【特報 追う】李登輝前総統 みちのくの旅−真心でもてなす「古きよき日本」

今回の李登輝前総統の「奥の細道」紀行には、台湾から「フォルモサテレビ」「中天
テレビ」「三立テレビ」「TVBS」などのテレビメディアや中央通信社などが同行し、
また日本側は産経新聞、読売新聞、共同通信、NHKテレビなどが同行取材している。

 宮城・山形・岩手・秋田では地元の新聞やテレビ、支局の記者も取材するので、李前
総統の周りは常に取材陣であふれていた。特に台湾メディアは若い女性記者を配し、隙
あらばコメントを求めてマイクを突き出す。警備する側から「相手が女性だから、胸に
でもぶつかったらえらいことだから、ホントやりにくい」と思わず本音が洩れてくる。
それほどに熱心、いや“しつこい”取材ぶりだった。

 その点で、日本の取材陣はおとなしすぎるほどの印象だが、書くことはしっかり書い
ている。
 下記に産経新聞・宮城県版に掲載された「特報」をご紹介したい。李前総統一行を歓
迎した人々がどのように「おもてなし」するかを悩んだことに焦点を当ててレポートし
ている。長くはないが、印象に残るすぐれたレポートだ。         (編集部)


【特報 追う】李登輝前総統 みちのくの旅−真心でもてなす「古きよき日本」
【6月7日 産経新聞】

 台湾の李登輝前総統が来日。松尾芭蕉の「奥の細道」をたどる旅で東北各地を訪れた。
行く先々で李登輝氏を待ち受けていたのは、みちのくの「おもてなし」だった。(金谷か
おり)

 ♪うさぎ追いしかの山 小ぶな釣りしかの川−。

 会場に響くのは、仙台市の常盤木学園高校音楽科の生徒80人が歌う『故郷(ふるさと)
』だ。

 3日、仙台市青葉区上杉の勝山館で「奥の細道探訪 李登輝先生を囲み歓迎するつど
い」が開かれた。宮城県日台親善協会と日本李登輝友の会宮城県支部の共催。親善協会
長の相沢光哉県議(68)は「李登輝氏は、スピーチよりも日本の文化でお迎えしたいと
思った。歌は一番心に響く。李登輝氏も知っている歌を選びました」と話す。

 相沢氏は宮城県内での李登輝氏のスケジュール作りに悩んだ1人だ。

 「旅はあくまでもプライベート。李登輝氏の体調も考え静かに見守りたい」という声
と、「初めて東北を訪れてくれるのだから、みんなで大歓迎したい」という意見に分か
れたからだ。

 「それぞれが李登輝氏を思っての意見。調整が難しかった」。悩んだ相沢氏は多賀城
碑、塩釜神社、瑞巌寺と円通院というコースを提案。李登輝氏や曽文恵夫人の体調を聞
きながら何度もスケジュールを調整し直した。

 3日の歓迎会も、当初は曽文恵夫人は出席しない予定だったが、体に負担がかからな
いよう時間を調整した上で、当日朝に出席返事をもらった。

 そして相沢氏が選んだ日本文化は『荒城の月』と『故郷』だった。

 高校生が高く低く歌い上げる懐かしい曲。日本統治時代の台湾に生まれ、22歳まで日
本人として生きた李登輝氏にも伝わったようだ。

 同行した台湾総統府の元国策顧問、黄昭堂氏(74)も「高校生の歌は、すばらしいご
ちそうでしたね」と感激した様子だった。

■  ■

 李登輝氏歓迎は山形にも広がった。

 「奥の細道のポスターはここでいいかな」「熱烈歓迎の紙を外に張ろうかな」

 3日午前10時すぎ、李登輝氏が昼食を予定していた山形県の立石寺近くにある料理店
「山寺風雅の国」は歓迎準備に追われていた。

 一汁七菜の精進料理で李登輝氏を迎えたのは岡田純一総料理長(46)。考え抜いたメ
ニューは、山形県のトップブランド「上山産はえぬき」を使ったソラマメご飯に始まり、
ワラビやタケノコ、ミソまで山形産食材にこだわった。

 「雲流ごま豆腐」は白と黒のゴマで立石寺にかかる雲をイメージ。

 小鉢には「ひょう干し」という野草を使った。「ひょっとしていいことがあるように」
と願いを込めたもので、普段は正月に食べる料理。ほかにも、干しアケビのミソ炒め、
ヤマイモを蒸してオオバで包んで天ぷらにしたものや、デザートには砂糖とレモンで甘
くしたダイコンおろしをかけて食べるオリジナルの寒天などがずらり。

 岡田総料理長は「県内食材を食べることで芭蕉の足跡が見えてくるのではないかと思
ったからです」とこだわりを語る。

 「器も凝りました。料理用ではない煎茶(せんちゃ)の茶器に盛りつけてみたが、李
登輝さんなら遊び心が分かっていただけると思いました」とほほえむ。

 岡田総料理長はこう言った。「精進料理の良さを、日本人にも、もう一度見直して
ほしい」

 日本人が忘れかけている、古きよき日本を知る李登輝氏の「日本人は自分の国の文化
にもっと誇りを持ちなさい」という言葉と、岡田総料理長の言葉が重なって聞こえた。

■李登輝氏の奥の細道行 台湾の李登輝前総統は5月30日に来日。31日に東京・深川の
芭蕉記念館を訪問。1日には後藤新平の会から後藤新平賞を受賞し記念講演。
 2日に仙台入り。多賀城碑、塩釜神社、瑞巌寺と円通院を訪れ、五大堂を背景に記念
撮影。「松島や 光と影の 眩しかり」という俳句を披露。
 3日に山形へ。立石寺を訪問、仙台市内では宮城県日台親善協会と日本李登輝友の会
宮城県支部共催の歓迎会に出席した。その後、岩手県平泉を訪れ、秋田では国際教養大
で講演した。

写真:住職らと談笑する李登輝氏(中央)と曽文恵夫人=2日、宮城県松島町の円通院

写真:仙台で行われた歓迎会。常盤木学園高の生徒たちが「故郷」を披露して李登輝氏
   を出迎えた=3日、仙台市青葉区の勝山館

写真:李氏が昼食をとった山形市山寺の料理店「山寺風雅の国」の岡田純一総料理長。
   もてなしに心を尽くした一人だ=山形市山寺