◆はじめに
連日のテレビ、新聞は武漢肺炎の話題で持ちきりです。感染者が何名になった、何人が亡くなった、市場からマスクが消えた、武漢の病院の姿……これらのニュースを見ていると憂鬱になってきます。311(東日本大震災)の時、テレビを見ていていたたまれなくなったことを思い出します。
そのような気分の時、ほっとするような記事に出会いました。タイトルは、「『我OK,●先領』超讃!」(2020.02.07自由広場)というものでした。訳せば「私は大丈夫、お先にどうぞ」ということでしょう。思わず嬉しくなり、「台湾通信」に書かせてもらおうと思いました。(●=弥の弓をイに)
◆なぜマスクしないの?
この記事に出会う1週間ほど前、台南で友人に尋ねられました。
「傳田さんはなぜマスクをしないの?」
台北の捷運(地下鉄)の乗客は皆マスクをしているとのこと。私は子供のころ、ガーゼのマスクをしたときの鼻に付く嫌な臭いに悩まされた経験があり、マスクは鬱陶しいから嫌なんだと答えました。
そういえば、台中、台南、高雄も空気汚染がひどいとのことですが、私の肺がんの原因はそれかもしれないと思ったりしました。近々日本に戻る予定があり、バスなどを利用するとき、マスク着用を強いられるかもしれないと思い、マスクを手に入れようかと考えました。
とある薬局に入ろうとしましたら、入り口に「マスク売り切れ」の張り紙。売っていそうな場所、コンビニ、スーパー、ドラグストアなど覗きましがどこでもマスクは見いだせませんでした。
私は病気持ち、いざというとき病院のお世話にならないとも限りません。その時、マスクを着用していないと病院に入れないかもしれない、さあ、困った。慌てて日本にいる息子に電話し、マスク入手の可能性を尋ねましたら、日本もマスクは品切れ、品薄、枚数制限だそうですが、何とか10枚ほど送ってもらうことにしました。ところが、春節で郵便局は滞貨の山でいつ届くかわからないというではありませんか。
◆「実名制」
マスク買い占め対策として台湾政府は2月6日から、「実名制」を実施しました。これは健康保険証と身分証明書を提示した者に対して、1人当たり2枚を限度として、健康保険特約薬局において、7日間に1度マスクを購入できるというものです。身分証明書番号の末尾の数字が偶数の者は火・木・土、奇数者は月・水・金、日曜日はだれでも買えるとか。外国人は居留証か出入境許可証を持っていれば購入可能のようですが、私はいずれも持っていませんので、諦めです。
翌日の新聞によりますと、この制度は順調に運用されたようで、「我OK,●先領」運動も効果があったようです。
◆「我OK,●先領」
中国時報電子版(2020.02.06)によりますと、あるネットワーカーがフェースブック上で呼びかけた「我OK,●先領」というマスク譲り合いキャンペーンに既に5000人以上のネチズンが呼応したといいます。
この呼びかけはネチズン林軒さんが、2月6日に開始されるマスク購買実名制に際し、本当にマスクを必要とする人にマスクがいきわたることを願って行いました。というのも、衛生福利部が健康な人や屋外で運動する人はマスクを着用する必要はなく、着用すべき状況は次の4つであると宣言したからです。
その状況とは、(1)病院に出入りする人、(2)発熱または呼吸器症状のある人、(3)免疫力が弱い人、(4)狭い密閉空間で長時間群衆に接触する人のことです。特に強調しているのは、第一線で活動している医療従事者にマスクを残しておこうという呼びかけです。
キャンペーンが開始されると、参加者は4759人、関心を示した人が2531人、大まかにいえば7000人以上のネチズンが呼応したことになります。ネット上で「我OK,●先領」の図柄をプリクラのように貼り付けることができ、すでに20人の立法委員(国会議員)も協力しているそうです。
2月7日の新聞に「我OK,●先領」を絶讃するという投書があり、なぜ台湾でこのような運動が起こりうるのかについて、「台湾には、流行病の防止には政府と国民との共同責任があるというコンセンサスがあるから、そして国民は政府の防疫活動を信頼しているからであり、国民の権利が公の力によって保証されると、市民権は自然に生まれ、人間の本性の美徳も明らかになります」(徐仁輝・世新大学教授)と述べています。
台湾では現在、ネット上の「口◆地図」(◆=羅の維が卓)により、全国のマスクの在庫状況の検索ができるそうですが、これは行政院のデジタル担当政務委員の唐鳳さんが公開したマスクの在庫情報を民間のエンジニアがGoogle地図上で見ることができるようにしたものだそうです(三立新聞網およびmag2NEWSより)。
◆マスクは有効か?
