュスに、欧州初となる「台湾」という名前を冠した「台湾代表処」(大使館に相当)を開設すると発表。猛反発した中国側が駐リトアニア大使を召喚する事態に発展した。

 このように対中関係が悪化している中、リトアニアのNCSCは8月、中国製品の安全性を調査した調査結果を公開したのだ。

「中国製スマホを購入しないこと、すでに購入したならできるだけ早い廃棄を勧める」

 その文書(https://www.nksc.lt/doc/en/analysis/2021-08-23_5G-CN-analysis_env3.pdf)のタイトルは「リトアニア国内で販売されている5Gモバイルデバイスに関するサイバーセキュリティの評価–ファーウェイ、シャオミ、ワンプラスによって製造された商品の分析」。最初から中国のスマホメーカーに疑いの目を向けていたことがうかがえる。

 今回の調査で対象となったのは、中国の華為技術(ファーウェイ)の「Huawei P40 5G」と、小米科技(シャオミ)の「Xiaomi Mi 10T 5G」、中国のOPPO社の傘下のスマホメーカー「OnePlus」の「OnePlus 8T 5G」という、いずれもハイエンドな5Gスマホだ。

 この調査報告書を公表する際に、マルギリス・アブケビシウス国防副大臣は記者団にこう語った。

「私たちは、中国製の携帯電話を新たに購入しないこと、またすでに購入した携帯電話はできるだけ早く廃棄することを勧めます」

 いったいどのような調査結果が出たのだろうか。

 NCSCは、これらのスマホに関して、製造時にインストールされるアプリのセキュリティ、個人情報の流出リスク、表現の自由の制限などの点で、何らかの問題がないかを調べた。

 報告書ではまず、ファーウェイやシャオミなどのスマホは、グーグルのOSであるアンドロイドを使っているが、それぞれのメーカーがデータ収集など独自の設定を設定しているため、アンドロイドのセキュリティを安全に保つセキュリティアップデートが遅れてユーザーに配布されることになり、アンドロイド側が推奨するアップデートを迅速に行えないリスクがあると分析している。

 そして調査では、対象となったファーウェイのスマホには2017年から2021年までに144件の脆弱性が発見されており、シャオミでは情報漏洩につながるかもしれない脆弱性が9件あり、OPPOでは外部アプリをサイバー攻撃者が悪用できる脆弱性が1件発見されていると指摘している。

 アップデートが遅れるということは、こうした問題をすぐに解消できない可能性があるということだ。

 ではスマホメーカーがそれぞれ行なっている独自の設定とはどういうものだろうか。調査ではそこにリスク要因があると見ている。

◆アクセス履歴などが勝手にスマホから国外のサーバーに

 まずはファーウェイ。ファーウェイの純正アプリストアが、ユーザーを安全性の低い外部からアプリをダウンロードさせるリスクがあるとしている。知らぬうちに悪意あるマルウェア(不正プログラム)やウイルスが感染しているものもダウンロードしてしまう可能性を警告している。

 さらに、外部アプリストアなどは欧州のGDPR(一般データ保護規則=EU域内でのユーザーのデータ保護やセキュリティ対策のための規制)が及ばない地域であり、GDPRによって保たれている欧州の安全基準を満たしていないことを留意すべきだという。

 またシャオミの場合は、プリインストールされたアプリが、ユーザーの動きを統計データとして、クラウドを提供する中国IT企業テンセント社のサーバーに送られることが判明した。またプリインストールされたインターネット用ブラウザ「Miブラウザ」が、ユーザーのアクセス履歴や検索データなど61に及ぶ統計情報をシャオミ側のアクセスできる分析サーバーに送られていると指摘している。

 つまり、ユーザーの認識のないままに個人データが、他国のサーバーに送られ、安全に脅威となる可能性があるという。

◆「要警戒ワード」を“検閲”するスマホ

 だが最も衝撃的だったのは次の点だろう。

 シャオミの「Mi 10T 5G」が、コンテンツのアクセス制限をしていることが判明した点だ。シャオミのスマホの「Miブラウザ」が、449個にのぼる特定の単語を検知すると、勝手にアクセスを制限する機能があることがわかったのだ。

 この449個の単語とは、中国国内でも中国共産党がアクセス制限をしている“要警戒ワード”だ。

 「Free Tibet(チベットに自由を)」「Voice of America(ヴォイス・オブ・アメリカ=米政府のメディアの名前)」「Democratic Movement(民主的な運動)」「Longing Taiwan Independence(台湾独立への切望)」などである。

