http://sankei.jp.msn.com/world/news/120120/chn12012013250002-n1.htm
去年の10月4日、衆議院副議長公邸に衛藤征士郎先生をお訪ねしたとき、キンモクセイが
満開、ふくいくとした香りで台湾からのわたしたちを迎えてくれました。うららかな日本
の秋を、そこに見つけたのを覚えています。そして、今、台中のわが家のギンモクセイが
満開、近所の友人がお茶にジャスミンの香りをつけるのだとお花を摘んでいきます。
友人が植えてくれた芙蓉(フヨウ)は、夏から今まで、毎日20ぐらいの大きな桃色のお
花を咲かせ、目を楽しませてくれています。その日だけ開く一日花なのに、しっかりと咲
き、夕方には花弁をくるくると巻き、ポトンと落としていくのです。台湾の1月は、東京の
秋や春に相当する気温なのでしょうか。そういえば、寒緋桜(カンヒザクラ)のつぼみも
ふくらんできました。
お花だけではなく、すずめがマンゴーや、竜眼の梢(こずえ)に止まって喜びさえずっ
ています。しばらくすると、一緒に飛び立って屋根の上に飛んでいき、下界を見下ろしな
がら何を品評しているのでしょう。
── 台湾て素晴らしいところだね
── ここに住む人たちが愛情深く、勇気を持ち、豊かな想像力で新しい1年を平和に生
きていくことが出来るように祈りたいね
── 台湾だけでなく、お隣の日本、そして世界中が平和でありますように
ピーチクパーチクとすずめのおしゃべりは続いています。
── そういえば、台湾中が、ブルーと緑の両派に分かれて行われた選挙戦もやっと終
わり、静かになったね。台中の5万人収容できる野球場に、中国国民党の馬英九
(ば・えいきゅう)総統候補が入場すると、ブルーの旗がはためき、タイガーシ
ティ広場に、民進党の蔡英文(さい・えいぶん)総統候補が入ってくると、7万人
の支持者が持っていたピンクの小旗を打ち振り、「蔡英文当選」「蔡英文当選」
とどよめきが起こり、すごかったよ!
── 選挙戦最後の夜、元総統の李登輝先生のお話は、台湾の前途を次の世代に受け継
いでほしいという願いがこめられ、暗い夜空の下、若い人たちの目に涙が光って
いたね。台湾人精神の伝承儀式を行うかのような感動的な場面だった
── 本当にそう。野蛮な白色テロの時代、公にはどこの国からも助けてもらえず、孤
軍奮闘で台湾人が自ら勝ち得た自由と民主主義を、守ってほしいと李先生は語ら
れたのでしょうね
── 熱気に満ちた選挙戦が終わり、結局現職の馬英九総統が再選されたね
■選挙権は不可侵
総統直接選挙が初めて台湾で行われたのは、1996年の3月です。その時期を狙って、中国
は台湾海峡でミサイル演習を行い、台湾人が民主制度に従って公民の権利を行使するのを
阻止しようとしました。「戦争が起こる」と、台湾人が緊張していたとき、当時の李登輝
総統は得ていた情報から、「そのミサイルは空砲だ」と台湾人に安心するよう呼びかけま
した。当時のビル・クリントン米大統領はニミッツとインディペンデンスの両航空母艦を
台湾海峡に派遣し、海域で紛争が起こるのを防止し、選挙が無事に行われた後、台湾海峡
を去って行きました。その年、李登輝先生が初めて台湾人の直接選挙で総統に選ばれたの
です。
それ以来4年ごとに行われる総統選挙で、中国は台湾人の自由意志による選挙権の行使を
あの手この手を使って妨害してきました。例えば、中国で成功した企業家に大きな広告を
新聞に掲載させ、村長を先頭に村民を中国へ招待し、中国へ出稼ぎにいっている商人を、
選挙のために帰国させたりしました。
「台湾公正選挙国際委員会」のメンバー、江口克彦参議院議員は、今月(1月)12日の歓
迎晩餐(ばんさん)会でアジア地区代表として冒頭演説をされましたが、このように述べ
ています。
「選挙権は、選挙民の一人一人の良心によって行われるべきものであり、いかなる人も、
組織も、外国もこれを阻害し、誘惑させる行為を行うことは断じて許されるものではな
い」
■神様は見ています
台湾人が祝う旧暦の本当のお正月はこれからです。今年は1月の23日が新年で、22日が大
みそか、17日は、送神の日です。この日は、門の神、かまどの神、柱の神々が天にお里帰
りをして、一番偉い神様の玉皇上帝に、地上に住む人々の行いの善悪を報告する日だとい
われています。ですから、人間は神々が天に帰る前に、甘いおもちや大根もちを作り上
げ、たっぷりお供え物を並べ、良いことを言ってもらおうと心がけます。賄賂をこんなと
ころでも使うのかとおかしくなります。そして、神様の留守の間に机や門灯などを動か
し、大掃除をするのです。
日本の皆さま、台湾から新春のお喜びを申し上げます。
盧千恵(ろ・ちえ) 許世楷・前台北駐日経済文化代表処代表夫人。1936年、台中生まれ。
60年、国際基督教大学人文科学科卒業後、国際基督教大助手。61年、許世楷氏と結婚。夫
とともに台湾の独立・民主化運動にかかわったことからブラックリストに載り帰国できな
かった。台湾の民主化が進んだ92年に帰国し、2004年〜08年、夫の駐日代表就任に伴って
再び日本に滞在。夫との共著に『台湾という新しい国』(まどか出版)がある。