掲載の「隠れた『新住民』問題」という見出しを付した「台湾有情」で「台北市の柯文哲市長がま
た『失言』をした」と書き、柯市長の発言を批判している。
確かに柯市長は「女性蔑視」ということで、何とか足を引っ張ろうとする反柯市長勢力からここ
ぞとばかり叩かれた。しかし、「新住民」というテーマなら、柯市長の発言もさることながら、李
登輝元総統が常々言っている「新台湾人」を引き合いにしてもよかったのではないか。
ましてや、柯市長は本当に女性を蔑視しているのか、これまでの発言を確認してから記事を書い
て欲しいと思ったのは編集子だけではないようだ。これでは、柯市長叩きにやっきとなっている勢
力の代弁者とみられても致し方あるまい。
王明理さん(台湾独立建国聯盟日本本部委員長、本会理事)も産経の台湾報道に違和感を覚えて
いたようで、ひまわり運動を取り上げた3月18日付の記事について「もう少しよく台湾の現状を見
て報告して頂きたい」と苦言を呈している。メルマガ「台湾の声」から転載してご紹介したい。
ひまわり学生運動一周年に関する産経新聞の記事について 王 明理
【メルマガ「台湾の声」:2015年3月22日】
3月18日付産経新聞、田中靖人氏の「台湾 立法院学生占拠から1年」と題する記事について、
少々私見を述べさせていただきたいと思います。
大きい見出しの「第3勢力の台頭遠く」と小見出しの「学生らは散り散りに」は、読者にひまわ
り学生運動が単発的な行動であったことを印象づけてしまいますが、これは現実に即していませ
ん。
学生たちは昨年の4月10日に3週間に亘る議場選挙を終了した後も、形を変えて活動を継続してい
ますし、さらに年下の学生たちにバトンタッチされています。
立法院内で活躍したある若者はこのように話しています。
「これはビッグバンと同じで、大爆発の後どんどん新たな星雲を形作り膨張していくんです
よ。」
台湾では今、若者達も中高年も日本語世代も同じ気持ちで前を向いています。様々な政党や団体
が出来て、次の立法院選挙に向けて活動を開始しています。かつて不毛であった地に、若い芽が幾
つも出て育っているのです。それを「学生たちは散り散りに」と表現しては、日本の読者に誤解を
与えてしまいます。
そもそも、国民党、民進党に対抗する第三勢力を結集することが目的で始めたことではないので
すから、「第3勢力の台頭遠く」と決めつけ、大きな見出しにするのは早急だし、意味がありませ
ん。
もう一点、結びの文章の“「台湾人意識」が強い若年層には、「台湾独立」を掲げていたはずの
民進党が対中関係で軟化していると映るようだ。”という一文も、にわとりと卵の順序が逆です。
民進党が台湾独立を掲げなくなったのは、選挙戦術でした。それでは、民進党の民進党たる所以
を自ら否定したことになり、存在意義が分からなくなってしまいました。しかし、彼らの苦渋もよ
く分かります。
「台湾独立と言ったら武力侵攻するぞ」と中共に脅されている状態では、「台湾独立」より「現
状維持」を望む国民が2008年、2012年当時は大多数だったのです。「選挙に勝つためには中国とう
まくやっていけることを見せなければならない」という戦術を取らざるを得なかった。
ところが、台湾人が「現状維持」のために国民党を選んだ結果、馬英九の傾中政策により、中国
の脅威が増して現状が維持できなくなったのです。そして、皮肉なことにその危機感から「台湾人
意識」が前より強くなり、若者が立ち上がったのです。「民進党が対中関係で軟化している」とい
う現在進行形のような書き方は間違いだと思います。民進党は今、大いに悩んでいるはずです。
産経新聞は、古くから、台湾人の頼りとするメディアです。だからこそ、もう少しよく台湾の現
状を見て報告して頂きたいと思うのです。
