今後、議会の審議を経て正式決定されるが、米国が台湾に戦闘機を売却するのは、李登輝総統時代の1992年以来27年ぶりだという。
狙いは、もちろん台湾との連携を強め、中国の南シナ海や東シナ海への侵出を阻止することにある。しかし、この武器売却にはもう一つの狙いがあると指摘するのが、上岡龍次氏(戦争学研究家)だ。米軍の韓国撤退が伏線にあるという。下記に「大紀元」紙のコラムをご紹介したい。
—————————————————————————————–在韓米軍撤退の布石 上岡 龍次(戦争学研究家)【大紀元「上岡龍次コラム 」:2019年8月18日】
◆F16戦闘機、台湾へ輸出
アメリカは台湾にF16戦闘機を輸出する。台湾が国防を行うには戦闘機隊が第一。空軍力で台湾付近の制空権を獲得することで、中国の海洋進出を阻止できる。アメリカはようやく台湾軍の戦力拡大を選んだ。
◆海に囲まれた国の防衛
戦場で必用なのは制空権。制空権を獲得することで制海権を獲得できる。台湾軍に必用なのは戦闘機隊が第一で第二に海軍。陸軍は遠征でしか使えない。これは海に囲まれた国の宿命。何故なら海に囲まれた国は、敵軍に海を奪われた段階で終わり。
制空権を敵軍に奪われたら制海権も奪われる。そうなれば敵軍は空と海を庭の様に自由に行き来できる。これで敵軍の陸軍は敵国に上陸。仮に国内で陸軍が戦闘しても持久戦は不可能。
外国との貿易を遮断されたら輸出入は停止。外国から支援を受けられないし必用な物資も無い。せいぜい1ヶ月の陸戦で終わり、後は包囲殲滅線になる。これが現実の戦争史。
それだけ戦闘機隊の存在は大きく、制空権を獲得した軍隊が有利になる。これは陸戦も同じで、北アフリカ戦線で砂漠の狐と呼ばれたロンメル将軍は次の言葉を残している。
「航空劣勢では陸戦原則が制限される」
それだけ制空権は重要で、台湾の国防には戦闘機の増強が第一。陸軍戦力は敵国の海岸に上陸する遠征部隊でなければ価値を持たない。これは海に囲まれた国の宿命。
◆南シナ海への進出が困難になる中国海軍
これまでのアメリカによる台湾に対する軍事支援は陸軍が多かった。本来必用な空軍と海軍の軍事支援は無いも同然。だが台湾空軍の戦力が増強されると、台湾は東シナ海と南シナ海の出入り口を管制することが可能になる。
これで人民解放軍海軍は太平洋に進出することが困難になり、さらに南シナ海への進出も困難になることを意味している。人民解放軍海軍は大陸に配置した自軍の戦闘機隊の支援が困難になり、海岸部での優勢を失うことを意味する。つまり中国の接近阻止戦略における、海岸部での数の優勢を失った。
中国は接近阻止戦略を破砕されるので、台湾にF16戦闘機輸出に反対する。アメリカ軍が中距離弾道ミサイルを持てば相互に撃ち合える。これだけでも接近阻止戦略は破砕される。さらに台湾軍の戦闘機が増強されたら、段階的にアメリカ海軍を迎え撃つ意味も失われる
◆低下する韓国の価値
アメリカが台湾空軍を増強する理由は、韓国を捨てて国防線を台湾・日本まで下げる。在韓米軍を撤退させるには、台湾軍が必用な戦力を持つことが前提。そうでなければ韓国から撤退できない。
それに台湾空軍が強化されたら、東シナ海と南シナ海を管制できる。これはアメリカ軍の代わりに台湾軍が代行する。しかもアメリカ製武器を輸出できるから一石二鳥。アメリカ軍を撤退させてもアジアの軍事バランスを維持できると考えた。そうなれば韓国の価値は低下する。
上岡龍次(かみおか・りゅうじ)戦争学研究家1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。