パナソニックが半導体事業から撤退することを受け、「日本勢の没落の象徴」などと受け止めた悲観的な記事が多い。
ところが、日本経済新聞は「これにより、IT(情報技術)分野で日台の産業連携に弾みがつきそうだ」と報じ、「技術力を生かし切れていない日本企業と補完し合い、事業や製品の付加価値を高め、コスト競争力が頼みの成長モデルから脱却を目指す動きが活発化している」と伝えている。
かつて李登輝元総統は、浜田宏一氏との共著『日台IoT同盟』で、日本の先端技術と台湾のセンサー技術が合体すれば、第四次産業革命が成就し、中国をも取り込めると喝破し、世界でもっとも親和性の高い日本と台湾が手を携えれば、必ずや新しい産業革命がアジアから発進すると指摘されたことがある。
日本経済新聞の記事も、ほぼ同じ視点から書かれていて、台湾の企業家が「台日連合は世界市場を開拓する最適なパートナー」と指摘していることを紹介している。昨日の本誌でお伝えした東京大学と台湾積体電路製造による産学連携も、東大が半導体チップの設計デザインに関する研究を行い、TSMCが試作品の製造に向けた環境などを提供する補完的連携だ。
下記に、パナソニックが発表した「ニュースリリース」と日本経済新聞の記事を紹介したい。
◆パナソニック「ニュースリリース」:半導体事業の譲渡について[11月28日] https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/11/jn191128-1/jn191128-1-1.pdf
—————————————————————————————–台湾IT、中国台頭で対日連携に活路【日本経済新聞:2019年11月28日】
【台北=伊原健作】パナソニックが半導体事業を台湾の新唐科技(ヌヴォトン・テクノロジー)に売却することを決めた。これにより、IT(情報技術)分野で日台の産業連携に弾みがつきそうだ。台湾のIT関連企業は中国勢の脅威に直面し、事業や製品の競争力強化が喫緊の課題に浮上している。高い技術力と人材を擁する日本企業への関心が高まっている。
「日本企業との提携やM&A(合併・買収)を探る相談は2016年以降、増え続けている」。台湾の半導体業界関係者は説明する。16年は電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを買収した年だ。シャープは傘下入りから2年弱で、4期ぶりの最終黒字に転換した。台湾では日台連携の象徴的な成功例、との位置づけになっている。
台湾企業は中国生産によるコスト削減と果敢な投資判断で電子産業の集積地としての地位を築いた半面、息の長い研究や技術開発が弱点になっている。近年は台頭する中国勢に役割を浸食される「紅い供給網(サプライチェーン)」の脅威論も高まる。技術力を生かし切れていない日本企業と補完し合い、事業や製品の付加価値を高め、コスト競争力が頼みの成長モデルから脱却を目指す動きが活発化している。
パナソニックの半導体事業を買収するヌヴォトンと、親会社の華邦電子(ウィンボンド・エレクトロニクス)も技術や人材を取り込み、成長分野である自動車・産業関連の製品開発力を高める狙いがあるとみられる。
ウィンボンドはDRAMや「NOR型フラッシュ」などデータ記憶を担うメモリーを手掛ける有力企業だ。ヌヴォトンは08年、ウィンボンドの演算処理半導体を手掛ける部門が分割される形で発足し、電子機器を制御するマイコン(MCU)などを手掛けている。
半導体は既に中国勢が席巻する液晶パネルなどに比べ台湾側に優位性がある。ただ、中国政府は米国とのハイテク摩擦でカギを握る半導体の自前化へ膨大な資金をつぎ込み、育成を急いでいる。20年には中国がDRAMやNAND型フラッシュメモリーの本格量産と出荷を始め、台湾勢を猛追する可能性がある。
19年1月には半導体受託生産世界4位の聯華電子(UMC)が富士通の三重県の半導体工場を買収した。同年2月には産業用コンピューター大手の台湾・研華(アドバンテック)がオムロンの子会社を買収している。
研華の共同創業者である何春盛氏は17年の日本経済新聞のインタビューで、「東芝やソニーなど日本の電機大手がかつて台湾に製品生産網を築いたおかげで、我々のIT産業が育った」と述べ、日台企業は歴史的につながりが深く、親和性があると指摘した。「台日連合は世界市場を開拓する最適なパートナーになれる」と強調していた。