米国のトランプ大統領をどのように見ているのか、日米同盟をどう捉えているのか、台湾の見方を代表する李明俊氏の見解かと思い、ここにご紹介したい。
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李明峻(り・めいしゅん)1961年(昭和36年)生まれ。台湾大学卒業。京都大学で博士号取得後、岡山大学法学部准教授を経て、中原大学財務経済法律系助教授、新台湾国策シンクタンク研究発展長などをつとめ、台日文化経済協会副秘書長、台湾安保協会副理事長も兼任。専門は国際法、台湾を含めた東アジの国を含めた東アジの国際政治。李登輝学校研修団で何度も講師をつとめていただいていて、重要な日本研究者の一人。
—————————————————————————————–トランプのインド・アジア太平洋地域戦略下における日台関係李明峻(台日文化経済協会副秘書長)【台日文化経済協会通訊:2017年12月冬期号(第39号)
米国のトランプ大統領はアジアを歴訪し、日本・韓国・中国・ベトナム・フィリピンの五力国を相次いで訪問し、アジア諸国の元首やインドのモディ首相らと会談した。「アメリカファースト、公平で互恵的な貿易の原則」という経済理念を繰り返して、経済面で収穫を挙げて帰国し、また中国の拡張を抑制するために「インド・太平洋地域」戦略を打ち出した。
引き続き、トランプ大統領は、米国はこれまでにない強さと自信によって世界からの尊重を勝ち取ると表明し、就任後最初の年に議会に国家安全保障戦略報告を提出し、中国とロシアを米国の経済的地位に挑戦し、米国の繁栄と安全保障を脅かす主要な脅威となる国と指摘した。明らかに、アジア歴訪後のトランプ大統領の動向は、アジアの安全保障や戦略情勢に重大な影響を与えていることから、我々はもはや過去の思考の延長線からアジアの今後の安全保障情勢の発展を捉えるべきではない。
まず、朝鮮半島は北東アジア地域の中心に位置し、韓国は台湾と日本にとって極めて重要な国家である。韓国は、日本にとっては中国とアメリカに次ぐ第3の日本の貿易パートナーであり、韓国からしても日本は中米に次いで第3の貿易パートナーであり、日本と韓国は経済的な連携が緊密であるだけでなく、国家安全保障においても同様に緊密な関係にある。
台湾からすると、朝鮮半島は常に台湾の運命を決める重要な鍵であり、1894-95年の日清戦争の結果、台湾は中国を離脱して日本の領土となり、1950-53年の朝鮮戦争では、台湾は自由陣営に入って共産党の統治を免れた。
こうした歴史は、朝鮮半島の平和と安定、南北朝鮮の関係の発展は北東アジアの安全保障とその発展にも関わり、台湾や日本に大きな影響を与えていることを証明している。直面する東アジアの安全保障情勢の変化や、掴みどころのないトランプ大統領の今日までの外交政策が、米国が十年来築いてきたアジア太平洋戦略の基礎に影響をあたえるのか、米中が国際問題においてどのような駆け引きを展開するのか、懸念される課題となっている。
この不確定な局面に対し、台湾がどのように自身の安全保障や平和、ひいてはアジア太平洋の平和や安全保障、安定した発展について考察しているか、今後もより深く観察し注視していかなければならない。
さらに・アリス・ウォルズ米国務次官補代行(南・中央アジア担当)は2017年10月、米国は事務レベルの日米豪印の四ヵ国会談を行い、同じ価値観を有する国家を集結させ、これを日米豪印のハイレベル対話へと進展させ、南シナ海やインド洋からアフリカ地域の自由貿易、インフラ投資、海上の安全保障問題、国防協力等の戦略的な整合を図っていく用意があると表明した。
トランプ大統領が率いる米国のグローバル戦略は東に移っており、アジア太平洋地域が米国の戦略中心の要の要になるのは必至である。トランプ大統領のアジア歴訪と国家戦略報告書からしても、米国がアジア太平洋地域に対し新たな戦略を持っていることは明らかで、この新しい戦略が台湾の将来の発展にも影響を与えることから、台湾はその発展動向に細心の注意を払う必要がある。
長年にわたって、日本のアジア戦略は日米同盟をアジアの安全保障と平和の「公共財」(public Goods)とし、如何なる国に対しても敵対関係とはならず、東アジア地域が現状を維持して紛争が起きないことを願っている。
一般的に、日米は共同で中国に対してディスエージョン戦略(dissuasion strategy)を採っており、これは「囲い込み」でも「敵対」戦略でもないが、日米は中国に対する軍事抑止力の後ろ盾となる力を向上させなければならない。米中は、世界経済体のNo.1、No.2の国家であり、安定した軍事関係を発展させる意思を表明しているが、中国や米軍がアジア太平洋地域で軍事力を拡大し続け、日本も防衛的な軍事力を徐々にレベルアップさせていることから、日米同盟をアジアの安全保障と平和の公共財として維持していくことが求められる。