(執筆者は台湾独立建国聯盟日本本部委員長)
◇ ◇ ◇
産経新聞オンライン版の記事(新聞では大きい見出しになっていた「第3勢力の台頭遠く」と小
見出しの「学生らは散り散りに」は、オンライン版にはない):
「台湾が中国の一部にならないで」議場占拠1年 中台接近に歯止め
「第三勢力」台頭はならず
【産経新聞:2015年3月17日】
http://www.sankei.com/world/news/150317/wor1503170051-n1.html
写真:立法院に突入した際の状況を、地図を書いて説明する清華大大学院生の黄郁芬さん=12日、
台北市内(田中靖人撮影)
【台北=田中靖人】中国とのサービス貿易協定に反対する学生らが立法院(国会に相当)を占拠
した「ヒマワリ学生運動」は18日で1年を迎える。反中感情と政治不信を背景に起った運動は、若
年層の政治参加意識を高め、統一地方選の与党大敗で中台の急速な接近に歯止めをかけることにつ
ながった。だが、占拠後の運動自体は分散化し、予想された「第三勢力」の台頭には至っていな
い。
「議場は真っ暗で、見えたのは非常口の明かりだけ。(突入に)成功すると思っていなかった」
昨年3月18日夜、議場に最初に入った学生の一人、清華大大学院生の黄郁芬さん(25)はこう振
り返る。前日の委員会審議が「30秒」で打ち切られ、危機感を持った黄さんを含む学生団体の幹部
らは18日午後、突入を決めた。「私の世代で台湾が中国の一部になってほしくない。突入すれば新
聞に載り、時間を稼げる。その間に次の行動を考えるつもりだった」。
運動は想定を超えて広がった。求めていた協定の「撤回」は実現しなかったが、黄さんは「全台
湾の一人一人が立ち上がって社会を変えた。当初の要求の成否より、その意義の方が尊い」と総括
する。
昨年末の統一地方選で馬英九政権の親中政策に「ノー」を突きつけ、与党、中国国民党を大敗に
導いたのも、運動に刺激された若者だとされる。だが、1年後の現在、参加した学生や市民がメ
ディアなどで期待が高まった「第三勢力」と呼べるほどの政治力を確立するに至っていない。
学生らは占拠終了後、複数の団体に分散。指導者の一人は今年2月の立法委員(国会議員)補欠
選に出馬を表明したが、過去の痴漢行為を批判され表舞台を去った。最も注目された林飛帆氏
(26)は、兵役代替服務で活動を“休止”している。運動を支援した弁護士の頼中強氏は15日のシ
ンポジウムで、運動は主張の異なる市民や学生の団体が一時的な危機感で団結したもので、「単一
団体への組織化はすぐにはできない」と指摘した。
若者の政治意識の高まりが、運動を応援した野党、民主進歩党への支持に直結しているとも言い
難い。参加した社会運動家らが、複数の新政党や無所属で立法委員選への出馬準備を進めているこ
ともその証左だ。
1月に政党「時代の力」を設立した林[永日]佐党首(39)は「民進党は結党約30年でしがらみが
多く、主張も矛盾している」と批判。黄さんも「私たちが行動したのは、民進党が協定を阻止でき
なかったからだ」と語った。「台湾人意識」が強い若年層には、「台湾独立」を掲げていたはずの
民進党が対中関係で軟化していると映るようだ。
【用語解説】ヒマワリ学生運動
中国とのサービス貿易協定の批准に反対する学生ら約300人が立法院の議場を23日間、占拠した
運動。支持者が届けたヒマワリが名前の由来。民進党は占拠を支持し、周辺では「50万人」という
支援デモも行われた。学生らは協定の条文ごとの再審査と中台交渉の監視法制定を条件に退去し
た。協定は現在も批准されていない。香港の学生デモにも影響を与えたとされる。
※台湾の声編集部註:林[永日]佐とは、台独ヘビメタバンド「ソニック」のフレディーのこと。