ア・ラーゴ」に招いたトランプ大統領は、午後7時(日本時間7日午前8時)過ぎから夕食会を始めた。
この夕食会が終わろうとするころ、米国はシリアが「罪もない市民に化学兵器攻撃を行った」と
して、化学兵器による空爆の拠点としたシャイラト空軍基地へミサイル攻撃を始めた。発射したの
は59発の巡航ミサイル「トマホーク」、空軍基地はほぼ壊滅したという。
報道によれば、習主席一行は食事が終わるや早々に宿舎に引き上げたという。中国はシリア問題
では「政治的手段で解決するべき」として、国連ではロシアとともにアサド政権への制裁決議など
で拒否権を行使してきた経緯があるため、習近平主席のメンツは潰されたとも報じられている。
トランプ政権では未だに副長官以下のポストが埋まらないにもかかわらず、また世界が注目して
いるこのような首脳会談のさ中に武力攻撃を命じたトランプ大統領の思惑について、宮崎正弘氏が
「トランプ発言がブラフではなく本気であることを中国に示した」と、昨日発行のメルマガで指摘
している。下記にご紹介したい。
アジア専門家チームの不在がトランプ政権のアジア政策停滞を産んでいるが……
なぜ政権発足から3ヶ月も副長官以下のポストが埋まらないのか?
【宮崎正弘の国際ニュース・早読み:平成29年(2017)4月8日 通算第5259号
大統領選挙中、共和党保守派は、「トランプが共和党候補となったら、ヒラリーに入れる」とい
う「ネバー・トランプ」キャンペーンを組織した。共和党の分裂、一本化が困難となり、共和党選
対本部は混沌としていた。
アーミティジ元国務副長官ら150名の有力者が「ネバー・トランプ」運動にサインした。このな
かに、ブッシュ政権下の高官、とりわけアジア専門家が目立った。それゆえ、国務省、国防相など
枢要な部署で、副長官以下の人事がまだ決まらない。
最大の理由はこのときのしこりである。
トランプに忠誠心を持たない人脈を排撃してきたのはクシュナーとバノンだった。
したがって政治、ワシントンの世界に素人のような、ティラーソン国務長官が指名され、国防長
官も軍人から選抜した。
ワシントンになじみの薄いフリンが国家安全会議入りし、直後からロシアとの密接すぎる関係で
フリンが斬られ、マクマスターと交替するというごたごた。そのおまけがバノンの国家安全保障会
議メンバーからの排除へと繋がる。
脱線ながら、バノンの排除を米国のメディアは大袈裟にかいているが、もともとフリンのお目付
役で入ったのであり、会議には殆ど欠席している。人事抗争という側面が過剰に強調されている
が、バノンは上級顧問としての地位はそのままである。
さてトランプに刃向かったなかにはパット・クローニンがいたが、ハワイの「アジア太平洋安全
保障研究センター」に飛ばされた。クシュナーが「忠誠心が疑わしい」とトランプに進言したから
だとワシントンの情報筋の噂がある。
有力候補と見られながらも人事が凍結されているアジア専門家には、トム・リッジ元HSC長
官、ロバート・ゼーリック元USTR代表(もともと銀行家、USTRのあと、国務副長官を経て
世界銀行総裁)、ジョン・ネグロポンテ(元国家情報長官、国務副長官)らがいる。
いずれもブッシュ人脈に近いため、トランプが決断を遅らせているという。
現在、確実視されているのはマシュー・ポテンガー(ボーイングCEO)が、国務副長官入り。
ジョン・サリバン(ブッシュ政権下の高官)とジョー・フェルターが国防次官入りしそうな雰囲気
である。
後者のジョー・フェルターは中国語に流暢で、『ウォールストリート・ジャーナル』の香港特派
員だった。
▼こんなときにトランプはシリアへ巡航ミサイルを59発お見舞い
ところが、こうした外交国防政策決定上層部が空白状態であるのに、重要な案件は次々と決まる
のである。
米中首脳会談も、ティラーソン国務長官のモスクワ訪問も、ペンス副大統領の日本訪問も、外交
日程に入っている。
そして、4月6日夜、トランプは習近平との会談を終えるや、地中海に遊弋待機中だった米海軍艦
隊に命令をだした。シリア空軍基地を攻撃せよ。
駆逐艦から発射された巡航ミサイルは59発。これは米中首脳会談2日目を前に、北朝鮮で制裁強
化に協力しなければ、米国は「単独で行動を取る」というトランプ発言がブラフではなく本気であ
ることを中国に示したとも言える。
米国はシリアに関してはIS拠点への空爆をしてきたが、アサド政権本隊の軍事施設を攻撃した
ことはなかった。
化学兵器使用が「レッドラインを越えた」と赤ん坊が多数殺されたことへの怒りを表明したわけ
で、これなら米国民も支持するだろうとする計算がある。
ロシアは米国から事前通告を受けたとされるが、「アサド政権が化学兵器を使った証拠はない」
という立場を崩さず、国際的機関の査察もない内にミサイル攻撃をおこなってトランプ政権のやり
かたに衝撃を受けたとする分析もある。