連日、武漢肺炎のニュースが流され、患者数や亡くなった方が増えていることを知ると、やはり心配になり、マスクをしたくなるのもわかりますが、問題のコロナウイルスのサイズは、国立感染症研究所「コロナウイルスとは」によれば、100nm(1万分の1mm)だそうで、ある方のお話(リハビリコラムNo.06)によりますと、このウイルスをテニスボールとすれば。マスクの網み目の隙間は3メートルくらいに相当するそうです。したがって我々が日常的に使用するマスクは目が粗すぎるため,空気中のウイルスを物理的にブロックする事はほとんどできないことになり、果たしてマスクは有効かどうか気になります。
いろいろ調べてみました。一般社団法人日本衛生材料工業連合会の説明によりますと、マスクは用途から家庭用マスク(カゼ、花粉対策や防寒・保湿などの目的)、医療用マスク(主に医療現場もしくは医療用に使用される感染防止用マスク、サージカルマスクとも呼ぶ)、産業用マスク(主に工場などで作業時の防塵対策として使用されるマスク)に分けられます。
3MカンパニーのHPを見ますと、「『サージカルマスク』は、外科用のマスクという意味で、本来、手術の時などに医師の口から唾液や雑菌などが患者の手術部位に付着しないように開発されたマスクを指します。ウイルスなどの『吸入』を防ぐためのものではありません。 PM2.5や、ウイルスなどの微粒子状物質を体内に吸い込まないためには、『N95マスク』等の防護マスクまたは『防じんマスク』が必要です」と書かれています。N95は米国労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めた規格です。
一般に市場で入手できるマスクはどうも有効ではなさそうに思えますが、次のような解説が目に入りました。それは「粘膜の潤いが感染予防のカギ」として、「粘膜表面にある細かい毛(線毛)や粘液によってウイルスの進入はブロックされるが、粘膜が乾燥するとこれらの機能は低下してしまいますので、粘膜の潤いを保つことが感染症予防には重要になってきます」、「吐いた息によりマスクの内側は湿り気を帯び、吸い込む息の湿度を上げ、粘膜の潤いを良好に保つことができる」ということです。
ウイルス自体は小さすぎてブロックできなくても,ウイルスが混入した飛沫は防ぐことができますし,感染者がマスクをすることで周囲への飛沫の拡散を防ぐこともできます。またマスクをすることで,ウイルスが付着しているかもしれない手で自分の鼻や口に触れる機会も減るでしょうから、マスク着用は効果がある(リハビリコラムNo.06)ということのようです。
◆おわりに
「我OK,●先領」キャンペーンの「OK」はどういう意味でしょうか? 日本語の中でのOKでは「同意」「承認」「承知」「賛成」ということになりますが、ここではマスクを本当に必要としている人にお渡ししたいという気持ち(公徳心)ですから、「私は大丈夫」がいいでしょう。
「私はいい(大丈夫だ)から、必要とするあなたが先に受け取ってください」
これはまさに「公」の精神です。戦前の日本教育を受けられた台湾の人々が、日本人によって教育され、きびしく教え込まれたのが「公」の精神であると強調される、その「公」の精神は、台湾に残っているのですね。