 以下に「禁止ワード」の一部を列記してみよう。

<中国語:日本語>宗教虔信者??:宗教信者の組織西藏自由:チベットに自由を蒙古独立:モンゴル独立89民?:89年天安門事件基督?恩布道?:キリスト教カリスマ派布教団伊斯??盟:イスラム連盟民?:民主化運動?女委?会:女性委員会伊斯??格里布基地??:イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ台独万?:台湾独立への切望美国之音:ヴォイス・オブ・アメリカ

 どうだろう。「ユーザーに対する情報統制をする気満々のラインナップ」と言えるのではないだろうか。欧州連合(EU)内では現在、これらの機能は非アクティブ化されているが、メーカーサイドはいつでもリモートでオン状態にできるし、単語を追加することも可能になっているという。

 ちなみにシャオミ側ではこうした指摘に「ユーザーとの間の通信を検閲しない」と反論している。

◆中国の好感度、ヨーロッパで急降下

 リストニアはもともと旧ソ連から独立した国で、共産系や強権的な国に対して厳しい対応を見せている。ここ最近の中国との関係悪化を背景に、今年3月には、リトアニアの女性国会議員ドヴィーレ・シャカリアーナ(Dovil? ?akalien?)が中国政府によるウイグル族への迫害を批判し、「中国共産党からブラックリストに加えられた」と報じられた。

 この議員は、欧州など世界各地の政治家などとツイッターで中国批判のメッセージも作成して、最近公開し(https://twitter.com/DSakaliene/status/1437177023609331712)、中国のような強権的な国家の脅迫には屈しないと声を上げている。こうした動きには、かねてから5G通信機器などで中国企業の排除を進めてきたアメリカのトニー・ブリンケン国務長官が、「リトアニアをNATO加盟国の密接な同盟国として支持する」とツイートしている。

 欧州では、中国を発生源とする新型コロナ感染症の蔓延や、その後の責任逃れをしようとする中国政府の対応、さらに香港の安全維持法制定、ウイグル族への迫害などで中国に対するイメージがかなり悪化している。米ピュー研究所の欧州先進国9カ国(ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、スペイン、ベルギー、スウェーデン、オランダ、ギリシャ)への調査で、中国を好ましくないと思っている人の割合は66%で、好意的に見ている人は28%だけだった。ちなみに一番中国を嫌っているのはスウェーデンで80%の国民が中国を批判的に見ている。

 2019年にG7の中で初めて中国の「一帯一路」に参画する覚書を交わしたイタリアも、今年2月に首相になったマリオ・ドラギ氏などは、中国に対して「多国間のルールを守らない専制国家、民主主義国家と同じ世界観を共有していない」と厳しく批判するようになっている。

 そうした中、今回の「検閲機能付きスマホ」という調査結果の公表は、さらに大きなイメージダウンの要素になるだろう。

◆ファーウェイ副会長の解放と引き換えに、中国政府も拘束中のカナダ人を釈放

 さらに最近、ファーウェイをめぐってはこんな動きが最近あった。

「3年前、カナダで逮捕され、アメリカ司法省に詐欺の罪で起訴されたあと、一部の責任を認めることなどを条件に起訴を猶予する司法取引に合意した中国の大手通信機器メーカー、ファーウェイの孟晩舟副会長が、25日夜、中国に帰国しました(中略)一方、孟氏が逮捕されたあとに中国でスパイ容疑で拘束され実刑判決を受けたカナダ人実業家のマイケル・スパバ氏ら2人は現地時間の25日の朝、日本時間の25日夜、カナダ西部のカルガリーに到着しました」(NHKニュース、2021年9月26日)

 皮肉なことに、人質交換のようなこのやり取りで、ファーウェイの副会長の一件に深く中国共産党が関与している実態を世界にさらす形となった。

 そんな中国をめぐる対応で今、欧州ではリトアニアが中国を批判する急先鋒となっている。それだけに、中国が覇権争いの道具に使っている5Gやスマホなどのテクノロジーを、リトアニアが糾弾するのも当然だろう。

 世界中でイメージ戦略や情報工作を展開し、自分たちの正当性を広めようとしている中国共産党にとって、リトアニアは厄介な存在となっていきそうだ。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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